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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

脇本雄太とコーヒーの関係「競輪選手に必要なもの、違いの分かる男はあの人でした」

2022/11/19 (土) 18:00 36

11月22日に幕を開けるGI「第64回競輪祭」を前に脇本雄太が究極の趣味としているコーヒーについての思いを語った。なぜ、コーヒーなのか…。選手仲間たちと共有する時間をつぶさに説明する。そして、新田祐大がグランドスラムを決めた寛仁親王牌を見て、また地元福井FIを3連勝して現在、その後の平原康多との合宿はどうだったのか。(取材・構成:netkeirin編集部)

近畿地区プロ自転車競技大会前日の脇本雄太

覚悟を決めた古性の走りに惹きつけられた

 10月23日、前橋競輪場で開催されたGI「第31回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント」の決勝で新田祐大(36歳・福島=90期)が優勝し、史上4人目となるグランドスラマーになった。

「すごい偉業を達成したな…と。でも新田さんはグランドスラムを決めて不思議じゃないと思ってました。ナショナルチームで長く一緒にいて、それに世界選手権の銀メダリストですからね。ただ決勝を見ていて、そこよりも目が行ったのは…」

 決勝戦、先行しているのは1番車の古性優作(31歳・大阪・100期)だった。その白いユニフォームが、いつもよりはっきりと見えた。「古性君の先行に目が行ったんです。近畿の先頭で頑張ることの意味を感じているんだ…と」。網膜に焼き付くような走りがあった。

 村上義弘さん(73期=引退)がいなくなった後のGI戦。脇本は出場できなかったが、古性の走りを見て感じるものがあった。その姿に「覚悟を決めた男の走りを感じたんですよ。村上さんが乗り移ったような」と“魂”を見たのだ。

寬仁親王牌決勝最終ホームを先頭で駆ける古性(白・1番)(撮影:島尻譲)

 脇本自身としてはグランドスラム達成に向けて、次の競輪祭と、全日本選抜の2つのタイトルを残す。まずは「競輪祭は最高着が2着なので、その上を」目指していく。「置くところの目標をしっかり持っていないと崩れるんで」と明確だ。グランプリを含めてのグランドスラム達成をはっきり目指している。

 前走としては地元の福井のを3連勝で飾った。手応えは「何とも言えない。ビミョ〜(笑)。ただ寒くなってタイムが落ちるころに、タイム的にキープできていたのはよかった」と分析する。手強い北津留翼(36歳・福岡=90期)もいての戦いで、決勝戦は後位が競りだった。

「後ろが競りのやりづらさはよくわかっているんですが、その中での対処法が見えた感じで(三谷)竜生と決められたのはよかった。さすがに3番手まで、というのは難しかったんですが」

「競輪界の国境」を乗り越えて

 そして、呉越同舟。ライバルとの合宿に向かった。まさか、平原康多(40歳・埼玉=87期)のいる西武園で練習をともにしたのだ。グランプリで連係したという物語をもつ2人だが、根本は完全に敵。お互いが最も恐れる、敵同士だ。

「同じ日本人でも国境がある感じなんですよね。でもそうした地区を越えて、グローバルに、っていうんですかね。そういうのを企画するのはボクしかいないだろうと。8月の西武園オールスターの時から話していたんです」

関東の総大将・平原康多(撮影:島尻譲)

 これまで敵同士であっても、練習方法や道具など、様々な情報交換はしてきた。ただし「言葉でどうこうよりも、実際に乗った方がわかる」。目先の結果ではなく、競輪界全体が大きく進むために、扉を開けた。「教える立場の方が多かったですかね。平原さんが悩んでいる部分もあったり、宿口(陽一)さんにしてもそうでしたし。ただ宿口さんがすぐに京王閣で記念を優勝したのはたまたまでしょうけど(笑)」。

 自身の経験を伝えつつ、やはり感じるもの、刺激になることばかりだった。一番感じたのは「持っている型を捨てるのに、平原さんは抵抗がないんですよ。とりあえず今までのものを捨てて、最初からやるんです」という態度だった。プロ選手なら誰しも「ある程度力の入るフォームの練習とか持っているものなんですよ」。どこかで頼るべき自分の型を持っている。

 それを捨てる。平原の強さの秘訣を感じたり、他の選手との交流を深めたり、で競輪選手としての枠が広がった。

豊かな時間を生み出してくれるコーヒーの存在

 そんな“人とのつながり”を大事にする脇本の趣味がコーヒーだ。でもなぜ、コーヒーにたどり着いた? スポーツ選手として有効なのか、単純に人間生活で効果的なのか。

「競輪選手ならでは、で必要なものでしょうね」

 競輪選手という特異な職業、環境面での重要性を解く。開催中は「外に出れず、内にいるしかない。リラックス方法も限られる中で、リラクゼイションとして必要です」と、シリーズの中でのリズムを保つのに重要なツールだという。その上で脇本自身の心もやわらげる。他の選手にふるまうことで「その人の好みをりつつ、その人がどんな人なのかがよく出るんで観察するのが面白いんです」と楽しめる。

 そこには人懐っこいワッキーがいる。コーヒーだけで人を見ても「飲むことにしっかり興味を持っているか、そうでないのか。ただカフェインを摂れればいい、という人もいる。飲んでいる反応とか、面白んですよ」と豊かな時間を過ごせる。

人懐っこいワッキースマイルを見せる(撮影:島尻譲)

 よくわかってないだろ! という人もいるそうだが「作らないけど、味をとらえているのが村上さんでした。高くていいものをちゃんとわかる。グルメでした」。センスを感じているのは「リョーマ(坂本亮馬)。作ることに凝っているし、いいこだわり方をしている」という。

 いろんな人たちを観察していて「鷲田佳史さんとか伊原弘幸さんもいいですね。佐々木豪は奥さんがコーヒー関係の仕事をしているので頑張っている」。ナショナルチーム時代には“ワキバックス”と呼ばれ、重宝される存在だった。

 特にブノワは「味の違いのわかる男です。よく判定してもらいました。本当にグルメですから。ジェイソンは飲んでるだけ(笑)」と、指導者として以外にも信頼していた。最近のブノワは「納豆にハマっているらしくて、しょうゆもかけないし、ご飯もなし、だそうです。もうね、日本人になったどころか、日本人を超え始めてます」とのことだ。

 最近のこだわりの豆は「ゲイシャ、ですね。パナマ、ゲイシャで調べてもらえるとわかります。コーヒーはいろんな種類がブランド化していて、たくさんあるんですけど。ゲイシャは100グラム9000円くらいかな」という逸品だ。「とにかくこだわり始めたら、とことんまで行くんで」という男だけに、バックを踏むことはない。

 コーヒーの世界をも極めようとしており、もしかして「将来的にはコーヒー農園とか、開くの?」と推察されるが「それはない! 栽培まではやらない!」と答えた。そして一瞬、考えて「業務用の焙煎器は欲しい」とつぶやいた。

「800万円くらいするのがあって、もう家庭用じゃ足りないんで…」

 またそんな…、奥さんに怒られないの…。

「怒られそうだけど…、いや、まあ、置くとこないのに買うとかなら怒ると思う。ちゃんとして買うなら、ね。許可を取って、っていうか、まあオレもオレだから買っちゃうんでしょうけど、ただ置くところとかそういうのはちゃんとして、ね、そういうのは。ま、たぶん、大丈夫…」

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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