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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

【脇本雄太連載コラム】初のKEIRINグランプリ優勝、その先に見えた景色は!?

2023/01/09 (月) 15:00 57

グランプリ初制覇!!! 平塚競輪場で昨年12月30日に行われた「KEIRINグランプリ2022」を脇本雄太が完全無欠のパワーで制圧した。早い段階からレースが動いた究極の心理と肉体のストロングバトル。歓喜の瞬間にたどり着いたワッキーは、あの時何を感じ、何を考えていたのか。(取材・構成:netkeirin編集部)

日本選手権競輪、オールスターに続きグランプリを制した2022年(撮影:島尻譲)

2022年はGI・3勝に獲得賞金は3億円越え、次の目標は!?

 輪史最強を我が物とするワッキーの体の中には達成感や感動の渦、劇的なドラマのクライマックスはなかった。まだまだ途上ーー。表情は喜びよりも精悍さに満ち「僕の中では、自分自身の実力だけではなく、いろんなものがかみ合って勝てた感じ。自分の力だけじゃないなって、すごく思ったんです」と話す。

 古性優作との絆。また昨年後半はぶり返したケガとの戦いもあった。支えてくれた人たちは、少なくない。北日本が4車結束するという不利な構成でもあった。松浦悠士の動きが大きなアクセントとなり「流れ上、恵まれた感じがありました。だからもう、元日から練習してましたね(笑)」。大きな栄誉を手にしても、体は「もっと強さを」と欲した。

「ファンが久しぶりにたくさん入っていて、グランプリはやっぱりいいな…と思いました。選手入場のタイミングの歓声もすごかったですし、レース後も大歓声で…」

 熱烈なファンの後押しにも感謝しつつ、ただ、そこにいるだけではいられない。つかむことはできたが、つかみ取ったものではない。ワッキーの悪魔的な欲求は、不満を募らせることを選んだ。

 レースを振り返る。狙いはどうだったのか。

「初手は北日本の後ろが理想でしたが、郡司(浩平)君も平原(康多)さんも位置にこだわる感じでしたね。何より、みんな思ったよりスタートが早かった(苦笑)」

 後方に落ち着いてからは「松浦は何かするんだろうな、と思ってました。ただ1番前まで出て行ってからかな、と思っていたので番手に行ったのは意外でした」。松浦の狙いを整理しつつも、自分の仕掛けに集中した。赤板を過ぎたところは「誘導が退避したのも確認できたし、その時点でペースも上がっていたので、あとはいつも通り車間を切って、前が詰まってきたところで踏む」と神経を研ぎ澄ました。脇本雄太が脇本雄太であることの証明ーー。

平塚競輪場の大歓声に応え異次元の捲りを見せた(撮影:島尻譲)

「あそこで行ってなかったら、まあそれも紙一重だとは思うけど、優勝はなかったと思う」

 加速に加速を継ぐもがきで、新田祐大の番手まくりを乗り越えて3角では先頭。そのまま押し切って古性との近畿ワンツーが2車単1番人気、3着郡司浩平で3連単1番人気という決着だった。年間の獲得賞金額は公営競技史上初となる3億円を超えた。

「3億円達成ということですが、稼いだ賞金は何に使うと決めているわけではないので、ずっとただ貯めている感じなんです。欲しいものはその都度好きに買ってきたし(笑)。ただ何もしないわけにもいかないなというのがあって、……、僕の亡くなった母と、姉の仕事が看護師なんですよ。医療従事者は今も相当苦しい思いをしているので、赤十字に寄付をと思ったんです」(※日本赤十字社福井支部に200万円を寄付)

 母と姉の存在は甘えん坊のワッキーには、特別な存在。家族への思いと、日の丸を背負ってきた立場ある人間としての行動だった。長く競輪界のトップ選手という立場にあるため、求められるものが多すぎて自由な時間は少ない。何の気兼ねもない時間も欲しい…、が、特にアイツ…。

「なかなか家族全員で会うことはできないんですよ。なんせ弟(勇希)に一番会えないんですよ! 僕らならではの問題で、競輪は兄弟は基本的に一緒の開催にあっせんされないので、いつもバラバラなんです(笑)」

 競走参加の日程で常に転々としているので、かわいい弟にあまり会えないという。ワッキー、競輪が強いだけでなく、とにかく愛の力も強い…。もし“競輪界アツアツ夫婦グランプリ”があったら、こちらも余裕の「◎」だ。

 年が明けて束の間の家族との時間を作りつつも、練習も欠かしていない。無論、体のケアもある。グランプリのタイトルを取り、目標はさらに明確となる。

「次の目標は、取っていないGIタイトルが2つあるので、そこですね。全日本選抜と競輪祭。2月の高知の全日本選抜は、タイミングがあったら取れるかな…と思っています。ただ競輪祭は…」

 2月23〜26日に高知競輪場で開催される「第38回全日本選抜競輪」が当面の目標。ただし、11月小倉の競輪祭は「もう、大会自体との相性が悪すぎて。競輪祭に関しては、ラインの助けが必要かなと思っています」とこぼす。落車や失格を喫している大会なので、苦手意識がある。だが、近畿の仲間の力を借りて、2023年につかんでみせる。

 栄光の1番車ユニフォームを着て走る2023年だ。「体は治療しているところですが、レースをしていくには問題ない。痛み自体は軽減しているので。ただ治療が東京でしかできないっていう問題は、何とかしないといけないな〜」。人気に応えられる状態を維持し続ける責任との戦いもある。

 それも、すぐに迫る。「和歌山、豊橋、奈良と、グランプリ優勝後で忙しいところもありますが、しっかりと成績を残せるように頑張ります。和歌山も責任あるところなのでね」と胸を張る。グランプリ優勝直後の近畿地区の記念開催。敢然と、胸を張って挑む。

 思いが、ある。グランプリ優勝の後に「村上(義弘)さんからLINEが来て『ボクー古性の3番手を固めといたで』みたいな感じでした。今でも競輪の熱い気持ちを忘れてないんだなと感じたし、そういうのを共有できたのがうれしかった」と明かした。

 村上義弘さんは引退したが、一緒に走っていたんだぞと思いを伝えてくれたのだ。

 そういうことなんだ、競輪って…。

 ちょっと瞳を潤ませたワッキー。競輪を愛する人たちのために、誰よりも競輪を愛する力を武器に、2023年もその先も、ひたすら突き進んでいく。

残されたタイトル獲得を見据え競輪界を引っ張る(撮影:島尻譲)

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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