2022/11/29 (火) 12:00 36
小倉競輪の「第64回朝日新聞社杯競輪祭(GI)」は新山響平(29歳・青森=107期)のドラマティックな優勝で幕を閉じた。競輪学校(現養成所)時代から注目され、学校の時は腰痛で思うような時間を過ごせず、卒業記念レースは優勝したものの、先行できなかったことで「悔しい」と話したほど。笑顔なき卒業だった。
2016年の競輪祭でGI決勝に初進出。トントン拍子にデビュー最速のGIII制覇も飾り、頂点は視野に入りかけていた。
しかし、つまずくのが新山の人生のようで、その後は活躍していても、苦しんでいたと思う。最高の走りをして準優勝に終わった昨年の大会。ライバル吉田拓矢(27歳・茨城=107期)の優勝という物語だった。
苦闘を続け、パリ五輪への道も諦め、どうなってしまうのか…。そんな悲運のヒーローが、今までの頑張りのご褒美として、美しい優勝を手にした。カッコよくて、ドラマがあって、優勝後の姿は輝いていて…。
「ずるいよ!」と書いているのは冗談です(笑)。心の底から『おめでとう』と伝えたい。
新山の優勝の裏に、泣いた選手もいる。その後ろには、同じ涙を流すファンもいる。清水裕友(28歳・山口=105期)や山田庸平(35歳・佐賀=94期)、多くの選手がそうだった。終わらないコロナの影響で、その姿を伝えることが限られていた。
限られ過ぎている。
今回の競輪祭では、コロナ禍の規制があり、選手との接触は少なかった。勝ち上がりの選手だけが取材対象となり、負けた選手の声は聞けなかった。
例えば二次予選Bの犬伏湧也(27歳・徳島=119期)。2人だけが勝ち上がれるレースで、素晴らしい先行を見せた。後ろの2人が勝ち上がりの権利を手にし、犬伏は3着。
だが、レース後には大きな声援が犬伏に送られていた。犬伏は何を感じているだろう…。これを取材できないもどかしさに心がゆがんだ。“ファンと作りあげる競輪”と思って取材記者として頑張ってきたつもりだが、何もできなかった。とにかく、来年は…と願うばかりだ。
コロナを呪いつつ、全国各地で、届けられるはずの声が復活することを祈る。
兄の新山将史(31歳・青森=98期)も参加していて、普通なら、優勝後の取材などが落ち着いた時に兄弟のツーショットを撮影させてもらったりする。優勝した弟は笑顔で、兄だけが泣いているんじゃないの…とか勝手に想像しながら、検車場を探すものだった。
優勝者のインタビューの場所にいくと、喜ぶ北日本のみんながいて、遠くに将史が見えた。控えめに、こじんまりとたたずんで泣いてはいなかった。「まさし、泣けよ!」とか北日本のみんながはしゃいでいる姿があって、こういうシーンをファンに見てほしかったな…と思った。
北日本のみんなの渾身のエア胴上げで、ファンに少しだけでも、その姿を見せてくれたシーンは感動的だった。平塚競輪のKEIRINグランプリは北日本が4人…、来年はS班に北日本の選手が4人…、どんな取材をしていくべきか想定、いや妄想しながら新山の優勝の余韻を味わおう。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。