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すっぴんガールズに恋しました!

【野本怜菜】“顔笑れレナメタル” 困難を笑顔に変えて羽ばたく24歳の挑戦

アプリ限定 2022/09/22 (木) 18:00 30

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。9月のクローズアップ選手は野本怜菜(24歳・埼玉=114期)。選手をめざしたきっかけ、度重なる怪我、苦難を乗り越える野本怜菜を支えたものとは。現在に至るまでの軌跡を写真とともにご紹介します!

高い所が好き 棒高跳びで全国大会へ

 埼玉県羽生市の出身の野本怜菜は2つ下の弟と2人姉弟だ。小さなころはどんな少女だったのだろうか。

「がっつりアウトドアな子でしたね。外で遊ぶことが大好きでした。とくに高い所に登るのが大好きで、誰よりも高く登っていました」と屈託のない笑顔で話す。

活発だった幼少期(本人提供)

 活発だった少女は、スポーツ好きの両親の影響で水泳、バレーボールにも挑戦し、小学6年生の時には陸上クラブに加入し、本格的に陸上競技を始めた。中学では陸上競技部に所属。100メートル、200メートル走と走り幅跳びで埼玉県大会に出場した。

「高校では棒高跳びをしたかったんです。家の近くにも棒高跳び施設のある高校はあったのですが、どうしても不動岡高校に行きたくて。実は近所にいた憧れのお姉さんが不動岡高校に通っていて…。とってもかっこよかったんです」

 中学3年の秋から冬にかけ勉強を頑張り、晴れて埼玉県の進学校・県立不動岡高校へ進んだ。

学生時代は陸上に打ち込んだ(本人提供)

偶然流れてきたラジオの情報…迷わず飛び込んだガールズケイリンの世界

 高校1年生の時から棒高跳びで全国大会に出場するなど、充実したスクールライフを送っていたが、野本は進路を迷っていた。大学に進学し体育教師になるんだろうな、とぼんやり思っていたそうだが、運命の分岐点が高校3年の春に訪れる。地元接骨院での治療中にラジオから競輪の話題が流れてきたのだ。

「女子の競輪があることにびっくりしたんです。もちろん競輪の存在は知っていました。父がボートレースが好きで、実家のテレビでよく『BACHプラザ(テレビ埼玉・公営競技情報番組)』が流れていましたから。でも、女子の競輪があるならすぐにでもやってみたい。インターネットで検索して『(ガールズケイリンを体験できる)ガールズサマーキャンプ』に申し込みました」

 JKAがガールズケイリン選手発掘のために毎年実施している『ガールズサマーキャンプ』。自転車競技未経験、ママチャリにしか乗ったことがない野本だったが、『ガールズサマーキャンプ』で競輪の魅力にどっぷりとはまってしまったそうだ。

「カーボンフレームの自転車は乗車姿勢がキツかったですけど、バンクの上から駆け下りる爽快感がとっても気持ち良かった。キャンプが終わってすぐ両親にガールズケイリンをやりたいと伝えました」

 余談だが『ガールズサマーキャンプ』で同部屋になったのは118期の森内愛香だったそうだ。願書提出日の〆切が直前に迫っていたため野本は、郵送ではなく自分で電車に乗り埼玉から東京へ移動してJKA本部まで直接願書を持っていき、114期の適性試験を受けたという。棒高跳びで鍛えたフィジカルを遺憾なく発揮し適性試験に見事合格、2017年5月に日本競輪学校114期生として入学を果たした。

願書を持って直接申請 真っ直ぐな気持ちでガールズケイリンの門戸を叩いた

デビュー初年度に初優勝 野本怜菜の名前を全国に轟かせた

「学校時代はキツかったです。まず自転車競技が未経験だったので、同期に追い付くことで必死。記録会ごとに目標を持って達成できるように頑張りました。T教場(滝澤正光校長の下で徹底的に鍛えられる特別クラス)に呼んでもらえたことも大きかったですね。競輪の基礎、乗り方、そしてなにより根性を鍛えてもらいました。T教場にいたからメンタルは大きく成長できたと思います」

 114期の在校成績は2位、卒業記念レースでも準優勝。自転車競技未経験だったが、努力が実り、胸を張れる成績を残した。

 野本のプロデビュー戦は2018年7月2日、地元大宮での開催だ。競輪選手が地元バンクでデビュー戦を走ることは、期待のあらわれでもある。そのデビュー開催は予選2走を2、4着でクリアし、決勝進出を果たした。決勝では尾崎睦の高い壁を越えることができず4着に終わったが、野本は当時の記憶がほとんどないという。

「デビュー戦が大宮に決まったことはうれしかったですけど、いざ始まると緊張がすごかったです。いつの間にか開催が始まって、いつの間にか開催が終わっていたみたいな(笑)。レースの事をほとんど覚えていないんです。ただ、練習仲間の細沼健治さん、同期の黒沢征治さんがその開催にいてくれたおかげで何とか乗り切れましたね」

 デビュー2場所目の富山では最終日の一般戦で逃げ切って初勝利達成。デビュー3場所目の京王閣ではなんと初優勝を達成した。

「富山での初勝利はうれしかった。予選2走が何もできず悔しかったんですけど、その思いを最終日の一般戦にぶつけられました。京王閣での初優勝は嬉しいというよりびっくりです。加瀬(加奈子)さんの欠場で自分は追加参加。橋本佳耶さん、引退した石井菜摘さんと同期3人での参加となって、部屋も一緒で楽しくて、とても気楽な気分だったことを覚えています(笑)。決勝は石井貴子さん(104期・東京)、児玉碧衣さん、梅川風子さんと強い選手ばかりで、挑戦者の気持ちで走ったらまさかの優勝でした…」

 以降も4場所目の青森優勝、6場所目のいわき平でも優勝。デビュー年に3回の優勝を達成し、“野本怜菜”の名前を大いにアピールした。

デビュー年に3回の優勝を達成 順調なスタートを切ったかに思えた

度重なるケガに襲われた野本怜菜を支えたものは

 順調なデビューを飾ったかに見えた野本だったが、2年目からはケガとの戦いに苦しめられた。2019年11月のいわき平で落車して左上腕骨の骨折、2021年8月富山で右鎖骨の骨折、そして今年2022年5月の弥彦でも富山でケガをした右鎖骨を再度骨折してしまった。

「ケガに悩まされました。学校時代にも落車はありましたけど、骨折をすることはなかったですから苦しかったですね。落車をするたびに振り出しに戻ってしまい、気持ちが落ちていくのが辛かった。復帰にこぎ着けても大きな着順を取ってしまうと、正直、辞めたいなと思うときもありました。でも、そこからもう一度調子を上げていくために気合いを入れて練習しました。『このままじゃダメなんだ』って」

吉田(現黒沢)夢姫(左)は練習だけでなくプライベートな時間もともに過ごす愛すべき存在だ(本人提供)

 T教場仕込みの強靱なメンタルでスランプを乗り越えた野本だが、一年間同じ釜の飯を食べた同期・114期の存在も大きかったと語る。

「(柳原)真緒さんは学校の時から追い掛けている存在で、T教場では真緒さんに追い付け追い越せの気持ちで食らいついていきました。(佐藤)水菜のナショナルチームでの活躍も本当にすごいと思う。最近は114期みんなが頑張っていい成績を残しているから刺激になりますね」

 佐藤水菜、柳原真緒の二枚看板だけでなく、當銘直美、日野未来も賞金ランキング上位に顔を出していて、最近の114期の活躍はめざましい。

「いきなりコレクション出場はキツいと思いますが、1月のトライアルや、来年11月の競輪祭(グランプリトライアル)を目指して頑張っていきます」

 焦る気持ちをグッと押さえてコツコツ地道に練習を積み重ね、いつか同期がいるステージを目指すという。

「少しずつですね。今年5月の弥彦で落車。以前と同じところを折ってしまったのですけれど、頑張っていくだけです。最近の練習環境がすごくいいんです。昔は男子の同期選手たちとやって、(練習に)ついていくだけで精いっぱいだったのですが、埼玉にガールズケイリン選手が増えたおかげで、今は実のある練習ができています。特に愛知から埼玉へ移籍してきた同期の(黒沢)夢姫とは練習だけでなく、プライベートでも仲良く遊んでいます」

左から高橋梨香、関口美穂(引退)、野本怜菜 「埼玉にガールズケイリン選手が増えたおかげ。練習環境がすごくいいんです」(本人提供)

「どんなきっかけでもいい 競輪に興味を持ってもらえたら」

 野本と言えば『BABYMETAL(日本の女性2人組メタルダンス・ユニット)』の大ファンで発走機上でのパフォーマンスもSNS上で話題になっている。

「発走機でのパフォーマンスが話題になっているのは知っています。でも自分では恥ずかしくて見ることはないんですよ。やり始めたのは2021年2月の名古屋決勝からです。名古屋の前の別府のコレクショントライアルの成績が悪すぎたので、気合を入れるために決勝で発走機上でのパフォーマンスをやってみたんですが、そこで準優勝。それからというも、験担ぎで続けています。名古屋決勝で初めてパフォーマンスをしたときはドキドキしました。関係者に怒られるんじゃないかと(笑)。まだ偉い人に怒られていないので、このまま続けていこうと思っています」

発走機でのルーティンが話題に 何パターンもあるそうだ(撮影:島尻譲)

 パフォーマンスは験担ぎと言っていたが“競輪普及”という思いも強い。

「いろんな人に競輪を知ってもらいたいです。自分の動画から競輪に興味を持ってもらえる人がいればいいなって。『BABYMETAL』のファン層も幅広いですし、その中の何人かでも競輪を知ってもらえればうれしいですね」

 競輪選手になるきっかけは人それぞれ。野本のようにラジオで聞こえてきたガールズケイリンのお知らせから始める人もいるだろうし、野本のパフォーマンスをきっかけに競輪選手を目指す人も今後出てくるだろう。

 パフォーマンスだけでなく、野本の実力は折り紙つきだ。1年後にはトップガールズケイリン選手として大いに目立つことだろう。選手生活5年目の24歳。ケガで順調さを欠いただけで、伸びしろはたっぷりだ。野本はツイートするときに必ずハッシュタグ「#顔笑れレナメタル」を添える。

「『顔笑れ!!』はさくら学院というアイドルユニットの曲であり、キャッチコピーのようなものです。ちなみに私はその『顔笑れ!!』という曲が大好きです。“顔笑れ”は“頑張れ”とかかっていて、気弱になった時や自分を奮い立たせる時に使うんです」

 ケガや挫折で落ち込んでいても、笑って前を向けばきっと願いは叶うと信じ、自分を鼓舞し、チャレンジを続けていく野本のさらなる飛躍に注目していきたい。

“BABYMETAL”で推し活 野本怜菜のポジティブでパワフルなメンタルの源がここにある(本人提供)

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すっぴんガールズに恋しました!

松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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