2024/04/29 (月) 12:00 37
いわき平競輪場で令和6年能登半島地震復興支援として行われる大阪・関西万博協賛GI「第78回日本選手権競輪」が4月30日〜5月5日の日程で開催される。脇本雄太(35歳・福井=94期)が欠場となり、風雲急を告げている…。
今、調子を上げてきているのは眞杉匠(25歳・栃木=113期)で、ダービー(日本選手権競輪)での大暴れは必至。2021年京王閣大会で初めてGI決勝に乗り、一昨年のいわき平ダービーでも決勝に乗っている。京王閣の時は結果として中途半端な形になり、悔しさを味わった。
普段接していると、どこにそんな根性が…と思うような青年だ。イタリアンカフェでパスタを運んできそうな、爽やかさしかない(私はイタリアンカフェには行ったことはないが)。「へへへへッ」と愛くるしいばかりなのだが、今年の初めに練習中落車で大ケガを負った後、根性で立ち直ってきた。
異様な負けず嫌いが眞杉の体の中にはあって、競輪選手として強者の条件である“ケガする前より強くなる”を直線的に示している。ストレート。眞杉の精神はここにあると思う。
ダービーに強い眞杉の躍進が頼もしいところだが、嘉永泰斗(26歳・熊本=113期)も噴火しておかしくない。嘉永は、いや、“泰斗は”と書こう。泰斗は見るからに負けず嫌いのオーラがにじんでいる。勝つ場所に自分がいる、としか思考の中にない。
川崎記念(桜花賞・海老澤清杯)の決勝は錚々たるメンバーの中で“普通”に勝ち切った。「それが俺」といわんばかりに。力を付けているのは確かで、シリーズの中で古性優作(33歳・大阪=100期)が話していた言葉が気になった。今も、気になっている。
「みんなのトップスピードが上がっているのはあるんでしょうけど、そのトップスピードの質が違うんです。野球で150キロのストレートを投げて、打ちやすい150キロと打ちにくい150キロがあるって言うでしょう。そんな感じ」
昔から“重厚なタテ脚”という言葉はあるが、それの強化されたものだろうか。話を聞いていて、準決で古性の上をまくっていった泰斗の顔が浮かんだ。
好プレー原稿の際に書いたが、芦澤大輔(41歳・茨城=90期)のブロックをかいくぐった時の古性の振り返りに衝撃を受けた。古性の感性は、競輪選手の中でも飛び抜けた地点にあると思う。これも川崎の時だが、囲んでいる取材陣は「古性優作について、我々は3割も理解できていない」という話になった。
自転車というものに対する知識や経験、操り方への挑戦の意識。また、レースにおける動き一つひとつへの造詣の深さ。浅井康太(39歳・三重=90期)にもそういうところが大きくあって、取材していて、ゾクっとするものがある。
こうした時は現場などで直接会う機会がある、引退された山口幸二さんや加藤慎平さんに聞いてみるものだが、分かりやすく教えてくれて、「競輪は凄まじ過ぎる…」と何度も思ってきた。コンフュージョンは墓碑銘と叫んだ進化的音楽軍団がいたが、競輪におけるコンフュージョンは、区役所に届け出るために生まれてきた名前でしかない。通過点だ。
とりあえず、古性優作は宮殿に住んでいてほしいと思う。
競輪選手の頂点を競うのがダービー、つまり日本選手権だ。競輪の日本選手権者になることが、最高にして最大の栄誉。競輪って何? を突き詰めてきた選手の中で、162人がシリーズを争い、そこを目指す。
力や技術が求められるのは当然でも、競輪って何?
この大会では佐藤慎太郎(47歳・福島=78期)がどんな答えを出してくれるのかを期待している。地元、という概念が強く存在する競輪の世界。ファンと共有する無形の空間。春が盛る日。表彰台の真ん中に、象徴が刻まれる。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。