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山田裕仁のスゴいレース回顧

【いわき金杯争奪戦 回顧】番手捲りでの勝利に必要な“本当の力”

2021/03/01 (月) 18:00 8

優勝した鷲田佳史選手(3番車)にはさらなる飛躍を期待したい

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが、波乱の結果に終わったいわき金杯争奪戦を振り返ります。

2021年2月28日 いわき平11R 開設70周年記念 いわき金杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①飯野祐太(90期=福島・36歳)
②森田優弥(113期=埼玉・22歳)
③鷲田佳史(88期=福井・37歳)
④庄子信弘(84期=宮城・42歳)
⑤河野通孝(88期=茨城・38歳)
⑥西岡正一(84期=和歌山・43歳)
⑦隅田洋介(107期=栃木・33歳)
⑧朝倉智仁(115期=茨城・21歳)
⑨村田雅一(90期=兵庫・36歳)

【初手・並び】
←①④(北日本)⑦(単騎)⑧②⑤(関東)⑨③⑥(近畿)

【結果】
1着 ③鷲田佳史
2着 ④庄子信弘
3着 ⑥西岡正一

若い森田は反省して今後の糧にして欲しい

 2月28日に決勝戦が行われた、いわき平競輪場のいわき金杯争奪戦(GIII)。川崎でGI・全日本選抜競輪が開催された直後でもあり、このシリーズは「トップクラスどころかセカンドクラスすらも不在」という、いささか特殊なメンバー構成となりました。とはいえ、選手にとってみれば“記念”というタイトルに変わりはないですからね。こんな大チャンスはそうそうないと、どの選手も色めき立っていたのではないでしょうか。

 確たる中心がいない混戦模様のなかで、関東勢は4人が決勝に駒を進めるという快進撃を見せました。決勝での並びがどうなるのかと思っていたのですが、隅田洋介選手(107期=栃木・33歳)は単騎を選択。残りの3車でラインを組むことになったのですが、ここでちょっとしたサプライズがありました。先頭を任されたのが、朝倉智仁選手(115期=茨城・21歳)だったんですね。

 そして2番手が森田優弥選手(113期=埼玉・22歳)で、3番手に河野通孝選手(88期=茨城・38歳)。つまり、茨城の選手の真ん中に、森田選手が入るというカタチです。これにより、ただでさえ少ない機動力型の選手が同じラインとなり、連日圧巻の捲りを見せている森田選手は、自力ではなく番手からの勝負に。茨城の選手に「割って入る」のが許されたのは、好勝負に持ち込む力があると認められたからでしょう。

 これで一気に“大本命”となった森田選手ですが、確かに調子はよかったと思います。あとは、ほかに強さやデキのよさを感じる選手がいなかったというのも、人気を集めた理由といえるでしょう。地元・北関東ラインの先頭を走る飯野祐太選手(90期=福島・36歳)や、近畿ラインの先頭を任された村田雅一選手(90期=兵庫・36歳)も、調子は悪くないがよくもないといった印象でしたからね。

 そして決勝戦。スタートの号砲が鳴ると、いわき平がホームバンクである飯野選手が、まずは飛び出していきます。そして、スッと北関東ラインの後ろを取りにいったのが、単騎を選択した隅田選手。4番手に朝倉選手、7番手に村田選手というのが、初手の並びとなりました。しかし、その後に村田選手が朝倉選手を押さえにいって、今度は朝倉選手が7番手に。あとは「朝倉選手がどこから仕掛けるのか」待ちです。

 彼が動いたのは、打鐘とほぼ同時。一気の仕掛けで先行する北日本ラインを叩き、最終バックでは飯野選手を封殺して、完全に出るところまでいきます。そこで外から襲いかかったのが、北日本ラインの3番手で脚をタメていた隅田選手。一気に飲み込むかと思われたところで、森田選手がタテに踏んで番手捲り。外から迫る隅田選手をブロックしたところ、隅田選手は大きく外に降られてしまいます。

 このブロックによってぽっかりと空いたスペースを、いい勢いで後方から迫ってきていた近畿ラインが強襲。そのままの勢いでまっすぐ踏めたのが鷲田選手で、村田選手はインを突いて突っ込んできます。直線の入り口では、内から村田選手、森田選手の後ろを走っていた河野選手、森田選手、鷲田選手などがズラリと横並び。これぞ雁行状態という態勢でゴールを目指します。

 しかし、そこで森田選手が内と接触して4車が落車。一歩先に抜け出していた鷲田選手以外は、優勝争いをしていた選手が一気にここで脱落してしまいます。もちろん優勝は鷲田選手で、バンクのいちばん外を走っていて巻き込まれずに済んだ庄子信弘選手(84期=宮城・42歳)が2着。落車に巻き込まれそうなポジションから、とっさに進路を外に切り替えた西岡正一選手(84期=和歌山・43歳)が3着という結果となりました。

 事故があったのは本当に残念ですが、アレがなくとも優勝者は同じです。完全に抜け出していたから、鷲田選手は落車に巻き込まれなかったわけですからね。つまり、「最終バックからの番手捲り」でも、森田選手は勝てていない。今年の特別や記念では、これが当たり前のように決まっていますが、実際はそう楽なものではない。早くから仕掛けた選手に必死でついていくわけですから、イメージ以上にキツイんですよ。

 つい先日の、全日本選抜競輪を思い出してください。絶好調の深谷知広選手(96期=静岡・31歳)が早くから逃げましたが、あのスピードについていくだけでも相当に脚を使います。しかも、その上で余力を残して抜け出し、襲いかかる後続を封殺するとなると、これはもう“本当の力”がないとできない。そう、アレは郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)だからこそやれる話なんです。

 しかし、森田選手にはまだそこまでの力はなかった。それどころか、最後の直線では余力をなくして接触し、同地区の仲間を落車に巻き込んでしまっている。しかも、自分がラインの番手を回ることを許してくれた茨城の選手をです。これはもう、誰かに言われるまでもなく大反省ですよ。この苦い経験を糧にして、“本当の力”を身につけるべく精進してもらいたいところ。ひと皮剥ける、いいチャンスでもあります。

 優勝した鷲田選手はインタビューで「信じられない」と何度も口にしていましたが、この記念優勝は実力でもぎ取ったもの。前がぽっかり空くという、展開に恵まれた面はあったかもしれませんが、それをモノにできる準備を怠っていない者だけに、こういう好機は巡ってくる。この優勝で自信をつけて、今度さらなる飛躍を期待したいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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