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山田裕仁のスゴいレース回顧

【水戸黄門賞 回顧】じつは選択肢が少なかった吉田拓矢

2025/06/04 (水) 18:00 22

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが取手競輪場で開催された「水戸黄門賞」を振り返ります。

水戸黄門賞を制した郡司浩平(中央)とプレゼンターのお笑いコンビ・カミナリ(左:竹内まなぶ、右:石田たくみ)(写真提供:チャリ・ロト)

2025年6月3日(火)取手12R 開設75周年記念 水戸黄門賞(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①吉田拓矢(107期=茨城・30歳)
②松井宏佑(113期=神奈川・32歳)
③成田和也(88期=福島・46歳)
④佐々木眞也(117期=神奈川・30歳)
⑤岩津裕介(87期=岡山・43歳)
⑥内藤宣彦(67期=秋田・54歳)
⑦郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
⑧杉森輝大(103期=茨城・42歳)
⑨和田健太郎(87期=千葉・44歳)

【初手・並び】

←①⑧③⑥(混成)⑤(単騎)②⑦④⑨(南関東)

【結果】

1着 ⑦郡司浩平
2着 ③成田和也
3着 ⑧杉森輝大

ダービー王・吉田拓矢が地元記念に参戦!

 6月3日には茨城県の取手競輪場で、水戸黄門賞(GIII)の決勝戦が行われています。もともとは脇本雄太選手(94期=福井・36歳)があっせん予定でしたが不参加となり、追加で郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)が出場することに。S級S班からはほかにも、眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)が出場しています。地元を代表するのはもちろん、今年のダービー王に輝いた吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)です。

 初日特選では、ダービーでワンツーを決めた眞杉選手と吉田選手のラインが、当然ながら人気を集めました。藤井侑吾選手(115期=愛知・30歳)が前受けから突っ張って主導権を奪い、後続との間に大きなリードを築きますが、3番手から素晴らしいスピードで捲った眞杉選手がこれを捕らえます。前を捲りきった眞杉選手が1着で、2着が吉田選手。関東勢の後ろに切り替えた成田和也選手(88期=福島・46歳)が、3着という結果でした。

ダービー決勝でワンツーを決めた眞杉匠(左)吉田拓矢(右)(写真提供:チャリ・ロト)

 松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)は捲り不発で後方のままで、連係していた郡司選手も7着に終わるなど、ここは関東勢と南関東勢で明暗がハッキリ分かれましたね。しかし、再び吉田選手と連係した準決勝で、眞杉選手は岩津裕介選手(87期=岡山・43歳)のブロックにより脚をなくし、9着に敗退。自力に切り替えた吉田選手は1着で勝ち上がるも、関東勢は大きな戦力低下となります。

 南関東の郡司選手と松井選手は、二次予選と準決勝をともに1着で勝ち上がりと、調子はなかなかいい様子。そのほかでは、成田選手のデキのよさが目立っていましたね。1着こそ取れていませんが、二次予選では後方から迫り来る敵を何度もブロックして、厳しい展開のなかを3着。準決勝では最後方に置かれる展開となるも、勝負どころでコースを探して、最後の直線で2着まで追い上げてみせました。

南関は4車が決勝へ、北日本2人は地元勢の後ろ固める

 そして決勝戦は、4車ラインが2つに単騎が1名という二分戦に。関東勢と北日本勢が連係するラインは、吉田選手が先頭を任されました。番手は杉森輝大選手(103期=茨城・42歳)が回って、3番手に成田選手。ライン最後尾を、内藤宣彦選手が(67期=秋田・54歳)が固めるという布陣です。ライン先頭では捲りが主体の吉田選手ですが、ここでどういった走りをするのか注目ですね。

地元・吉田拓矢の後ろを固める杉森輝大(左)成田和也(中央)内藤宣彦(右)(写真提供:チャリ・ロト)

 南関東ラインは、先頭が松井選手で番手に郡司選手、3番手が佐々木眞也選手(117期=神奈川・30歳)と、ここまですべて神奈川勢。その後ろに和田健太郎選手(87期=千葉・44歳)がつくという4車で、総合力では吉田選手が先頭の混成ラインを上回ります。車番的に初手では後ろ攻めとなりそうですが、そこからどうレースを組み立てるか。初日特選で失敗している松井選手に、挽回が期待されます。

 唯一の単騎が岩津選手ですが、二分戦でどちらも4車ラインとなると、普通に走ったのでは多勢に無勢。そうなると、ここは「捌き」の競輪で勝負してくるケースが十分に考えられますよね。なかなか難しいレースになりそうですが、存在感を発揮してほしいところ。

注目のスタート、地元勢が前受け

 それでは、決勝戦の回顧に入っていきましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、外から7番車の郡司選手がいい飛び出しをみせます。

 しかし、最内1番車の吉田選手がそれを制して、スタートを取ります。レース前の想定どおり、吉田選手が先頭の混成ラインが前受けですね。単騎の岩津選手が5番手に入って、南関東勢の先頭である松井選手は6番手から。初手のポジションが定まってからは動きはなく、淡々と周回が重ねられます。後方の松井選手が動き出したのは、青板(残り3周)周回の4コーナーからでした。

吉田拓矢が突っ張り先行、南関東勢は再び後方へ

 降りしきる雨のなか、4コーナーを回ったところから松井選手が上昇。先頭を斬りにいこうとしますが、赤板(残り2周)掲示の通過と同時に吉田選手は突っ張って、松井選手を前に出させません。松井選手も無理せず、大きく外を回りながら元の位置に戻りつつ、バックストレッチに進入。再びペースが落ち着き、初手と同じ隊列に戻って、レースは打鐘を迎えました。

赤板で切りに来る松井宏佑を吉田拓矢が突っ張る(写真提供:チャリ・ロト)

 先頭の吉田選手は徐々にペースを上げつつ、打鐘後の2センターを回って最終ホームに帰ってきます。5番手の岩津選手は、前との車間をきって追走。そして最終ホームでは、後方の松井選手が再び仕掛けて上がっていきます。その鋭いダッシュに佐々木選手は離れ気味で、ここで岩津選手は郡司選手を捌きにいったり、その後ろに飛びつく手もあったでしょうが、内で動かないままでしたね。

松井宏佑が捲り迫る、合わせて杉森輝大が番手発進!

 最終1センターで内藤選手の後ろまで進出した松井選手は、バックストレッチに入るとさらに加速して、成田選手の外にまで進出。先頭で飛ばす吉田選手は、最終バックで脚色が鈍ってきました。それを察知した杉森選手が番手から捲って前に出ますが、そこからグイグイ伸びるような気配はなく、外から松井選手がジリジリと差を詰めながら、最終3コーナーを回ります。

最終2コーナーで松井宏佑が捲り迫る(写真提供:チャリ・ロト)

 番手から捲った杉森選手が先頭に立ち、その直後に外から松井選手や郡司選手が迫るという隊列で、最終2センターを通過。杉森選手の直後では、成田選手が虎視眈々と優勝を狙っています。成田選手が進路を外に出した瞬間、その直後にいた内藤選手がスッと最内に入り込んで、杉森選手の後ろに内外4車が並ぶカタチで最後の直線へ。しかし、松井選手はここで脚が止まってしまいました。

最終2センターで杉森輝大が番手発進(写真提供:チャリ・ロト)

大外鋭く伸びた郡司浩平が今年5度目のGIII優勝!

 先頭で粘り込みをはかる杉森選手ですが、それを差しにいった成田選手や、外からグイッと伸びてくる郡司選手の脚色がいい。30m線までは先頭を守り通した杉森選手ですが、外から伸びた郡司選手がこれを捕らえて先頭に出ます。成田選手も杉森選手の前に出ますが、郡司選手を捕らえるには至らない。郡司選手が先頭でゴールラインを駆け抜け、今年5回目となるGIII優勝を決めました。

郡司浩平が今年5度目のGIII優勝!(写真提供:チャリ・ロト)

 2着は成田選手で、僅差となった3着争いは最内の杉森選手が残していましたね。4着は内藤選手で、吉田選手が先頭の混成ラインから2〜4着が出るも、優勝は郡司選手という、地元勢にとっては悔しい結果となりました。松井選手や郡司選手が相手の逃げでは分が悪いと感じていたでしょうが、それでも吉田選手は腹をくくって、果敢に突っ張り先行。しかし、残念ながら末を欠いてしまいましたね。

地元勢と南関東勢の差は"選択肢"

 単騎の岩津選手が南関東勢を捌きにいったり絡んでくれていれば、松井選手が前に迫るタイミングが遅れて、地元勢優勝の可能性をもっと上げられたかもしれません。しかしこの場合でも、デキ絶好の成田選手が前を捕らえきっていたのではないか…というのが、私の推測です。吉田選手には「初手で後ろ攻めを選ぶ」という選択肢もありましたが、これはこれでリスクが高いんですよね。

 吉田選手が持ち味を出せるのは先行よりも捲りですが、松井選手が前受けから突っ張って、番手の郡司選手が早めに捲って出る「二段駆け」に持ち込まれると、吉田選手は何もできずに終わってしまう可能性がある。それくらいならば…と果敢な先行策で勝負したわけですが、あの位置からの番手捲りだと、杉森選手が最後まで先頭で粘りきるのは厳しい。つまり吉田選手にとって、意外に選択肢の少ないレースだったわけです。

 それとは対照的に、前受けでも後ろ攻めでも力を出せそうだったのが南関東勢。松井選手は初日特選こそ失敗していましたが、その後の勝ち上がりの過程では、捲るレースでいいスピードをみせていました。最終ホームの手前で岩津選手が前との車間をきって、前との差が広がっていたのにはちょっと慌てたでしょうが、それでも素晴らしい加速で差を一気に詰めましたからね。デキも上々だったのでしょう。

郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 その松井選手の番手で、サラ脚で回ってこれた郡司選手。それだけに脚をしっかりタメられていたようで、最後の直線でも余裕が感じられましたね。この安定感の高さはやはり、郡司選手の大きな武器ですよ。ビッグこそ優勝できていませんが、今年は早くもGIIIで5回も優勝と、本当に勢いがあります。これなら、次に出場予定の岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)でも、いい走りが期待できそうですよ。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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