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山田裕仁のスゴいレース回顧

【日本名輪会Cオッズパーク杯 回顧】“格”を安売りすることなかれ

2025/05/23 (金) 18:00 10

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが武雄競輪場で開催された「日本名輪会Cオッズパーク杯」を振り返ります。

(写真提供:チャリ・ロト)

2025年5月22日(水)武雄9R日本名輪会Cオッズパーク杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①山田庸平(94期=佐賀・37歳)
②纐纈洸翔(121期=愛知・22歳)
③井上昌己(86期=長崎・45歳)
④北津留翼(90期=福岡・40歳)
⑤大矢崇弘(107期=東京・34歳)
⑥阿部将大(117期=大分・28歳)
⑦木村皆斗(119期=茨城・23歳)

【初手・並び】

←⑥④①③(九州)②(単騎)⑦⑤(関東)

【結果】

1着 ①山田庸平
2着 ③井上昌己
3着 ④北津留翼

7車立てのミッドナイトGIII

 5月22日には佐賀県の武雄競輪場で、日本名輪会Cオッズパーク杯(GIII)の決勝戦が行われています。3日間開催のミッドナイトGIIIで、グレードレースではありますが、9車ではなく7車立て。青森での「全プロ」直前でもあり、メンバーレベルは通常の記念のように高くはありません。4月に地元記念を優勝している山田庸平選手(94期=佐賀・37歳)が、押しも押されもせぬ優勝候補ですね。

山田庸平(左)と纐纈洸翔(写真提供:チャリ・ロト)

 あとは、昨年の静岡・ヤンググランプリ覇者である纐纈洸翔選手(121期=愛知・22歳)も、このシリーズの注目株でしょう。ただし気になるのが、前場所の名古屋・日本選手権競輪(GI)と前々場所の平塚FIで、連続して落車してしまっていることです。いずれも途中欠場していますから、ダメージはけっして軽くはなかったはず。それだけに、どの程度のデキにあるかが注目されます。

 ところが纐纈選手は、初日特選でそんな懸念を払拭してみせます。北津留翼選手(90期=福岡・40歳)が先頭の福岡コンビが前受けから打鐘で突っ張るも、その番手を回った園田匠選手(87期=福岡・43歳)を最終ホーム手前で外からキメて、ポジションを奪取。最後の直線でもしっかり伸びて、見事な白星スタートとなりました。後方に置かれる展開となった山田選手は、捲り不発で最下位に終わっています。

 思わぬ大敗を喫した山田選手ですが、翌日の準決勝は「北津留選手の番手競り」という、難しいメンバー構成となりましたね。しかし、競りにきた佐々木和紀選手(117期=神奈川・28歳)を相手に番手をキッチリ守り抜き、1着をとって巻き返しに成功します。優勝候補筆頭である山田選手にとって、ここは優出が最低限のノルマといっても過言ではないシリーズ。こんなところで負けてはいられません。

 準決勝での纐纈選手は、九州ライン先頭の瀬戸晋作選手(107期=長崎・31歳)と道中で激しく絡んだのもあって、最後よく差を詰めるも3着という結果に。この準決勝を逃げ切り、初日からの連勝で決勝戦に駒を進めてきたのが、木村皆斗選手(119期=茨城・23歳)です。前場所の岸和田FIを完全優勝して、このシリーズでも連勝を伸ばすなど、まさに絶好調モード。決勝戦でも侮れない存在となりました。

決勝戦は九州勢が4車結束

 しかし、決勝戦には九州勢が4名も勝ち上がって、ひとつのラインで結束。7車立ての4車ですから、“数の利”は圧倒的ですよね。先頭を任されたのは阿部将大選手(117期=大分・28歳)で、番手が北津留選手。山田選手は3番手で、ライン最後尾を固めるのが井上昌己(86期=長崎・45歳)という布陣です。二段駆けが当然ある並びで、これに対抗するのはかなり骨が折れるでしょう。

阿部将大(左)北津留翼(中央)井上昌己(写真提供:チャリ・ロト)

 2車ラインとなった関東勢は、絶好調の木村選手が先頭で、番手を回るのが大矢崇弘選手(107期=東京・34歳)という組み合わせ。初手での後ろ攻めが濃厚で、木村選手としては是が非でも前を斬りにいきたいですが、そうは問屋が卸さないとばかりに阿部選手は突っ張るでしょうから、なかなか難しい。そして、単騎で勝負するのが纐纈選手。果たしてどう立ち回るのか、注目が集まります。

 九州勢が前受けから突っ張り先行に持ち込めば、番手から躊躇なく前に出るであろう北津留選手や、それをマークする地元の山田選手に展開が向くのは明白。このシナリオをいかに崩すか…というのが、木村選手や纐纈選手が優勝を狙うための必要条件となります。それではそろそろ、決勝戦の回顧に入りましょうか。

想定どおり九州勢の前受け、木村はどう動く

 レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのは、1番車の山田選手と4番車の北津留選手でした。

スタートで九州勢が飛び出す(写真提供:チャリ・ロト)

 レース前の想定どおりに九州勢の前受けが決まって、その後ろの5番手には、単騎の纐纈選手がつけました。そして関東勢は後方6番手からというのが、初手の並び。やはり後ろ攻めとなった木村選手が、ここからどうレースを組み立てるかの勝負となります。初手の並びが決まってからは淡々と周回が進み、後方の木村選手が動いたのは、赤板(残り2周)掲示の直前になってからでした。

木村が北津留の外まで追い上げ併走に

 木村選手は一気のダッシュで前との差を詰めようとしますが、それを前で待ち構えていた阿部選手は、まさに「全力」で突っ張ります。しかし、木村選手は引かずに踏み合う構えで、赤板後の1センターを回りました。纐纈選手は動かず、様子見しつつ最後方を追走。バックストレッチに入ったところで、木村選手と連係する大矢選手が離れかけますが、必死に食らいついていきます。

木村皆斗(7番車・橙)が上昇(写真提供:チャリ・ロト)

 木村選手が北津留選手の外まで追い上げたところで、レースは打鐘を迎えました。なんとかリカバーした大矢選手が山田選手の外併走となりますが、北津留選手は木村選手を、山田選手は大矢選手をそれぞれ軽くブロックしつつ、打鐘後の2センターを回ります。これで木村選手は少しポジションを下げますが、最終ホームに帰ってきたところで踏み直して、再び九州勢に食らいつきました。

単騎の纐纈の仕掛けと同時に北津留が番手捲り

 大矢選手はこの動きに今度はついていけず、井上選手の後ろにシフト。ここで後方でじっと待機していた纐纈選手も動き、前を捲りにいきます。しかし、これらの動きに合わせるかのように、ここで北津留選手が早々に番手から捲って出ました。最終1センターを回りながら先頭に立って、バックストレッチに進入。仕掛けを合わされた纐纈選手はなかなか差を詰められず、ここでも6番手の位置です。

北津留翼(4番車・青)が番手捲りで先頭に(写真提供:チャリ・ロト)

 最終バックでは九州3車が再び前に抜け出して、力尽きた阿部選手や、脚が鈍った木村選手と大矢選手は後退。纐纈選手が九州3車の後ろにつけて、最終3コーナーを回りました。前方4車と後方3車が離れていきながら最終2センターを回りますが、纐纈選手は4番手のままで、一気に差を詰めてくるような気配はなし。ライン戦は九州勢の完勝が濃厚で、あとは誰が優勝するのか…という態勢で、最後の直線に向かいました。

九州勢の完勝、面白味には欠けたレース

 満を持して外に出した山田選手が北津留選手に迫り、その後ろからは井上選手もいい脚で伸びてきました。纐纈選手は内を突きましたが、前との差を詰めるどころか、逆に離されてしまっています。山田選手は30m線で北津留選手の外に並んで、外からよく伸びた井上選手も北津留選手の前に出ますが、残念ながら先頭までは届きそうにない。井上選手の追撃を退けて、山田選手が先頭でゴールラインを駆け抜けました。

優勝した山田庸平(1番車・白)を称える北津留(写真提供:チャリ・ロト)

 山田選手は4月の佐賀記念に続いて、ホームバンクでのGIII連続優勝を見事に達成。阿部選手が序盤からハイペースで飛ばす展開で、追走する側もけっして楽ではなかったと思いますが、期待にしっかり応えてみせました。ラインから優勝者を出す走りに徹した阿部選手に、託されたバトンをしっかり繋いだ北津留選手。そして最後はライン3〜4番手が決めるという完璧なレース運びで、九州勢の文字通りの完勝でしたね。

山田庸平が地元GIII連続優勝(写真提供:チャリ・ロト)

 北津留選手の外まで追い上げた木村選手も、選択肢が少ないなかで、できる限りのことをやっている。纐纈選手には、ヨコの動きを駆使した自在脚でレースを乱すことを期待したのですが… 残念ながらここは手も足も出ませんでしたね。初手の並びも、道中の展開も、レース前に想定されたとおりのもの。順当決着で、車券が当たって喜んだ方は多かったと思いますが、レースとしての面白味には欠けました。

GIIIが7車でいいのか

 私がそう感じた背景にあるのは、仮にもこれが「GIIIの決勝戦であるから」でしょう。これがFIや通常のミッドナイトの決勝戦であれば、おそらくこのようには感じません。選手レベルの低い、しかも7車のシリーズをGIIIにする必要性が、正直なところわからないんですよ。GIIIというレースの“格”や“価値”を、主催する側が下げてしまっている気がしてなりません。

 レースの“格”やブランドイメージというのは、先人たちがこれまで必死に築き上げてきたものです。その安売りは、短期的には売り上げ向上に繋がるかもしれませんが… レースの“格”にふさわしい内容を見せなければ、ファンにそっぽを向かれてしまうでしょう。私が言うまでもなく、この件についてはさまざまな意見が出ているはず。それらに耳を傾けて、柔軟な姿勢でより良い方向に改善していってほしいものです。

胴上げされる山田庸平(写真提供:チャリ・ロト)

平原康多電撃引退に寄せて…

 そして最後に、平原康多選手(87期=埼玉・42歳)の電撃引退について。突然のことで驚いたのはもちろんですが、怪我や落車に泣かされて本来のパフォーマンスを発揮できずにいる現状を考えると、その選択に納得できる部分もあります。しかし、やはり「惜しい」とか「怪我さえなければ」といった気持ちのほうが強いんですよね。一人の競輪ファンとして、彼がバンクで走る姿をもっと見ていたかった。

 関東地区はもちろん、輪界全体を牽引する存在として、本当にいい走りを見せ続けてくれた平原選手。第二の人生のためにもまずは身体をしっかり治して、そしてまた別のカタチで、我々にあの爽やかな笑顔をみせてほしいですね。本当に、お疲れさまでした!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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