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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の思い出】20年前に黄檗山で書いた反省文について

2022/07/28 (木) 18:00 46

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、福島のトレーニングマシンこと佐藤慎太郎です。猛暑に負けるつもりはないし、オールスターまで少し間隔が空くから休もうとかもない。春夏秋冬も東西南北も関係なしに競輪を観てくれるみなさんにいつも“ベストな佐藤慎太郎”を見てもらいたい。だから今日も全力で頑張ります。

夏の暑さは楽勝と話す佐藤慎太郎選手(撮影:島尻譲)

バンクに来てくれた若い夫婦がいた

 沖縄のバンクにスカッと夏空が広がっていたので「良い天気だよ。ガハハ!」なんてツイートしたわけ。そしたら、ツイートを見た若い夫婦が練習中のオレに会いに来てくれた。沖縄の人ではなく結婚写真を撮りにきたらしい。フォト・ウエディングってやつ?

 2人ともオレの「限界は気のせいTシャツ」を着てくれていて、ものすごく嬉しかった。サインを書いたのだけど、こんな出会いを体験させてもらい「競輪選手は最高の職業だなあ」と再確認した1日になった。オレの原動力は「応援してくれる人の存在」ですべて説明がつく。その夜、この出来事をきっかけに20年くらい前の“笑える”アクシデントを思い出した。

慎太郎選手にとって競輪選手は最高の職業(撮影:島尻譲)

20年前、黄檗山の違反訓練にて

 昔オレが追い込みに転向して間もない頃、京都の黄檗山で5泊6日の違反訓練に参加した。訓練最終日に反省文を書く時間が設けられたわけだけど、この反省文がアクシデントを招くことになる(笑)。

 体づくりが資本となる競輪選手にとって、坊さんの生活に身を投じるのは食事の面でも厳しいし、一刻も早く通常の練習に戻りたい。若かりしオレは完全にイライラしていた。トゲのあるヤツになっていたように思う。そんなメンタルで反省文に取り組んだ。

『選手として反省しています』みたいなくだりはササっと切り上げて「年配の人だけでなくもっとファンの年齢層を広げていかないとダメっすよ!こんな反省文書いてる場合じゃない」という物申す系の文章を書き始めちまった。しかも筆のカカリは絶好調。

ファンと交流する慎太郎選手(撮影:島尻譲)

 当時、特に競馬業界のイメージ刷新が進みまくっていて、新規のお客さんが増えていた。“ギャンブルは怖い”とか“場が汚い”とかのネガティブなイメージはすっかり鳴りを潜め『若い女性のお客さんでも安心して行ける場所』として生まれ変わっていた。当時を知っている人ならわかると思うけど競馬場は「新しいデートスポット」なんかにもなっていたよね。

 そんな流れに触発されて文章を書き殴ったから、このコラムでは到底ご紹介できない言葉を並べた。何様って話だが「特観席を広く涼しく」みたいな具体案まで書いた気がする。なにしろ筆のカカリは半端じゃなかった。で最終的に「オレは若いギャルの前で黄色い声援を全身に受けながら走りたい!」という宣言で〆た。もはや反省文の要素ゼロ(笑)。オレは意気揚々とバッチリ提出して福島へ帰った。

 後日、オレの力作が競輪選手会の“偉い人達”へたどり着いた。「この小僧! これがお前の反省態度か!『ギャルの前で走りたいです』じゃないんだよ!」とボロカスに怒られた。

 まあ脳みそも筋トレで作ってますみたいな小僧だったから、文章力にも難があったように思う。今となっては笑って話せるアクシデントだけど、当時は本質を伝えられず「ギャルの前で走りたいです」の言葉が一人歩きしちまって大変だったわ。

時代が流れて答え合わせをしている感覚

声援を受け気合を入れる発走前(撮影:島尻譲)

 バンクに会いに来てくれた夫婦もそうなんだけど、ここ何年か「夫婦やカップルが競輪場に来るようになってるな」とか「若いギャルが声援を送ってくれているな」とか感じるシーンがある。競輪場でもSNSの中でも新しく競輪を知ってくれたであろうファンの存在を感じるし、色々な世代の人たちが楽しんでくれるようになってきていると肌で感じている。

 変わらず年配の目の肥えた競輪ファンも「慎太郎が位置取って前がやりやすくなったな」とか嬉しい声をかけてくれるし、稀に「おいおい。今の小ワザに気付いてくれるのかよ」ってこっちが驚くような『番手の動きに詳し過ぎる玄人ファン』にも出会う。20年前の反省文に書いたような景色に近づいている潮目を感じる今だからこそ、もっともっと競輪をアピールしていきたい。

 そこでオレの役目を再確認する。オレは競輪選手であり、最高の走りで魅せることに集中していこうと思う。SNSやコラムなどで考えを語ることも大切なのかもしれないが、やっぱり一番に追求しなくてはいけない本質は“走り”に尽きる。オレがお客さんに一番見てもらいたいのは“走り”だ。

 S級S班の最年長として限界はないという事実を証明していくだけ。ファンへの感謝を胸に、まだ競輪を知らない人にも届けられるように魂を込めて踏んでくよ。

読者に向ける慎太郎のアンサー

 久しぶりになっちまったが、読者さんが寄せてくれた質問にアンサーを出したい。

質問に答えるときも100%の力を出し切る鋼鉄の脚を持つ男(撮影:島尻譲)

ーー追い込み選手が躍動する最終直線からの勝負が好きなんですが、内側を突こうとか外側を踏んでいこうとか決めておくものですか? 選手たちはあの一瞬ですべて判断しているのでしょうか?

 これは完全に場面によりけりの一瞬の判断によるものですね。時間にしてコンマ何秒の判断になるので、頭で考えるよりも体が反射的に選択している感覚です。

 先日のサマーナイトの決勝なんかも難しい判断があって、オレは岩本の内側を行こうと考えていて岩本の後輪よりも内側に自分の車輪を入れていました。4角から直線でコースがあれば突き抜けられるような感覚があって。ただし最後までコースは開くことなく、無理矢理こじ開けようとすれば雨のバンクにひっくり返っちまうだろうし、万事休すでした。

 映像で振り返って思うことは「内・外」と意識を向けずに岩本の「真後ろ」に付け続けて直線を迎えればもう少しだけ伸びたはずだってこと。それができたとしても結果は変わらず3着までが精一杯のレースだったと思うけど、もっとお客さんにハラハラドキドキを感じてもらえるような詰め方ができましたね。

 こんな感じで終わったレースを振り返り、自分が選択した判断を血肉にしていき、次回のチャンスに備えるというか、最良の判断ができるように鍛えています。

サマーナイトフェスティバル決勝の最終2センター、慎太郎選手(橙7番車)は岩本俊介選手(緑6番車)の内側を狙い澄ました(撮影:島尻譲)

ーーコラムやニュースで「追い込み選手としての理想を追求していく」という慎太郎さんの言葉を見たのですが、具体的にどういうことでしょうか?

 これは色々あるんだよな。本一冊二冊書けるボリュームになっちまうので、コラムだと厳しいね。ひとつ強く意識を置いている話を回答にしたいと思う。

 追い込み選手として心がけていることは「後ろのことは気にさせない」ということ。前を走る先行選手がダッシュするなら、後ろのオレを気にせずに思い切り踏んでもらいたい。「今ここで思い切り踏んだら後ろは連係しにくいかな?」と不安にさせれば、先行選手には余計な精神負担をかけちまう。これは仕掛けるタイミングも狂うことに繋がる。

 先行選手といっても一括りにはできず、一気にトップスピードに到達させる能力がある選手もいれば、長い距離を踏みながらトップスピードに乗せていくのがうまい選手もいます。

 さまざまなタイプの先行選手の走り方・仕掛け方に対応できる柔軟性と脚力を備えないといけないんですわ。レースを作る先行選手が“戦法の幅を狭めない状態”を作り「好きに走れる!」と思ってもらえる追走が理想です。

 脚力や瞬発力、俊敏性といった走行能力の話だけではなく、連係する時の信頼感や気持ちの部分も重要になります。ここに追い込み選手の理想のひとつがあり、その理想を「涼しい顔」でできるようになりたいっすわ。

番手としての心構えは数え切れない(撮影:島尻譲)

ーー同地区の選手や過去連係している選手相手にも強烈なブロックを見舞うシーンがありますが、これはどういう心境ですか?

 競輪を走る上で「義理」や「人情」は本当に大切で、ライン構成や並びを決める時だったり、お客さんの予想材料になるコメントを出す時だったり、過去の連係実績や義理は非常に重要です。その段階までは、きちんと筋というか道理の通る考えでやらないといけないと思ってます。忘れてはいけないポイントだね。だけど、レース本番はお客さんも参加していて、選手は車券を背負ってます。

 同地区の北日本の選手でも、過去に連係した選手でも、「別線勝負」と決めたのならば、レース本番は対戦相手。その時は全力で倒しにいきます。これはお客さんに対しての礼儀だと考えているので「同じ北日本の仲間だから弱くブロックしとくかね〜」みたいなのは微塵もないですね。

 男としての仕事をしたいって心境です。正々堂々と戦うのがお客さんへの礼儀であり、対戦相手への敬意、連係する仲間への信頼だと思っています。

正々堂々の勝負が礼儀(撮影:島尻譲)

西武園のオールスター競輪へ

 そろそろ筆を置こうと思うが、いよいよオールスターだ。デビュー当時のオレは45の自分が「ドリームレースを走る」なんて想像すらしていない。

 お客さんが評価してくれてはじめて走れる大事な一戦。ゴールの瞬間まで1つでも上の着を獲ることをあきらめない、そんな姿勢を見てもらえるように、誇りを持って乗り込んでいきます。行くぜ! 西武園! ガハハ!

夏の大一番オールスター競輪、夢の一戦で会場を沸かせる(撮影:島尻譲)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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