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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の本音】ファンに申し訳ない途中欠場…“1着だけ”を狙ったコース選択自体に後悔はない/西武園オールスター競輪回顧

2022/08/22 (月) 18:00 48

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirinをご覧のみなさん、励ましの声に感謝が絶えない! 佐藤慎太郎です。西武園オールスターは2日目に落車棄権してしまい、そのまま途中欠場という結果でした。最終日まで走り切れなかったことは無念であり、心からの応援を届けてくれていた人達に対して、とても申し訳ない。今は少しでも早く万全な状態に戻せるように日々を過ごす!

10,080票の想いを力に変えて西武園に乗り込んだ慎太郎選手(写真提供:公財JKA)

応援してくれるファンのチカラ

 サマーナイトが終わり、オールスターに向けてオレはすぐにトレーニングをはじめた。ファンのみなさんがバンクでもSNSでも声をかけてくれるおかげで、オレ自身がひとりで作り出せる“気合い”は限界を余裕で突破していた。とてもじゃないが“101%”のチカラなんて数値じゃ足りない。300%くらいだったろう。

 今の自力全盛の競輪界で追い込み選手のオレに10,080票もの応援があったことは本当に誇らしく、みなさんに感謝する気持ちはそのままオレのパワーになった。練習の“質”というのはモチベーションで決まる部分もあり、科学的なことばかりじゃない。集中して打ち込むトレーニングは最高に充実していたし、その成果が最近モロに出ていた。

 西武園に出発する直前の練習ではベスト同等のタイムが出ていたし、仕上がりに手ごたえを感じながらシリーズに入ることができた。今となっては悔しいが、近年そうはない調子の良さだったように思う。ファンのチカラは間違いなく選手の力になるということ。それを証明するのにオールスター以上の舞台はないぜ、とみなぎっていた。

ドリームレースで確信したコンディション

仕上がりの良さを感じながらドリームレースへ出場(撮影:島尻譲)

 そんな状態で初日を迎えたオレはドリームレースに出場した。着として結果は出せなかったが、ここでもコンディションの良さを確信。スピードの乗りが良く自転車が進む。上がりタイムも10秒6。それでいて脚にも余裕を感じていた。道中、リスクのあるコース取りにも臆することなく突っ込めてたし「順調だな」と安堵した。

 オールスターのような長丁場ではレーススケジュールも重要になる。今節に限っては『2日連続で走って1日休み』がベストだと考えていた。実際に「一次予選2」はその通りのスケジュールになり、小松崎大地とも一緒に走れることになった。すべての流れが噛み合っていた。ツキも味方しているし「北日本ラインで上位独占」、「1着でシャイニングスター賞へ乗る」、「最高の走りをファンに届ける」ことを目標に据えた。

ラインで勝ち上がりを決めるべくレースに臨んだ(撮影:島尻譲)

申し訳ない落車棄権、後悔はない選択

 レースは3番手を取り切る展開になり「これならラインで決められる」と思った。しかし、それまでの良い流れがまるでなかったかのように最後の最後の一番大切なところで噛み合わなかった。バックで嘉永と並んだあたりから4コーナーまで、そして直線の入り。すべて悪い方向にレースが流れていったように思う。そして落車棄権に至る。

 GIの舞台で全選手が真剣勝負をしている結果だし、西武園のバンクはコーナーから直線に入るときに「戻り過ぎちゃう」って特徴があるから、接触した杉森にもオレにも悪気はない。仕方のないアクシデントだった。これが競輪の難しいところ。絶好調でも「まさか」に飲まれることがある。その逆もあるがね。

 オレは「1着を獲りにいく姿勢」を評価されてみなさんに投票してもらえたと思っている。そんなオールスターの舞台、いつにも増して“アタマを狙うコース取り”しか考えられなかった。映像で振り返ってみても自分のコース取りには後悔がない。お客さんに見せたい走りはあのコースにしかなかったと振り返っている。

1着までいけるコースを攻めた(撮影:島尻譲)

 落車直後は「二次予選に進むためには棄権するわけにはいかねえし、とりあえず再乗しねえと」って考えた。(編集部注:慎太郎選手は初日ドリームレースで12ptを獲得し、完走さえできれば一次予選通過はほぼ確実な状況。9着は4ptで棄権は1ptと定められている)。でも再乗は叶わなかった。前輪がバラバラに砕けていたし、オレの右肩はゴツゴツ骨が浮いてしまっていた。棄権以外の選択肢はなく万事休す。

前輪はめちゃくちゃな状態(撮影:島尻譲)

 Tシャツを着て応援してくれていたファンやツイッターで「楽しみにしてます」と激励してくれたファンのことが頭に浮かび、ただただ申し訳ない気持ちで一杯だった。この落胆の複雑さは言葉で正確に書くのは不可能だと思う。読んでもらっている通り、申し訳なくてたまらないのにコース選択に後悔してないわけだから。

「限界? 気のせいだよ!」Tシャツを着た現地のファンも落車後の様子を見守っていた(撮影:島尻譲)

途中欠場の寂しさは収穫と捉える

 退場後に医務室に行き「負け戦になろうがオレはオレの走りで魅せるまでよ!」と意気込んでいた。しかし「肩か鎖骨の先が折れている可能性」を告げられ、すぐさま病院送りになっちまった。落ちた瞬間はヤバイ感じの衝撃だったし「これ肩いっちまったろうな」って感覚もあったから、強制退場もさすがに受け入れざるを得なかった。

 一人になると「今頃みんなメシ食ってるだろうな〜」とか「そろそろ寝てんだろうな〜」とか考えるわけ。途中欠場ってやつはものすごく寂しい(苦笑)。最終日まで走り切れることがどれだけ幸福なことか。本当に「競輪の楽しさ」を痛感するんだよな。無事に走り切るのは当たり前のことなんかじゃないし、アクシデントによって突然選手として終わる可能性だってある。競輪は何が起きるかわからない。それを大舞台オールスターの途中欠場で味わったことは収穫というか、絶対に収穫にしなくてはならない出来事だと思う。

苦境に立たされも“収穫”を口にすることが多い慎太郎選手(撮影:島尻譲)

必ず復活するということ

 オレはよく「禅の本」を読むんだけど、禅語に『閑座聴松風(かんざしてしょうふうをきく)』ってのがある。「心穏やかにして自然の音を聴く」というもの。オレにとってこの言葉は「日々の中で見過ごしている当たり前がある」って意味として解釈している。今はトレーニングを休み、自然の音に耳を傾けて『閑座聴松風』を実践している。聞こえてくる音は車輪の走る音をはじめ、検車場や宿舎の音、ファンの声。もはや「オレの競輪」は自然と一体化していると気づく。

 オレは競輪選手として最終的に何になりたいのかわからん。オレのゴールがどこにあるのかなんて知る由もない。ただオレの競輪人生は目の前に勝つべき自分がいて、勝つべきレースがあって、お客さんが楽しみにしてくれている。それがオレの自然の音であり、目の前の一つひとつの出来事を積み上げていけば、自分の最後のゴールを知れるんじゃねえのかなって思っている。

 競輪選手は最高の職業だ。最終目的が何なのか、どこにあるのか。それを知るために、目の前の一戦一戦を無駄にせず、これからも全身全霊で勝負していきたい。

 そのためにも今は全力で体を治すこと。予定していた富山記念は悔しいが欠場の決断をした。楽しみにしてくれたファンのみなさんには申し訳ないけど、プロとして出場すべきじゃないコンディションであり、復活までの時間が必要だった。

 言うまでもなく限界は気のせい。でも加齢は気のせいではない。擦過傷がまあ治らねえ治らねえ。でもネガティブに落ちてるヒマなどない。自分の回復スピードと向き合うことは日々の筋肉トレーニングのヒントにもなる。筋トレってダメージ&回復だから、理屈は怪我と一緒。本当に若い頃と違う体になっているので、これを機に自分の体について新しい気づきを得ようと思っている。ひとつでも強くなるためのヒントを見つけていく。

 今月はここで筆を置くが、必ず復活することを誓い、今は万全の状態に向けて努力することを報告する。ちょっと松風を聞いてきますわ!

全身全霊で怪我と向き合うことを宣言(撮影:島尻譲)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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