閉じる
佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎のGI回顧】賞金のためでもグランプリのためでもなく「己の限界を高めるため」と悟る

2022/06/25 (土) 18:00 23

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、腕立て伏せで上半身に刺激を入れてから書き始めてます、佐藤慎太郎です。オールスター競輪はファン投票の結果、ありがたいことにドリームからスタートできることに。みなさんの応援がなくては走れないレースなので、出れることが本当に嬉しい。自分のスタイルを貫き、選んでもらったことを肝に銘じて、夏の大一番、全力勝負してきたいと思う。

 さて、今回のコラムは高松宮記念杯の振り返りと賞金に対する気持ち、今年前半トータルの振り返りを書き留めてみるよ。

脚だけではなく上腕の筋肉でも魅せるTシャツ姿の佐藤慎太郎選手(撮影:島尻譲)

情けない1着を胸に刻む

 いざコラムを書こうとすると、とにもかくにも準決勝での「情けなくなる1着」が思い浮かぶ。準決勝は小松崎大地と渡部幸訓とラインを組み、オレが1着で幸訓が2着、大地が3着で入線した。ゴール後の審議で幸訓が失格となり、大地とオレが決勝へ駒を進めた。

 競輪選手は1着を目指して走るのは当然だけど、ラインを組んで走る以上は“プロセス”が求められる。宮杯の決勝への切符となる勝ち上がり条件は2着以内、ライン3車のオレ達はジレンマを抱えている。ワンツースリーの上位独占を決めても誰かが落ちるわけだから。こういう場面では“冷静にいつも通り”が難しい。

準決勝の福島ライン、左から小松崎大地-佐藤慎太郎-渡部幸訓(撮影:島尻譲)

 オレの根底にあるスタンスとして「番手は先頭選手を残す」がある。大地からしても「慎太郎さんなら2着に残してくれるはずだ」と信頼してブンブン先行してくれてるわけだから、その思いに応える走りをしなくてはならない。でも2着に大地を残せなかった。これは情けないし、技量不足と「気持ちの余裕のなさ」を痛感した。レース後に大地と笑い交じりに話したが、大地は内心面白くなかったと思うし、「佐藤慎太郎は気持ちに余裕もねーのかよ」と自分を叱責した。

 もっと大きな視点で見れば「青龍賞」に乗れなかったところから始まっている。「青龍賞1着」を獲れていれば3着でも勝ち上がることができるわけだから、準決勝の戦い方や気構えの面で違ってくるし、大地と幸訓と上位独占することのみに意識を集中することができたはず。競輪の勝ち上がりの難しさを実感して「目の前のレースに気を抜いていいレースなんてない」と改めて考えることになった。

 今一度ラインの仲間が有利に走れるように、自らも勝てるように、という“プロセス”について考えながら走らなければならない。準決勝の1着はまるで1着とは思えないレースだった。当然、幸訓に対する気持ちもあるから、かなり書きにくい内容だったが、この情けない1着は振り返らずにはいられないので、ここに戒めとして記しておく。

初日の結果もすべて影響するのが勝ち上がりの難しさ(撮影:島尻譲)

地元優勝を決めた古性優作

 他地区の選手の優勝を讃える気持ちになるのも歯がゆいし悔しいんだけど、古性は素晴らしかった。これは一人の競輪選手として思う。競輪界を背負う1番車であり、地元のGIともなれば期待もかかる。プレッシャーの受け方は並大抵のものではなかったはず。

 オレが1番車を担っていた年、ちょっとした心境変化があった。うまく言えねーんだけど『競輪界全体のことを発信』したくなったんだよね。面倒くさがりのオレがSNSなんか立ち上げちまったくらいだよ。期待される喜びと重圧については、そういう観点でそれなりに知っているつもり。古性もそれがわかる選手だし「レースで魅せる」という方法で競輪を背負っているんだろうと思う。そんな中で地元の決勝戦を1着で駆け抜けた古性はすげえ。

 レース映像を何度振り返っても、勝つにはなかなか難しい展開だったように思う。だが、オレ目線の話だけすれば、ポイントは最終2コーナーだね。あのタイミングまでに郡司の位置を取り切れば、捲ってくる古性にも対応できて、最終直線ではまた違った勝負ができたのではないか、と。

 レース後のインタビューで『3コーナーで「もう一度郡司が潜り込んでくるかもしれない」と内に意識を向けてしまい、古性に反応できなかった』とコメントしたが、冷静にレースを思い起こし、映像で振り返ると、そもそも脚が残ってない。超一流の郡司と約半周も並走したら、脚力消費も半端じゃないんだよね。

郡司浩平選手との並走で余力を削られた(撮影:島尻譲)

 古性の捲りに対応できなくとも、古性の後ろにスイッチすることも考えられる展開ではあった。その動きが取れなかったということは「内に気を取られていた」という意識だけの問題ではなく、脚力を消耗し切っていたということ。ここに課題を見つけたので、必要な脚力強化に取り組むしかない。

 古性を讃えたい気持ちで書き始めたし、それも本心なんだけど、まあやっぱり悔しいわ(笑)。岸和田の地には「慎太郎やったれ」って声援くれるファンも大勢いた。その声を思い返せば、ジリジリと悔しさが込み上げてくるってもんよ。もうずっと言い続けているけど、応援してくれる人達にGI獲る姿を見せてえんだよ、オレは。岸和田のみなさん、素晴らしい応援をいただきやした。その声を思い返し、全力でトレーニングに励むぜ。

高松宮記念杯決勝5着となった(撮影:島尻譲)

獲得賞金“20億円”をめざして

 宮杯が終わり、オレは新田と帰った。「地元勢は祝勝会かな、羨ましいぜ」とか「GIくらい北日本で打ち上げしたいな」とか考えていると、新田が何やらニュースを見つけた。

新田「慎太郎さん、おめでとうございます」
オレ「誕生日もっと先だぞ」
新田「15億円突破らしいっすよ、賞金」
オレ「マジか」

 獲得賞金15億円突破のニュースを見てみると、オレは史上11人目らしい。ランキング上位には錚々たる先輩方が名を連ねていた。さすがに自分がヒヨッコ過ぎるし、「まだこんな伝説みてーな先輩たちの領域にいねーだろ」って感じだった。

 でもプロの競輪選手として獲得賞金というのはステータスシンボルのひとつ。素直に嬉しかったし、「伝説みてーな先輩たちの領域にいねーだろ」ってのは、上を目指したい気持ちの裏返しでもある。新田は「年末1億円積み上げちゃいましょう」なんて声をかけてくれたし、このコラムの滝沢プロとの対談では「50までS級S班」なんて掲げたし、オレは現実感を持って『20億円突破』を目指していこうと思う。

 めでたい節目だったが、最終的に新田とは「時間がない」って話に終始した(笑)。誰にでも訪れる問題として時間は有限。きっちり気合を入れて、競輪界の上位に位置できるように色々な物差しを持って自分を鼓舞していくまで。目を¥マークにするわけではない。“賞金稼ぎ”という『競輪選手』を職業にするプロとして、稼げるように頑張るだけ!

積み上げた賞金は15億円を突破するも「あくまでも“ついてくる”もの。賞金そのものを意識的に追いかけるのはマインドが違う」と本人談(撮影:島尻譲)

グランプリのためにやっているわけではない

 今年前半を振り返れば、トータル的には成績が安定していた。レース間隔やトレーニングのスケジュールなど忙しさ的には例年と変わりはないが、成績が安定していた分、賞金の獲得ペースも上々。グランプリ出場のための獲得賞金争いを考えても、安心していい水準で推移している。だが! まったく気持ちに余裕は生まれていない。

 去年の今頃「前半に賞金を積み上げる大切さ」を痛感して、切羽詰まった感覚で後半に向かうメンタルを良しとしていなかった。でもいざ、前半に賞金を積み上げることができても、 全然リラックスモードなんて訪れねえ(笑)。最近はこの感覚をことさら感じていて、何か本質的なことに気づけているんじゃないか、と思うことがある。

「グランプリのためだけにやってるわけじゃないんだよな」みたいな感覚と言えばいいのかな。その時その時のベストパフォーマンスをお客さんに観てもらいたいし、自分の限界を高めていきたいって気持ちは増す一方。たまにオレの中にいる悪い佐藤慎太郎が「この局面、もっと気を抜いてもいいんじゃねーの慎太郎」なんてささやいてくる。「いやダメだろ」ってオレがその考えをかき消すような不思議な感じ。

限界はもっとずっと先にある(撮影:島尻譲)

 トレーニングは継続してやらないと血肉にならない。サボって力をダウンさせるのは超簡単。自分の限界を高めたくて、それを楽しみに競輪選手をやってきて「力を落としたくない」という土台も最近になって仕上がってきているんだろう。自分を律しながら手を抜かずにトレーニングし続けるのはもちろん苦しいけど、「力を落としたくない」という焦燥感はプロフェッショナルとしてどこか理想的なようにも感じている。

 宮杯が終わり最終便で帰宅して、室内用のトレーニングバイクに乗り、翌朝は軽く遊びのサイクリングをした。そこで準決勝の情けない1着も、決勝で見つけた課題も、心の中ではケリをつけた。これからの後半戦に意識を向けよう。競輪界の強くてどうしようもないクレイジーなやつらと戦いながら、佐藤慎太郎の限界を真剣に高め続ける。以上! 筆を置き、肉を食らってくる! ガハハ!

「慎太郎がんばれ」の声を胸に(撮影:島尻譲)

【公式HP・SNSはコチラ】
佐藤慎太郎公式ホームページ
佐藤慎太郎Twitter

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

佐藤慎太郎“101%のチカラ”

佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

閉じる

佐藤慎太郎コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票