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山田裕仁のスゴいレース回顧

【水戸黄門賞 回顧】万全の態勢で勝機をモノにした吉澤純平

2022/06/08 (水) 18:00 18

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが取手競輪場で開催されたGIII「水戸黄門賞」を振り返ります。

5年ぶり2度目の地元GIII優勝を果たした吉澤純平(左)はゴール後、ラインを組んだ吉田拓矢と健闘を称え合う(撮影:島尻譲)

2022年6月7日(火) 取手12R 開設72周年記念 水戸黄門賞(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①吉田拓矢(107期=茨城・27歳)
②松浦悠士(98期=広島・31歳)
③宿口陽一(91期=埼玉・38歳)
④南修二(88期=大阪・40歳)
⑤吉澤純平(101期=茨城・37歳)
⑥元砂勇雪(103期=奈良・30歳)
⑦石原颯(117期=香川・22歳)

⑧杉森輝大(103期=茨城・39歳)
⑨三谷竜生(101期=奈良・34歳)

【初手・並び】
←①⑤⑧(関東)⑦②(中四国)③(単騎)⑥⑨④(近畿)

【結果】
1着 ⑤吉澤純平
2着 ②松浦悠士
3着 ⑨三谷竜生

地元記念を目標に仕上がっていた茨城勢

 6月7日には取手競輪場で、水戸黄門賞(GIII)の決勝戦が行われました。佐世保競輪場での「全日本プロ選手権記念競輪」を挟んだのもあって、ちょっと久しぶり感のある記念開催となりましたね。ここには、その「全プロ」にも出場していた松浦悠士選手(98期=広島・31歳)や、取手がホームバンクである吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)など、4名のS級S班が出場していました。

 佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)は残念ながら、準決勝で内に詰まって力を出せずに敗退となりましたが、それ以外のS級S班はいずれも決勝戦まで駒を進めています。なかでも注目度が高かったのは、やはり地元の代表格でもある吉田選手でしょうね。茨城勢は3名が決勝戦に進出と、このシリーズでおおいに存在感を発揮しています。地元の“利”があったとはいえ、内容もなかなかのモノでしたよ。

 その地元・茨城勢の先頭を任されたのが吉田選手で、番手を回るのは過去にこのレースを制した経験もある吉澤純平選手(101期=茨城・37歳)。前々場所の大垣S級シリーズでは優勝、そして「全プロ」でも2走して1着、1着と、ここを目標にかなり仕上げてきている印象を受けました。また、ライン3番手を固める杉森輝大選手(103期=茨城・39歳)も、無傷の3連勝で勝ち上がり。こちらも、調子はかなりよさそうでしたね。

 2名が勝ち上がった中四国ラインは、気っ風のいい先行が魅力の石原颯選手(117期=香川・22歳)が前を走ります。ここでも、主導権を奪いにくる可能性がもっとも高いのは、石原選手でしょう。その後ろに安定感抜群の松浦選手という組み合わせですから、2車ラインとはいえ戦闘力は十分。石原選手のレースの組み立てや展開次第で、ラインでのワンツーも決められそうです。

 そして3車ラインとなった近畿勢は、元砂勇雪選手(103期=奈良・30歳)が先頭で、その番手を回るのが三谷竜生選手(101期=奈良・34歳)。三谷選手はこのシリーズ、杉森選手と同じく3連勝で勝ち上がってきました。デキのよさが目立っていた選手の一人で、三谷選手らしい立ち回りの巧さが随所で見られましたね。近畿ラインの3番手は、南修二選手(88期=大阪・40歳)が固めます。

S級S班の宿口陽一(左)と18年GP覇者の三谷竜生の実力者2人も存在感を発揮した(撮影:島尻譲)

 唯一の単騎となったのが宿口陽一選手(91期=埼玉・38歳)で、同じ関東ながら茨城勢とは別線を選択。ようやく調子が戻ってきたのか、このシリーズでは久しぶりに彼らしい走りができているように感じました。今年はなかなかいい結果を出せずにいますが、ここは久々にS級S班としての力を示せそうなムード。デキのよさも手伝って、単騎とはいえ軽くは扱えません。

かかった石原の番手から抜け出す松浦に吉田と三谷が迫る

 以上、なかなか面白いメンバーでの混戦模様となった決勝戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは吉澤選手が迷わずに飛び出していきます。その後に続いたのも吉田選手と、地元の茨城勢は最初から「前受け」を決めていたのでしょうね。その後の4番手が石原選手で、単騎の宿口選手は6番手から。そして後方7番手に元砂選手というのが、初手の並びです。ここまでは、レース前の想定通りですね。

 最初に動いたのは後方にいた元砂選手で、先頭の吉田選手ではなく、中団の石原選手を外から抑えるカタチに。そのままの態勢で赤板(残り2周)を通過して、1センターから元砂選手が、今度は先頭の吉田選手を斬りにいきます。これでようやく動けるようになった石原選手は、すかさず外に出して近畿ラインの後ろに。そして打鐘の手前で一気に仕掛けて、先頭に立った元砂選手を叩きにいきました。

 元砂選手も突っ張りますが、スピードで勝る石原選手が強引に主導権を取りきって、打鐘過ぎの2センターで先頭に。しかし、中四国ラインの後ろにつけていた宿口選手は、ここで離れてしまいます。これが意図的なものだったのかどうかは…う〜ん、ちょっとわかりかねますね。松浦選手の後ろについていこうとすれば、いけたと思うんですが。

 最終ホームでは中四国ラインの石原選手が先頭に立ち、叩かれた元砂選手は早々と脱落。近畿ライン番手の三谷選手と3番手だった南選手はスムーズに切り替えて、今度は松浦選手の後ろにつけます。その後ろの5番手が宿口選手で、吉田選手が後方6番手という隊列で、最終ホームを通過。レースは佳境となる、最終周回の攻防へと入っていきます。

 まず動いたのは宿口選手で、2コーナー過ぎから捲りにいきますが、逃げている石原選手のかかりがよく、前との差がほとんど詰まりません。後続をできるだけ引きつけたい松浦選手は、石原選手との車間をきって後続を待つ態勢。そこに今度は、満を持して仕掛けた吉田選手が襲いかかります。先に仕掛けた宿口選手を外から一気に抜き去り、3コーナー手前では前を射程圏に入れました。

 ここで松浦選手が番手から捲りにいきますが、外から迫る吉田選手の脚色もいい。直線の入り口では、松浦選手が進路を少し外へと振って、吉田選手を牽制にいきました。それで空いた内を突いたのが、松浦選手の後ろで脚をタメていた三谷選手。番手捲りからの押し切りを図る松浦選手に、内外から選手が迫るという態勢で、最後の直線に入りました。

最終2センター。番手から捲った松浦(黒・2番)を目標に、吉田(白・1番)と三谷(紫・9番)が迫る(撮影:島尻譲)

敗れてもS班の力を見せた吉田、吉澤がGIに向けて調子の維持がカギに

 内を突いた三谷選手がジリジリと伸びて迫りますが、一気に松浦選手を捉えるほどの勢いはない。吉田選手も脚にもう余裕がないのか、伸びはありません。これは松浦選手が押し切るか…と思われたところを、イエローラインよりも外から一気の脚で伸びてきたのが、吉田選手マークの吉澤選手。内外が離れてのゴールとなりましたが、少しだけ出ていたのは吉澤選手のほうでした。

 直線一気で外から突き抜けた吉澤選手が1着で、惜しい2着に松浦選手。3着は内から伸びた三谷選手と、各ラインの番手を回っていた選手が上位を占める結果となりました。最後の脚が素晴らしかった吉澤選手は、これで二度目の地元記念制覇。デキが非常によかったのもありますが、「ここの主役は吉田拓矢」というスタンスで、あまり気負わずに乗れたのもいい方向に出たという気がします。

 吉田選手にうまくスピードをもらっての優勝とはいえ、勝ちパターンに持ち込んだ松浦選手を最後キッチリ捉えたのですから、賞賛に値する内容。近況の充実ぶりを考えると、岸和田での高松宮記念杯競輪(GI)でもいい走りを見せてくれそうで、楽しみですよ。ほぼピークにある調子を、今後いかに維持できるかがカギとなりそうですね。

 どこか既視感のあるような「惜しい2着」となった松浦選手は、悔しい結果でしょうね。石原選手が非常に力強い先行をしてくれただけに、ここはキッチリ優勝しておきたかった…というのが正直なところでしょう。とはいえ2車ラインで、しかも自分の後ろに切り替えた三谷選手がつけているとなると、仕掛けどころがきわめて難しい。石原選手が最後まで踏ん張り通せる可能性もあったとなれば、なおさらです。

 吉田選手が外からいい脚で捲ってきたのもあって、理想的なタイミングよりも「少しだけ早く」前へと踏んだ印象でしたが、あれ以上に待って引きつけるというのは、実際問題かなり厳しかったはず。惜しくも優勝は逃しましたが、内容のあるいい走りができていたように感じました。春先には、ちょっと精彩を欠いていた感のある時期がありましたが、しっかり立て直せていますよね。これができるから、彼は超一流なんですよ。

 巧みな立ち回りで3着に入った三谷選手も、内容のあるいい走り。各ラインがそれぞれ存在感を発揮して、優勝を目指して奮闘した結果がコレだったといえる、いい決勝戦になったと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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