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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ワンダーランドカップ 回顧】最後までシリーズを牽引した眞杉匠

2022/05/23 (月) 18:00 17

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが宇都宮競輪場で開催されたGIII「ワンダーランドカップ」を振り返ります。

吉田拓矢の優勝で幕を閉じたワンダーランドカップ(撮影:島尻譲)

2022年5月22日(日) 宇都宮12R 開設73周年記念 ワンダーランドカップ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①吉田拓矢(107期=茨城・27歳)
②中本匠栄(97期=熊本・35歳)
③松浦悠士(98期=広島・31歳)
④大槻寛徳(85期=宮城・43歳)
⑤眞杉匠(113期=栃木・23歳)
⑥坂本健太郎(86期=福岡・41歳)
⑦小倉竜二(77期=徳島・46歳)
⑧金子幸央(101期=栃木・29歳)

⑨中川誠一郎(85期=熊本・42歳)

【初手・並び】
←⑨②⑥(九州)⑤⑧①(関東)③⑦(中四国)④(単騎)

【結果】
1着 ①吉田拓矢
2着 ⑧金子幸央
3着 ③松浦悠士

S級S班以外にも個性派が揃って見どころの多い開催に

 5月22日には宇都宮競輪場で、ワンダーランドカップ(GIII)の決勝戦が行われています。古性優作選手(100期=大阪・31歳)や松浦悠士選手(98期=広島・31歳)など、ここには4名のS級S班が出場。そのほかにも、中川誠一郎選手(85期=熊本・42歳)や山口拳矢選手(117期=岐阜・26歳)など、レースを盛り上げてくれる選手がズラリと顔を揃えたシリーズとなりました。

 古性選手は準決勝で、中団から捲るも残念ながら6着まで。中本匠栄選手(97期=熊本・35歳)の牽制で脚色が鈍ったのもありますが、それ以上に、腹をくくって先行した中川選手のスピードが素晴らしかった。逃げてもあれほど力強い走りができるんですから、「八番手師匠」なんて呼ばれてないで、普段からもっと先行すればいいのに…なんて思ってしまいますよね(笑)。

準決勝では先行して決勝に勝ち上がった中川誠一郎(3番・赤)(撮影:島尻譲)

 決勝戦で3車ラインとなった九州勢は、決勝戦でも中川選手が先頭。番手が中本選手で、3番手を坂本健太郎選手(86期=福岡・41歳)が固めるという布陣です。さすがにこの相手関係で「中川選手が再び主導権」という展開は考えづらく、ここは後方から一気に捲る競輪を仕掛けてくるでしょう。中川選手のデキもよさそうですから、前がもつれる展開にでもなれば、非常に怖いですよ。

 ここで主導権を奪いにくるのは、地元である関東ライン。3名が勝ち上がった関東勢は、宇都宮がホームバンクである眞杉匠選手(113期=栃木・23歳)が先頭を務めます。初日からおおいに存在感を発揮していた眞杉選手は、調子もかなりよさそうでしたよね。番手も、眞杉選手と同じく「純地元」の金子幸央選手(101期=栃木・29歳)。そして、ライン3番手が吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)です。

 このシリーズでは自力ではなく番手からの競輪が多かった吉田選手ですが、ライン3番手を走るのは今回が初。吉田選手が先頭を走るカタチもあったと思うんですが、それは眞杉選手に断られたらしいですね。番手を走る金子選手も、前節でS級シリーズを優勝と、地元記念に向けてかなり調子を上げてきている様子。かなり強力なラインナップだけに、他のラインは関東勢の力を「どう削ぐか」がポイントとなります。

 その期待を、ファンはもちろん他の選手からも託されたのが、中四国ラインの先頭を走る松浦悠士選手(98期=広島・31歳)。関東にすんなり主導権を奪われるような展開にしないために、彼がここでどういったレースを仕掛けてくるのか、注目が集まります。その番手は小倉竜二選手(77期=徳島・46歳)で、松浦選手の走り次第では十分にチャンスがありそう。大槻寛徳選手(85期=宮城・43歳)は単騎を選択して、一発を狙います。

松浦の仕掛けを冷静に封じた眞杉の走り

 では、レース回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴って、まず飛び出したのは中本選手。吉田選手も出ましたが、中本選手がスタートを取る気配をみせると、スッと引きましたね。ここは九州ラインが前受けとなり、眞杉選手が先頭を走る関東ラインは中団4番手から。その後の7番手に松浦選手がつけて、最後方に単騎の大槻選手というのが、初手の並びです。

 最初に動いたのは後方に位置する松浦選手で、かなり早い段階からポジションを上げていって、眞杉選手を抑えるカタチで外を併走します。単騎の大槻選手も、これに連動。松浦選手はまるで「好きには走らせないぞ」という意思表示のように、肩や頭をぶつけ合い、眞杉選手を内に押し込めるような走りをしていましたね。レースは、このままの隊列で赤板(残り2周)を通過。再びレースが動き出したのは、打鐘からでした。

眞杉匠(5番・黄)を外併走から牽制する松浦悠士(3番・赤)。残り2周手前から激しく火花を散らす(撮影:島尻譲)

 打鐘で動いた松浦選手は、先頭を走る中川選手を斬って先頭に。眞杉選手も、この後に続きます。後方から一気に捲る競輪をしたい中川選手は、当然ながら突っ張りません。松浦選手が先頭、眞杉選手が中団という隊列に変わって、今度は眞杉選手が主導権を奪うべく最終ホーム手前からスパートを開始。前でそれを待っていた松浦選手も、進路を外に振って眞杉選手のスピードを殺しつつ前へと踏んで、仕掛けを合わせます。

 しかし、外を回る眞杉選手のダッシュがいい。走るコースにもかなり気を配って、内から飛びついてラインを分断しようとする松浦選手のプランを、見事に封じ込めます。2コーナー過ぎでは番手の金子選手まで出切って、続く吉田選手もしっかりとライン3番手をキープ。松浦選手は4番手まで下げてから巻き返しを図りますが、ここから挽回するのは簡単ではありませんよね。

中四国ラインとの主導権争いを制した関東ライン。眞杉(5番・黄)が素晴らしいスピードを見せた(撮影:島尻譲)

 ここで満を持して動いたのが後方にいた中川選手で、最終バック手前からの仕掛けで前へと迫ります。素晴らしいスピードの捲りで、3コーナー手前では前を射程圏に。このまま、一気に先頭まで飲み込みそうな勢いでしたね。しかし、先頭を走る眞杉選手もいい粘りをみせており、ライン2番手の金子選手は前との車間をきって、いつでも前へと踏み込める態勢。そしてレースは、勝負どころに入ります。

 3コーナー、外から迫る中川選手と並んだところで、金子選手は併せて前に踏むのではなくブロックを選択。それによって空いた内の進路を、関東ライン3番手の吉田選手が真っ直ぐに突き進みます。中川選手はかなり外まで振られ、そこから態勢を立て直して再び前を追いますが、勢いはかなり削がれている。ブロックにいった金子選手も進路を再び内に切り替えて、先頭の眞杉選手を追います。

 直線の入り口まで踏ん張り通した眞杉選手ですが、残念ながらここでついに失速。道中で脚を温存できている上に、進路までキレイに空いた吉田選手が、一気に先頭へと躍り出ます。外からは金子選手と中川選手、内では松浦選手が必死に前を追いますが、前との差はなかなか詰まらない。態勢はそのまま変わらず、先に抜け出した吉田選手が1着でゴールを駆け抜けました。

どのラインもベストを尽くした好レース

 2〜3着争いが僅差となりましたが、しぶとく伸びた金子選手が制して、関東ラインのワンツー決着に。3着が松浦選手、4着が中川選手という結果で、3連単はなんとこの組み合わせが1番人気だったんですね。確かに、関東ラインから狙う場合でも松浦選手の3着はしっかり押さえる必要アリですが、さすがにこの組み合わせが1番人気とは思いませんでしたよ。競輪ファンの皆さん、車券がウマい!

 この結果の“立役者”は、なんといっても眞杉選手でしょう。昔からお世話になっているという金子選手が番手についたのもあって、とても気持ちが入った競輪をみせてくれました。主導権を奪いにいったときのダッシュや、松浦選手を飛びつかせなかったスピードと走りなど、見どころ十分。最後の最後で力尽きたとはいえ、直線の入り口まで先頭で踏ん張り通していますからね。本当に力をつけていると思います。

 優勝した吉田選手は「勝つときはすべてがうまくいく」のパターン。このシリーズでは番手戦が多かったのもあって、それほど調子がいいという印象はなかったんですよ。決勝戦は、慣れないライン3番手からの勝負で大変だった面もあったでしょうが、眞杉選手や金子選手がつくり出した勝機をしっかりモノにしました。S級S班としての力を示した、いいレースでしたよ。

 2着の金子選手については、記念や特別で走る選手のなかに入ると、もうワンパンチ足りない面がありますね。眞杉選手の力強い走りで、ここで勝つための「お膳立て」はできていたと思うんですよ。でも残念ながら、その好機をモノにできなかった。脚に余力はなかったでしょうから、あそこで中川選手をブロックにいかず前に踏んでいたとしても、勝ててはいなかったと思います。

 3着の松浦選手については、好調ではあっても絶好調ではなかったのではないかと。本当にいいときの彼なら、関東ラインの分断に成功しているはずですから。それでも、あの展開で3着にくるというのは、力があるからこそ。あとは、ブロックされていなければ先頭まで突き抜けていたであろう中川選手のスピードも、見応えがありましたね。どのラインも、優勝を目指してベストを尽くす、いい走りをしていましたよ。

レース後に健闘を称え合う吉田(左)と眞杉(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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