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山田裕仁のスゴいレース回顧

【五稜郭杯争奪戦 回顧】決勝戦の選手心理に大きく影響した“失格”

2022/05/18 (水) 18:00 21

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが函館競輪場で開催されたGIII「五稜郭杯争奪戦」を振り返ります。

嬉しい記念初優勝となった瓜生崇智(撮影:島尻譲)

2022年5月17日(火) 函館12R 開設72周年記念 五稜郭杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①小松崎大地(99期=福島・39歳)
②清水裕友(105期=山口・27歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
④佐々木豪(109期=愛媛・26歳)
⑤稲川翔(90期=大阪・37歳)
⑥山本伸一(101期=奈良・39歳)
⑦守澤太志(96期=秋田・36歳)
⑧瓜生崇智(109期=熊本・27歳)

⑨佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)

【初手・並び】
←⑥⑤(近畿)①⑨⑦(北日本)③(単騎)④②⑧(混成)

【結果】
1着 ⑧瓜生崇智
2着 ③郡司浩平
3着 ②清水裕友

誘導員の早期追い抜きに対して感じていること

 5月17日には函館競輪場で、五稜郭杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。先日のダービーに引き続いて、こちらも北日本地区での開催。ダービーで上位に食い込んだ佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)や守澤太志選手(96期=秋田・36歳)など、4名のS級S班が出場しており、その全員が決勝戦へと駒を進めています。その他の出場メンバーもなかなかレベルが高く、面白いシリーズとなりましたね。

 残念だったのが、最終日の8レースで「誘導員の早期追い抜き」による失格が出てしまったこと。対象は藤井侑吾選手(115期=愛知・27歳)ですが、ルールを破ろうだなんて微塵も思っていないんですよ。しかし、たとえ故意でなくともこの罰則をとられると、そのレースで失格になるのはもちろん、「約4カ月のあっせん停止」という非常に重いペナルティを課せられるんです。

 もちろん、ルールはルールですから、それを守れなかった藤井選手にも責任はある。とはいえ、「先頭誘導員を抜くのがほんの一瞬だけ早かった」ことに対するペナルティとしては、あまりに厳しい。ハッキリ言って、誰にも迷惑をかけていませんからね。あとは、車券を買ってくれているファンに対しても、このままだときわめて不誠実です。ボートレースの「フライング」に近い事象なのですから、ハズレ扱いではなく返還とするのが妥当ではないでしょうか。

 このルールについては選手の側からも是正を求めているのですが、残念ながらいまのところ、そういった動きはありません。そして、この失格が出ると、ペナルティの重さを知る他の選手にも苦しみが伝播するというか…空気が一気に重くなるんですよ。その後のレース内容にも、かなり影響が出る。実際、この決勝戦のレース展開にも、大きく影を落としていたように感じます。

単騎でもデキの良さが目立った郡司

 では話を決勝戦に戻して…ここは3分戦となりましたが、先行するのが佐々木豪選手(109期=愛媛・26歳)であるのは、ほぼ確実というメンバー構成。その番手を回るのは同じく中四国の清水裕友選手(105期=山口・27歳)で、3番手を瓜生崇智選手(109期=熊本・27歳)が固めます。瓜生選手は他地区ですが、佐々木選手とは競輪学校の同期。デキのよさも目立っていましたね。

 地元である北日本は結束して3車ラインに。先頭は小松崎大地選手(99期=福島・39歳)で、番手が佐藤選手、3番手が守澤選手という並びです。ラインナップは強力ですが、マーク選手を生かすも殺すも、ライン先頭の選手次第。勝ち上がりの過程では郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)におおいに助けられた側面もあり、果たして決勝戦ではどうか…というのが個人的な印象でした。

 2名が勝ち上がった近畿勢は、山本伸一選手(101期=奈良・39歳)が前で、稲川翔選手(90期=大阪・37歳)が後ろという並び。この相手となると、正攻法で勝負に持ち込むのはいささか厳しいので、展開面での助けなどが必要でしょう。そして、単騎を選択したのが郡司選手。立ち回りの難しさはありますが、自力があるのは言うまでもなくデキもいいので、単騎でも好勝負が可能という見立てです。

動くに動けなかった北日本ライン

 スタートが切られると、迷わず飛び出していったのが稲川選手。近畿ラインの前受けで、その後の3番手に北日本ラインがつけます。単騎の郡司選手は6番手からで、後方7番手に佐々木選手という初手の並びとなりました。主導権を握るという想定の佐々木選手が後方にいるので、他のラインはこのラインの動きを「待つ」態勢となります。

主導権を握ると思われた佐々木(4番・青)は後方からとなった(撮影:島尻譲)
佐々木(4番・青)は前を走る北日本ラインを牽制しながらレースを進めた(撮影:島尻譲)

 佐々木選手が動き出したのは青板(残り3周)のかなり早い段階でしたが、前を抑えにいきそうな気配だけを見せつつ、実際はジワジワとしか動かないという、他のラインに精神的なプレッシャーをかける走りをしていましたね。その後も先頭ではなく、中団の北日本ラインを外からふわっと抑えるようなカタチで併走していました。

 これならば、先に北日本ラインが前を斬りに動いてしまえばいいのに…と思われた方もいるでしょう。ところが、それがなかなか難しい。小松崎選手が先に動いて先頭に並びかけたところで外から佐々木選手にこられると、3ライン併走の真ん中でいわゆる「アンコ」となり、身動きが取れなくなる可能性がありますよね。

 さらにいえば、8レースで起こったばかりの「誘導員の早期追い抜き」も頭をよぎる。失格が出た直後ですから、選手はより慎重になりますよね。こういった選手心理をフルに利用して、仕掛けるタイミングをかなり遅らせることに成功したのが佐々木選手。実際に動き始めたのは、赤板(残り2周)の手前からでした。

 これを察知して中団の小松崎選手も前へと踏みますが、このタイミングだと先頭にいた山本選手も譲れません。近畿ラインが4番手となり、外から主導権を取りにいった佐々木選手に前を塞がれたのもあって、北日本ラインは6番手から。そして単騎の郡司選手は、なんと最後方に置かれるカタチで、レースは打鐘を迎えます。

佐々木(4番・青)を先頭とする混成ラインの3車が出切る。郡司(3番・赤)は最後方(撮影:島尻譲)

レースを支配した佐々木はラインの優勝に大きく貢献

 打鐘過ぎから全開で飛ばし始めた佐々木選手の先行は非常にかかりがよく、変わらず一本棒の隊列のままで最終ホームを通過します。中団の山本選手が捲りにいく気配はなく、追走だけでかなり脚を消耗している様子。展開的には、完全に「前で決まる」パターンです。ここで動いたのが最後方にいた郡司選手で、2コーナーを回ったところで空いた内を一気にすくって、ポジションを押し上げていきました。

 最終バックの手前で、飛ばしていた佐々木選手が力尽きると、清水選手が番手捲り。しかし、後続を一気に突き放すような伸びはありません。それを追うのが瓜生選手と近畿ラインで、郡司選手はその直後まで差を詰めてきますが、最終2センターでも前とはまだ差がある。北日本ラインはいまだに後方のままという、絶望的な状況です。

 そして最後の直線。粘り込みをはかる清水選手を、外に出した瓜生選手が強襲。その後ろでは、内を狙った郡司選手と外に出した稲川選手が前を追います。清水選手の脚色が鈍ったところを瓜生選手が差し、そこに直線でグイグイと伸びた郡司選手が迫りますが、こちらは清水選手との2着争いまで。ゴールラインを先頭で駆け抜けたのは、これが記念初優勝となる瓜生選手でした。

 大接戦となった2着争いに競り勝ったのは郡司選手で、3着に清水選手。4着は稲川選手で、展開で後れをとった北日本は守澤選手が5着で佐藤選手が6着と、ほとんど存在感を発揮できませんでした。主導権を握った佐々木選手は最下位に終わりましたが、レースの組み立てや非常にかかりのいい先行など、おおいに見せ場アリ。瓜生選手は、しばらく佐々木選手に足を向けて寝られませんね(笑)。

ゴール後、ラインを組んだ健闘を称え合う清水(2番・黒)と瓜生(8番・桃)(撮影:島尻譲)

 そして優勝した瓜生選手も、展開が向いた面があったとはいえ、チャンスをしっかりモノにしたのだからお見事ですよ。それに勝ち上がりの過程でも、1着こそとれていませんでしたが、価値のある着の拾い方ができていたんですよね。守澤選手に敗れたとはいえ、準決勝での2着はかなり強い内容。苦しい展開のなかを勝ち上がってきたことが、決勝戦での“勝機”に結びついたと思います。本当に力をつけているし、この相手での優勝は、おおいに胸を張れます。

 あの展開で2着に突っ込んでくる郡司選手もすごい。「単騎で最後方」というのは、通常であれば挽回がきくレベルのミスじゃないんですよ。後手を踏んだのは事実ですが、完全に飛んだと思われたところからあそこまで巻き返すというのは、尋常ではありません。よくぞここまで…と賞賛したい気持ちのほうが強いですね。

 地元らしさを発揮できなかった北日本ラインについては、「致し方なし」でしょう。前述したとおり、マーク選手が力を発揮できるかどうかは、どうしても先行選手に左右されるものですから。「先行1車」を最大限に利用した佐々木選手によって、後方に置かれる展開をつくり出されてしまったとなると、その時点で厳しい。北日本に力を発揮させなかった、佐々木選手が巧かったといえるでしょう。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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