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山田裕仁のスゴいレース回顧

【日本選手権競輪 回顧】“最強”を証明してみせた脇本雄太

2022/05/09 (月) 18:00 33

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがいわき平競輪場で開催されたGI「日本選手権競輪」を振り返ります。

優勝した脇本雄太(撮影:島尻譲)

2022年5月8日(日) いわき平11R 第76回日本選手権競輪(GI・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・31歳)
②平原康多(87期=埼玉・39歳)
③清水裕友(105期=山口・27歳)
④東口善朋(85期=和歌山・42歳)
⑤眞杉匠(113期=栃木・23歳)
⑥荒井崇博(82期=佐賀・44歳)
⑦守澤太志(96期=秋田・36歳)
⑧脇本雄太(94期=福井・33歳)
⑨佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)

【初手・並び】
←⑧①④(近畿)③⑥(混成)⑤②⑨(混成)⑦(単騎)

【結果】
1着 ⑧脇本雄太
2着 ⑨佐藤慎太郎
3着 ⑦守澤太志

大熱狂の決勝戦、超強力な選手が出揃った

 数ある特別競輪のなかでも、もっとも“格”が高いのが「ダービー」こと日本選手権競輪(GI)です。今年は福島県のいわき平競輪場での開催で、初日から手に汗握るアツい戦いが繰り広げられました。ゴールデンウィーク中の開催で、幸いコロナ禍が落ち着いているのもあって、大勢のファンの方が現場まで足を運んでくださいましたね。やはりこのほうが選手としても張り合いがあるし、おのずと気合いも入ります。

 春らしく、風が強く吹く瞬間がけっこうあったようで、バンクコンディションの重さをコメントしている選手は多かったですね。しかも、ずっと吹いているのではなく、強まったり弱まったりを繰り返していたようです。いわき平バンクは最後の直線が長く、ただでさえ先行する自力選手にとって不利なコース。そこに風の影響もあり、実際にこのシリーズでも、先行選手がけっこう苦戦していた印象でした。

 そして5月8日の決勝戦には、ハイレベルな戦いを勝ち抜いた9名が出場。これぞダービーの決勝戦という、素晴らしいメンバーとなりましたね。各ラインの先頭を強力な自力選手が務めるとあって、見応え十分のレースとなるのは間違いなし。なかでも注目が集まったのは、2019年のダービー王でもある脇本雄太選手(94期=福井・33歳)。ここを目標に、かなり調子を上げてきていましたね。

準決勝でも気持ちの入ったレースをしていた脇本選手(8番)(撮影:島尻譲)

 二次予選や準決勝は「ライン番手の選手に差されて2着」という結果でしたが、勝ち上がりの過程でもあり、とくに不安には感じませんでした。気持ちの入った、いい内容だったと思います。その番手を回るのは、準決勝でも連係していた古性優作選手(100期=大阪・31歳)。近畿の3番手は、東口善朋選手(85期=和歌山・42歳)が固めます。言うまでもなく、超強力なラインナップですよ。

 そんな近畿ラインとも互角に張り合えそうなのが、眞杉匠選手(113期=栃木・23歳)が先頭を任された関東勢。眞杉選手のデキのよさはかなりのもので、連日バックを取る積極的なレースで、スタンドをおおいに沸かせていました。眞杉選手は昨年のダービーで、何もできずに終わってしまったという、苦い記憶がある。それだけに今年は……と、期するものが大きかったのでしょう。

 眞杉選手の番手を回るのは、昨年のダービーと同じく平原康多選手(87期=埼玉・39歳)。彼は不思議とダービーのタイトルとは縁がないんですが、無傷の3連勝で決勝進出と、勢いもある。相手は強力ですが、それでも優勝を期待されて当然でしょう。このラインの3番手には、昨年以上の存在感を発揮している、北日本の佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)がつきました。

 清水裕友選手(105期=山口・27歳)は、九州の荒井崇博選手(82期=佐賀・44歳)と混成ラインを結成。清水選手は、宇都宮のウィナーズカップ(GII)を優勝した後に体調を崩して欠場していましたが、それを感じさせない走りで決勝戦まで勝ち上がってきましたね。そして、守澤太志選手(96期=秋田・36歳)は単騎を選択。調子も戻ってきており、展開をついての“一発”があっても不思議ではありません。

序盤はセオリー通りの展開で赤板へ

 ではここからは、ダービー決勝戦の回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴った後、しばらくは牽制が入って、誰も積極的に出ていきませんでした。なぜなら、他のラインは「近畿ラインに前受けさせたい」と考えていたからです。その思惑どおり、押し出されるように古性選手と脇本選手が前に出て、先頭誘導員を追いかけます。

 4番手を取ったのは清水選手で、眞杉選手は6番手から。そして最後方に守澤選手というのが、初手の並びです。守澤選手は単騎を選択してはいましたが、同じ北日本の佐藤選手の後ろから……と、おそらく最初から決めていたのでしょう。主導権を奪う可能性が高いラインの4番手ならば、展開が向く可能性も高い。最後の直線が長い、いわき平バンクならば、なおさらです。

押し出されるように近畿ラインが先頭へ(撮影:島尻譲)

 レースが動き出したのは、セオリー通りに赤板(残り2周)の手前から。後方にいた眞杉選手がポジションを押し上げていくと、先頭誘導員との車間をあけていた脇本選手は、喜んで迎え入れるかのように先頭を譲り渡します。清水選手はこれらの動きに連動して、中団5番手をキープ。脇本選手はいったん7番手まで下げて、カマシ先行かそれとも捲るか……という選択となりました。

展開を決めたのは先頭の眞杉選手

 レースの展開は、次に誰が動くか次第。そして打鐘の手前、少し早すぎるくらいのタイミングで動いたのは、先頭の眞杉選手でした。これは「後方の脇本選手が仕掛けてくる前に動く」という意識が働いたからでしょう。少しずつペースアップして、打鐘からのスパートで主導権を奪取。一本棒の隊列のままで最終ホームを通過します。

後方を確認した眞杉選手が仕掛ける(撮影:島尻譲)

 後方にいた脇本選手は、1コーナーから外へと踏んで前を捲りにいく態勢に。その強烈なダッシュに古性選手は食らいついていきますが、ライン3番手の東口選手はついていけずに離れてしまいます。そして2コーナーを回ったところで、後ろから迫る脇本選手を察知した清水選手も、外に出して前を捲りに。前との差が一気に詰まって、3コーナーの手前では一団の態勢となりました。

 早くから飛ばしていた眞杉選手はここで力尽きて、平原選手が番手捲りにいきますが、眞杉選手が失速後でもありスピードを貰えていません。5番手から捲った清水選手もあまり伸びがなく、さらに外から伸びた近畿ラインに先を越されて、苦しい態勢に。最終2センターでは外から脇本選手が先頭に躍り出て、それにマークする古性選手や、インで踏ん張る平原選手、その後ろから前をうかがう佐藤選手が後を追います。

一瞬で先頭に躍り出た脇本選手(桃色)(撮影:島尻譲)

 4コーナーでは、佐藤選手が外に動いて、古性選手をブロック。その一瞬の隙をついて、守澤選手が一気に内へと切り込みました。古性選手も負けじと応戦しますが、佐藤選手のブロックでかなり勢いを殺されてしまいます。そして最後の直線、抜け出した脇本選手を平原選手が追いすがるところに、外から佐藤選手と守澤選手が並んで強襲。しかし、先頭との差は最後まで詰まりませんでした。

再びダービー王の座を手にした脇本選手

 先頭でゴールを駆け抜けたのは、脇本選手。これで通算6度目となるGI優勝を果たし、年末のグランプリ出場と来年からのS級S班復帰を、ほぼ確実なものとしました。そして、北日本の2名による最後の2着争いも見応えがありましたね。頭や体をぶつけ合う熾烈な戦いに僅差で競り勝ったのは佐藤選手で、3着に守澤選手。平原選手は4着、古性選手が5着と、S級S班がズラリと並びました。

今年のダービー王の座を勝ち取ったのは脇本選手(撮影:島尻譲)

 優勝した脇本選手については、「強い!」のひと言。他のラインも、脇本選手の力を少しでも削ぐことを考えて走っているんですよ。それを“力”で圧倒してみせたんですから、もう素直に褒め称えるしかない。オリンピックまでの蓄積疲労や、それによる怪我のダメージも少しずつ抜けて、ようやく本来の力が出せるようになってきたという印象。改めて、すごい選手だと感じましたよ。

 その他の上位陣も、ダービー優勝を狙う気持ちの入った、文句なしの走りをしている。古性選手は3コーナーで一瞬、脇本選手と離れてしまったのがもったいなかったですが、外を回らされたのもあり、アレがなくとも脇本選手を差せていたかどうかは微妙でしょう。それくらい、今日の脇本選手は強かった。レースの結果には「タラレバ」が付き物ですが、この決勝戦については、それがほとんど出てきませんからね。

脇本選手が圧倒的“最強”を証明してみせた(撮影:島尻譲)

 あえて言うならば、眞杉選手の仕掛けでしょうか。前述したように「昨年の失敗を繰り返すわけにはいかない」という意識が強く働いたんでしょうが、ちょっと早すぎましたね。脇本選手が仕掛けてくるとしても、おそらくもう少し猶予があったはず。仕掛けのタイミングをギリギリまで遅らせることができていれば、もしかすると違う結果を出せていたかもしれません。すごく掛かりがいい先行だったので、なおさら惜しいというか。

 平原選手がもっと早く番手捲りにいっていれば……という見方もあるでしょうが、後ろについていたのは佐藤選手。しかも舞台は、直線の長いいわき平です。これが関東の選手であれば、いわゆる「二段駆け」も選択肢に入ったと思いますが、今回それをやると佐藤選手に差される可能性が高い。平原選手としても、前へと踏むタイミングが非常に難しい一戦だったといえます。

 古性選手が全日本選抜競輪(GI)を獲り、脇本選手がダービー王に輝くなど、勢いに乗る近畿勢。来月にはその「お膝元」である岸和田競輪場で、高松宮記念杯競輪(GI)が開催されます。勢いに乗る近畿勢が地元でさらに飛躍するのか、それとも他地区の選手が今度は凱歌をあげるのか……。このダービーのような“熱戦”を、ぜひ期待したいものです。

GWの大歓声のなか日本選手権競輪は幕を閉じた(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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