2022/05/09 (月) 12:00 16
5月8日に最終日を行ったいわき平競輪場の「第76回日本選手権競輪(GI)」。第一の優勝候補・脇本雄太(33歳・福井=94期)が勝ったわけだが、それが意味するものは、またGI決勝のメンバーの意味は…を考えたい。
私に近しい人たちは知っているのだが、とにかく真面目に働いているだけなので、私の仕事ぶりを見ている人は「前田っていう記者は真面目だな〜」と感じていると思うが、私はそんなにまっとうな人間ではない。
しばらく前、コロナも何もないころ。GIの準決の終わった晩、いつもお酒を一緒に飲ませてもらっている先輩にこう聞くのが恒例だった。「ところで今回の決勝メンバーの点数はいくつですか?」(100点満点で)。選手の方々にはだいぶ失礼なのだが、競輪界に今何が起きていて、今何が起きてほしいかを、とうに30年を超える記者歴の先輩に聞くのが好きだった。そして、異常に低い点数で回答されるのを、待っていた。実に悪趣味だった。
「変わんねえじゃん」
「10点だよ」
これくらい低い時もあった。順当に力のある選手が勝ち上がった時、毎回同じようなメンバーになった時はそうだった。ここしばらく、お酒の席を一緒にする機会も失われてしまい、準決が終わった7日の夜、私は一人で寂しかった。
当方とすれば、眞杉匠(23歳・栃木=113期)が昨年の京王閣大会のリベンジなるか…のドラマでちょっと点数高目かなと思う。でも先輩はそうは言わないと思った。
点数が高くなる可能性があるとすれば、眞杉が優勝を狙う構図だった時だろう。しかし今回は昨年の京王閣ダービーのやり直し。眞杉の優勝はほぼない。「じゃあ、決めるしかねえべ(平原Vを)」。の後に、「でもな」が聞こえた。
どうにもこうにも「平原が番手の時はダメなんだよ」が遠くから聞こえた。
ああ、競輪はレースの前に、ずっと聞いていたい“講釈”がある。酒を飲むと、昔の記憶がよみがえってきて、決勝を待てた。その先輩、競輪は筆頭だが、ギャンブル、勝負事、鉄火の道の人。妙な書き方になってしまったが、存命で健在です。
準決の晩の点数評価は酒の席の話。決勝を終えた今、「脇本が100点を証明した」。まあ…その先輩は絶対にこうは言わないと思うが、私はそう思う。
眞杉が焦って打鐘前から踏んでいること。眞杉に踏ませている脇本の勝利があった。眞杉はあのタイミングで脇本に叩かれることだけは「0点」。そこからの積み上げになる。勝ち上がりやその前のシリーズで見せていた脇本の走りが、伏線だった。
とはいえ、だ。乗り越える条件など揃ってはいない。中団の清水裕友(27歳・山口=105期)が仕掛け、番手で平原康多(39歳・埼玉=87期)が待つ。
ファミコンの競輪ゲームなら、クリア寸前の決勝で絶対勝てない“クソゲー”のシチュエーションだ。そんなカルチャーを吹き飛ばす、脇本の優勝劇だった。アドリブが効いていた。
強い脇本が勝った、というだけなら普通だ。しかし、今回の脇本は今年のGI出場が限られる、そして腸骨の奥の疲労骨折という世界的にも類を見ないセンシティブなケガから復帰した後ーー。
思い出せば「引退かも」と口にするレベル。だが「オレはこのケガには絶対に負けない」と必死に前を向いて、立ち直ってからの今だ。変な点数をつけるのは、正直良くないと思うが、酒の席ではどうしてもこれが気になって…。
レースを前にいろんなことを考えていると(しかも結構底辺のレベルから)、そんなことを覆す結果を、走りを、選手たちは見せてくれる。佐藤慎太郎(45歳・福島=78期)のことを書く紙幅がなくなったので、ここでペンを置こう。
Webだけど…。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。