2022/05/03 (火) 12:00 17
4月の大垣FⅠと豊橋FⅠを走った脇本雄太(33歳・福井=94期)は、番手回りのレースが多く、もどかしそうだった。豊橋では寺崎浩平(28歳・福井=117期)が、メンバー構成もあって自分らしい仕掛けになったので、うまく決まった。
だが大垣はそうもいかない構成だった。前を任された中西大(31歳・和歌山=107期)と石塚輪太郎(28歳・和歌山=105期)は対戦相手の抵抗も必至だったため、やるしかなかった。
脇本は“ラインで決めたい”と考えていても、任された選手は脇本には迷惑をかけられない。
そこでまだ番手の経験が少なく、技量もない脇本だったのでうまく走れなかった。
しかし、これも競輪。ラインがあって、選手として走る期間も長い。後輩も出てくる。彼らの気持ちにも応えないといけないし、人気にも応えないといけない。
単純な『車券』という観点だけでもないので、選手が苦しんだり悩んだり、それを乗り越えていく姿を見守るのも競輪。“人間・脇本雄太”を見ているという実感が、競輪を見ているということだった。自力で無双状態だった時のワッキーは、人間を超えていた。
5月3日に開幕するいわき平競輪場の「第76回日本選手権競輪(GI)」(通称:ダービー)。今回はGⅠということもあり、メンバー構成上、脇本は自力での戦いがメインになるだろう。「今年最大の目標」と位置付ける大会でもあり、一段違うレベルの走りを見せてくれそうだ。
「いわきはね、直線も長いし、あんまり好きな方じゃないんですよ〜」
脇本のボヤキも出るものだが、もちろん2018年8月にオールスターを制し、GⅠ初制覇を飾った地。古性優作(31歳・大阪=100期)とのワンツーが昨年の話で、バンク相性は悪くない。「ええ〜っ」「も〜っ」とボヤキながらも視線の先には完全勝利しか見えていない。圧倒的な優勝劇を披露したいと思っているはずだ。
もう一度、ワッキーは人間を超える。
44年ぶりといういわき平での日本選手権競輪の開催だ。44年前の1978年の大会は藤巻清志さん(引退=27期)の優勝だった。山口健治さん(引退=38期)が兄・国男さん(引退=24期)を引っ張り、国男さんの優勝かという流れ。
「脚が三角に回った」
という国男さんの名言が残ったレースだ。絶好の展開に体が思うように動かず、逃した。今回もドラマだけが、待つ。
物語を熱くするのは地元勢が中心だ。武雄記念(大楠賞争奪戦)の決勝は落滑入だった佐藤慎太郎(45歳・福島=78期)だが、強靭無比な肉体で長丁場をしのぐ。グランドスラム達成がかかる山崎芳仁(42歳・福島=88期)も、いわき平ではひと味もふた味も違う。
北日本勢は持ち前の結束力を武器に、遠征勢を跳ね返していく。
昨年のガールズグランプリ女王・高木真備(27歳・東京=106期)がいなくなってからの時代が始まる。無論、中央に居座るのは児玉碧衣(26歳・福岡=108期)だ。圧倒的な支持を集め続けているが、より、広範囲にわたる活躍、活動を期待したい。
高木にはなぜか高齢の男性のファンが多くついていた。おじいちゃん、といっていいだろう。児玉にも多くそういったファンはいるし、写真のように、昔コンドル出版社の武田一康社長が右手首を骨折した際に、心から心配していたような性格だ。
高木がいなくなって寂しがっているおじいちゃんがいたら、児玉が率先して面倒を見てほしいと思う。またこれは他のガールズ選手にもいえるわけだが、いろんなファンから応援されることを意識してほしい。それは老若男女を問わない。
新しくデビューしてくる新星たちもそうだ。“応援されることの意味”を高木真備という選手から受け継いでほしい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。