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山田裕仁のスゴいレース回顧

【玉藻杯争覇戦 回顧】勝負の“鐘”が二度鳴った決勝戦

2021/02/08 (月) 18:00 6

連戦の中でも見事に勝ち切った松浦悠士

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんによるグレードレース回顧。今回は松浦悠士選手が連覇を飾った玉藻杯争覇戦の回顧をお届けします。

2021年2月7日 高松12R 開設70周年記念 玉藻杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①町田太我(117期=広島・20歳)
②平原康多(87期=埼玉・38歳)
③守澤太志(96期=秋田・35歳)
④眞杉匠(113期=栃木・22歳)
⑤東口善朋(85期=和歌山・41歳)
⑥瓜生崇智(109期=熊本・25歳)
⑦松浦悠士(98期=広島・30歳)
⑧阿部大樹(94期=埼玉・31歳)
⑨松谷秀幸(96期=神奈川・38歳)

【並び】
←④②⑧(関東)⑤(単騎)⑨(単騎)⑥(単騎)①⑦③(中国+北日本)

【結果】
1着 ⑦松浦悠士
2着 ②平原康多
3着 ⑤東口善朋

調子が上がりきらなかった平原と守澤

 2月7日(日)に決勝戦が行われた、高松競輪場の玉藻杯争覇戦(GIII)。このシリーズには、平原康多選手(87期=埼玉・38歳)、守澤太志選手(96期=秋田・35歳)、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)と、3人のS級S班が出場していました。しかし初日の特選は、松浦選手が2着に入ったものの、守澤選手は4着、そして自力で勝負した平原選手は最下位の9着という結果に。デキの面で不安を感じさせるスタートとなりました。

 この初日特選、勝った北津留翼選手(90期=福岡・35歳)は力もあるし、デキもかなりよかったと思います。とはいえ、平原選手が何もできずに終わったのには、さすがに不安が残りましたね。グランプリと地元の記念を終えて、心身ともにいったんひと息入った影響もあったのか、調子をかなり落としていました。守澤選手も、落車のダメージが抜けきっていないのか、本調子にはほど遠いという印象です。

 ここまで過密スケジュールだった松浦選手も、連戦の疲れが出てくる頃だろうーーとみていたんですが、平原選手や守澤選手に比べると、まだ調子はよかった。中2日での出場となると、身体を少し休めるのが精一杯で、精神的にはピリッとしたまま過ごしていたんじゃないでしょうか。私も記憶がありますが、連戦の疲れは残っていても、気持ちの面で緩んでないので身体は意外に動くんですよね。

 そんなこんなで、波乱ムードの漂うシリーズに。“横綱”であるS級S班の3人は、それでもキッチリと決勝には勝ち上がってきましたが、準決勝も3レースのうち2レースが、いわゆる「スジ違い」での大波乱で高配当となりました。平原選手は二次予選、準決勝と1着で勝ち上がりましたが、自力ではなく、番手からの競輪での結果。多少は持ち直してきたとはいえ、番組に恵まれた感もあり、やはり調子はよくなかったですね。

 そんなシリーズで存在感を発揮したのが“若手”で、決勝戦に駒を進めた町田太我選手(117期=広島・20歳)や眞杉匠選手(113期=栃木・22歳)、瓜生崇智選手(109期=熊本・25歳)は、いずれも好調さが感じられる走りをしていました。なかでも注目は、関東ラインの先頭を任された眞杉選手と、「松浦選手と走るのが目標だった」という町田選手。この両者がどんな駆け引きをするかが、大きな見どころとなりました。

 そして決勝戦。スタート直後に前の位置を取りにいったのは、平原選手と阿部大樹選手(94期=埼玉・31歳)。つまり、関東ラインは最初から前での競輪をする心積もりだったということです。単騎となった3選手が中団に入り、松浦選手の前を走る町田選手は7番手から。さてここからどういった攻めをするのか、早めに前を抑えにいくのか、それとも眞杉選手のペースが緩んだタイミングで一気に行くのかーーその攻防が注目されました。

 町田選手が動いたのは、誘導員が離れる赤板(残り2周)から。しかし、町田選手の動きを何度も振り返って確認していた眞杉選手も、その動きに合わせてスパートを開始します。この眞杉選手の突っ張り先行を、町田選手が必死に追いすがりますが、その差がなかなか詰まらない。結局、打鐘を過ぎても、最終ホームになっても、町田選手は関東ラインに並ぶところまで行けませんでした。若手の先行勝負は、眞杉選手の「勝ち」です。

光った眞杉、町田はレースの幅を身に付けたい

 そして、ここからがこのレースの第2ラウンド。町田選手が戦線を離脱すると、最終1センターから松浦選手が猛追を開始します。ほとんど同じタイミングで、平原選手も番手捲りから先に抜け出そうとしますが、最終3コーナーでは松浦選手が、平原選手の直後にまで忍び寄ります。ここでうまく息を入れられた松浦選手は、直線でもしっかり伸び、平原選手のブロックも耐えきって1着でゴールイン。展開的には有利だった平原選手を上回ってみせました。

 勝負を決めたのは、やはり「調子」の違い。眞杉選手が、かかりのいい先行であのカタチを作り出したのですから、本調子ならば平原選手が勝っているでしょうね。そしてそれは、松浦選手の後ろを走っていた、守澤選手にしても同じ。最終2センター手前で、3着に入った東口善朋選手(85期=和歌山・41歳)のブロックによって外に振られてしまいましたが、好調時ならば優勝争いに加われておかしくない展開です。

 最後に、眞杉選手と町田選手という“若武者”2人の攻防についても触れておきましょう。勝ち上がりの過程でも素晴らしい内容を見せていた眞杉選手は、決勝戦でも文句なしのいい仕事をしました。残念な結果に終わったとはいえ、町田選手に並ばれることなく最終バックまで力走したのですから立派なもの。今後もまだまだ力をつけて、さらなる活躍が期待できるかもしれません。

 そして町田選手には、やはりもっとレースの組み立てを身につけてほしい。赤板や打鐘からの素直な仕掛け一辺倒だと、記念や特別といった大舞台ではいかにも分が悪いですからね。この決勝戦も、仕掛けどころの工夫や組み立てによっては、もっと前に迫れたはず。素晴らしい才能を持っている将来性が高い選手だけに、このままでは惜しい。レースの“幅”を身につけての飛躍を、心から期待しています。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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