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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ちぎり賞争奪戦 回顧】各選手が“仕事”をまっとうした名勝負!

2021/02/01 (月) 18:00 8

優勝した吉田敏洋(6番車)は41歳ながらタテ脚は健在だった

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんによるグレードレース回顧。今回は吉田敏洋選手が地元優勝を果たしたちぎり賞争奪戦の回顧をお届けします。

2021年1月31日 豊橋12R 開設71周年記念 ちぎり賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①浅井康太(90期=三重・36歳)
②深谷知広(96期=静岡・31歳)
③諸橋愛(79期=新潟・43歳)
④村上博幸(86期=京都・41歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)
⑥吉田敏洋(85期=愛知・41歳)
⑦松浦悠士(98期=広島・30歳)
⑧岡村潤(86期=静岡・39歳)
⑨野原雅也(103期=福井・27歳)

【並び】
←①⑥(中部) ⑦⑤(混成) ②⑧(南関東) ⑨④(近畿) ③(単騎)

【結果】
1着 ⑥吉田敏洋
2着 ⑦松浦悠士
3着 ③諸橋愛

どの選手も力を出した見どころの多いレース

 1月31日(日)には豊橋競輪場で、「ちぎり賞争奪戦(GIII)」の決勝戦が行われました。S級S班からは松浦悠士選手(98期=広島・30歳)と佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)が出場。その他にも、愛知から移籍して初の記念出場となる深谷知広選手(96期=静岡・31歳)や、地元・中部の実力者である浅井康太選手(90期=三重・36歳)など、記念としてはかなりの好メンバーとなりました。

 初日の特選を走っていた自力選手がしっかり勝ち上がったことで、その再戦ムードとなった決勝戦。その特選では、打鐘から前を叩いて先行した野原雅也選手(103期=福井・27歳)を、後方からの一気の捲りで深谷選手が強襲。そのさらに外を、松浦選手が捲りきって激戦を制するーーという結果でした。松浦選手は、また少し調子を上げてきたという印象を受けましたね。

 この初日特選の結果を踏まえて、今度は決勝戦を見据えて試行錯誤しつつ、各選手が戦ってきたイメージ。決勝戦に勝ち上がってきた選手はいずれもデキがよく、好不調の差はほとんどなかったと思います。決勝戦に至る過程で見えてきた“課題”に、決勝戦でいかに対応するか。どのようなレースの組み立てで戦うのか。それが、車券を買う側としてもたいへん興味深い一戦となりました。

 なかでも注目されたのが、「元・地元」である深谷選手の動き。初日特選では捲って勝負していましたが、二次予選と準決勝では、打鐘から積極的に先行する競輪で勝ち上がってきました。1着をとれていないのは課題も、さすが豊橋バンクの走り方を知っているというかーー打鐘から駆けて長く脚を使っているように見えて、最終ホームでは流して力を温存しているんですよね。おそらく決勝戦でも逃げる心積もりだな、と感じました。

 そして、もうひとつのポイントが「風」です。これは小松島もそうなんですが、豊橋のバンクはバックストレッチに強い向かい風が吹くんですよ。その影響もあって、先行する選手にやや不利な状況だったといえます。シリーズを通して波乱決着となったレースが多かったのも、おそらくこの影響が大きかったのではないでしょうか。

 さらに、準決勝で南関東ライン、中部ライン、近畿ラインがそれぞれワンツーを決めて、S級S班の2人が混成ラインとなったこと。その準決勝で、松浦選手が前を捉えられず「ギリギリの3着」でなんとか勝ち上がったことなども、決勝戦を面白くさせた要素でしょう。細切れ戦で、展開次第でどの選手にもチャンスがあるという、難解かつ非常に面白い決勝戦になりました。

 赤板(残り2周)でまず動いたのは野原選手。単騎だった諸橋愛選手(79期=新潟・43歳)も、3番手でこの動きについていきます。そして二次予選や準決勝と同様に、深谷選手が打鐘からスパートを開始。前をいく野原選手も突っ張りますが、最終ホームでは深谷選手がこれを叩ききって、先頭に躍り出ます。しかし、ここで深谷選手に息をつく余裕を与えなかったのが、松浦選手。絶好の“仕掛け”でしたね。

 最終2コーナー過ぎで深谷選手を捉えて、松浦選手が先頭に。それと同時に、後方で脚をためていた浅井選手が、最終バックで一気に前との距離を詰めてきます。ここで“機を見るに敏”な諸橋選手は、中部ラインの3番手にスイッチしました。最終2センターでは、松浦選手の番手を走る佐藤選手が、猛追する浅井選手をヨコの動きで牽制。浅井選手は、大きく外に振られてしまいます。

 これで勝負あったかーーと思われましたが、浅井選手のスピードを貰っていた吉田敏洋選手(85期=愛知・41歳)が、前が開けたところをグングン伸びて、松浦選手まで一気に飲み込んでゴールイン。決勝戦に唯一残った地元選手が、見事に最高の結果を出しました。2着に、準決勝の結果を踏まえて、うまいレースの組み立てをした松浦選手。そして3着に、吉田選手の後ろから直線で内を突いた諸橋選手。あの立ち回りの巧さは、さすがです。

 展開が向いた面があるとはいえ、優勝した吉田選手は準決勝で浅井選手を番手から差していたように、まだまだタテの脚がありますね。そして、準決勝での“課題”を分析し、決勝戦では勝てる戦い方をしてきた松浦選手や、番手としての仕事をキッチリ果たした佐藤選手、自分の持ち味を存分に発揮した諸橋選手など、どの選手も見どころ十分。車券がハズレであっても納得がいくような、本当にいいレースだったと思います。

 そして松浦選手は、今度は2月4日(木)から始まる高松競輪場の記念にも出場予定。過密スケジュールが続くなかで、平原康多選手(87期=埼玉・38歳)や守澤太志選手(96期=秋田・35歳)を相手にどんなレースを見せてくれるのか。川崎競輪場での全日本選抜競輪(GI)を見据えた戦いにもなりそうなだけに、要注目ですよ!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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