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山田裕仁のスゴいレース回顧

【桜花賞・海老澤清杯 回顧】シリーズの両雄、並び立つ

2022/04/18 (月) 18:00 14

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが川崎競輪場で開催されたGIII「桜花賞・海老澤清杯」を振り返ります。

優勝した松浦悠士(左)と郡司浩平(撮影:島尻譲)

2022年4月17日(日) 川崎12R 開設73周年記念 桜花賞・海老澤清杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
②吉田拓矢(107期=茨城・26歳)
③守澤太志(96期=秋田・36歳)
④小川勇介(90期=福岡・37歳)
⑤東口善朋(85期=和歌山・42歳)
⑥小森貴大(111期=福井・32歳)
⑦松浦悠士(98期=広島・31歳)
⑧恩田淳平(100期=群馬・31歳)

⑨松谷秀幸(96期=神奈川・39歳)

【初手・並び】
←⑥⑤(近畿) ⑦④(混成) ③(単騎) ①⑨(南関東) ②⑧(関東)

【結果】
1着同着 ①郡司浩平
1着同着 ⑦松浦悠士
3着   ⑤東口善朋

ホームバンクで雪辱戦に挑んだ郡司浩平

 4月17日には川崎競輪場で、桜花賞・海老澤清杯(GIII)の決勝戦が行われています。つい先日の平塚記念はまだ記憶にも新しいところでしょうが、その雪辱に燃える郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)など、このシリーズには5名のS級S班が出場していました。それ以外にも深谷知広選手(96期=静岡・32歳)などが出場と、ハイレベルなメンバー構成。初日からアツい戦いが繰り広げられました。

 このシリーズで存在感を発揮していたのが、初日特選から強さをみせていた、郡司選手と松浦悠士選手(98期=広島・31歳)。どちらも文句なしのデキで、このレースの三連覇がかかる郡司選手の走りからは、ここは絶対に負けられない、ホームバンクである川崎で不甲斐ない走りを見せられない……という気持ちの強さが感じられましたね。平塚記念でもデキのよさは感じられましたが、それ以上という印象を受けました。

三度目の桜花賞制覇がかかる郡司浩平(撮影:島尻譲)

 松浦選手も、自分のデキのよさを感じていたのでしょう。普段は「2〜3着でもいいから確実に勝ち上がること」を重視したレースの組み立てをするんですが、このシリーズでは自力で捲って1着をもぎ取るような、本当に調子がいいときの走りができていたように感じます。あとは、郡司選手と同じく川崎がホームバンクである松谷秀幸(96期=神奈川・39歳)選手も、ここを目標に身体をかなり仕上げてきていましたね。

 そして吉田拓矢選手(107期=茨城・26歳)や、久々に記念の決勝戦に乗った守澤太志選手(96期=秋田・36歳)も好調モード。決勝戦はラインが4つに単騎が1名という細切れ戦となりましたが、どんなレースになるかとワクワクしましたよ。主導権を握るのはおそらく、記念の決勝戦で走るのは今回が初となる小森貴大選手(111期=福井・32歳)。その番手には、東口善朋選手(85期=和歌山・42歳)がつきます。

 地元の南関東ラインは、郡司選手が前で後ろに松谷選手。松浦選手は、二次予選でも連係していた小川勇介選手(90期=福岡・37歳)とのコンビで挑みます。関東ラインは、吉田選手が先頭で、番手に恩田淳平選手(100期=群馬・31歳)という組み合わせ。そして、守澤選手は単騎を選択しました。どのラインの後ろを狙うにしても3番手なので、単騎でも立ち回りやすいですからね。

赤板通過、動き出す郡司選手

 郡司選手が地元の意地を見せるのか、それとも他の選手がその前に立ちふさがるのか。それでは、決勝戦を回顧していきましょう。スタートの号砲が鳴って、最初に出ていったのは東口選手。そして前に小森選手を迎え入れて、近畿ラインの前受けが決まります。その後ろ3番手に松浦選手がつけて、単騎の守澤選手は5番手から。その後ろが南関東ラインで、最後方に関東ラインというのが、初手の並びです。

赤板後まっさきに動いたのは郡司選手(撮影:島尻譲)

 赤板(残り2周)の手前で最初に動いたのは、意外にも吉田選手ではなく郡司選手。後方にいた吉田選手はこの動きに連動して、4車で先頭の小森選手を抑えにいきました。小森選手は突っ張らずに、いったん引く構え。先頭誘導員が離れたところで郡司選手が先頭に立ちますが、すかさず吉田選手が動いて前を斬りにいきます。郡司選手は抵抗せず3番手に。小森選手が5番手、松浦選手が7番手という隊列となりました。

 本来ならば次は松浦選手が前を斬りにくる順番ですが、その前にいた小森選手が打鐘前から主導権を奪いにいく動きをみせたのもあって、それに追随。打鐘では小森選手が先頭に立ち、3番手の内に吉田選手、外に松浦選手が併走するカタチとなります。狭いところに押し込められた郡司選手は、インの後方に。単騎の守澤選手は小川選手の後ろにつけて、ライン先頭の松浦選手の仕掛けを待つ態勢で、最終ホームを通過しました。

郡司選手が見せた鬼気迫る猛追

 主導権を奪った小森選手は、このあたりから全力。とはいえ、先頭から後方までが密集したままで最終周回に入りましたから、楽ではありません。その後ろでは、内の吉田選手と外の松浦選手のデットヒートに。こういった併走では内にいる吉田選手のほうが楽なんですが、松浦選手はぶつかり合いながらうまく相手を押し込めて、最終バック手前では吉田選手の前に出ます。

 ここで先頭を走る小森選手が力尽き、それを察した東口選手は、少し外に出して番手捲り。その後ろから捲ろうとしていた松浦選手や吉田選手は、東口選手に仕掛けを合わされるカタチとなりましたが、外にいた松浦選手はそのまま東口選手の後ろに入って、虎視眈々と先頭を狙います。逆に、内にいた吉田選手は前から小森選手が下がってくるのもあって、スムーズに入れる進路がありません。

川崎バンクを知り尽くした郡司選手(白)が後方から猛追(撮影:島尻譲)

 後方では、最終2コーナー過ぎで外に出せた郡司選手が、最終バック手前からの仕掛けで猛追。最後方からの勝負となってしまいましたが、隊列がギュッと密集していたのもあって、それほど大きなビハインドにはなりませんでした。3コーナーでは、松浦選手の番手を走る小川選手の外まで迫って、前を射程圏に。前では、番手捲りから先に抜け出した東口選手を、松浦選手が捉えにかかります。

接戦の結果は写真判定へ

 そして最後の直線。松浦選手が東口選手を抜き去ろうとしたところを、外から伸びた郡司選手が強襲。そこで松浦選手は瞬時にハンドルを外へと切って、郡司選手の勢いを削ぎにいきます。それでも、郡司選手の脚色は衰えない。後ろでは、ようやく進路が開いた吉田選手も差をつめてきますが、こちらは時すでに遅し。ゴール前での優勝争いは、松浦選手と郡司選手の大接戦となりました。

同時にハンドルを投げた松浦・郡司両選手(撮影:島尻譲)

 態勢不利を察した松浦選手は、ゴール前で思いっきりハンドルを投げて、最後のひと伸び。郡司選手も同じくハンドルを投げて、両者の前輪が完全に横並びとなったところが、ゴールラインでした。勢いは完全に郡司選手でしたが、結果は写真判定に。3着は東口選手で、吉田選手は4着。郡司選手の後ろに切り替えて前を追った守澤選手は、最後の伸びを欠いて5着という結果です。

 写真判定の結果は「同着」。このシリーズで初日から存在感を発揮し続けた2名が、決勝戦でも見事に並び立ったんですから……よくできた話ですよ(笑)。松浦選手は、その判断力と技術力の高さを随所でみせての優勝。3番手の外併走から、東口選手に番手捲りで仕掛けを合わされるという非常に厳しい展開だったにもかかわらず、押し切ってみせたんですから素晴らしい。もっとも強いレースをしたのは彼ですね。

 そして“運”が向いたのは郡司選手。ポジション争いでは後手を踏んだ感がありましたが、タテに長い一本棒ではなく「密集した隊列の最後方」だったので、しっかりとリカバリーできましたね。小森選手が主導権を取りにいった後の松浦選手の判断次第では、ハッキリと後方に置かれる展開もあり得た。ちょっと意地悪な視点ですが、その場合に郡司選手がどのように動いたのかを見てみたかった気もします。

 とはいえ、仕掛けてからの脚は飛び抜けたもので、川崎バンクのどこを通れば伸びるかを知り尽くしているのも大きかった。あれだけの内容をみせた松浦選手を捉えきる寸前までいったというのは、郡司選手の強さの証明ですよ。同着とはいえ、地元記念の三連覇という偉業を成し遂げたんですから、素直に褒め称えるべき。彼もこれで、ダービーへ向けて弾みがつきましたね。

再び見えた吉田選手の課題

内で詰まってしまった吉田拓矢(黒)(撮影:島尻譲)

 最後に、内で詰まって不完全燃焼に終わってしまった吉田選手について。「脚」ではなく「立ち回りの技術」の差で、松浦選手に遅れをとった印象でした。松浦選手が巧かったのもありますが、吉田選手は宇都宮ウィナーズカップ(GII)でも、同じようなカタチで脚を余して負けていたんですよ。真に“超一流”を目指すならば、同じことを繰り返してはいけない。彼が今後、もっとも磨きをかけるべきポイントといえるでしょう。

両名ともGIに向けて弾みをつけた(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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