2022/04/11 (月) 18:00 22
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが平塚競輪場で開催されたGIII「湘南ダービー」を振り返ります。
2022年4月10日(日) 平塚12R 開設72周年記念 湘南ダービー(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・31歳)
②和田真久留(99期=神奈川・31歳)
③佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
④山田庸平(94期=佐賀・34歳)
⑤郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
⑥大塚玲(89期=神奈川・40歳)
⑦井上昌己(86期=長崎・42歳)
⑧神田紘輔(100期=大阪・35歳)
⑨平原康多(87期=埼玉・39歳)
【初手・並び】
←⑤②⑥(南関東)⑨③(混成)④⑦(九州)①⑧(近畿)
【結果】
1着 ③佐藤慎太郎
2着 ①古性優作
3着 ⑨平原康多
4月10日には平塚競輪場で、湘南ダービー(GIII)の決勝戦が行われました。来週には川崎競輪場で「桜花賞・海老澤清杯(GIII)」が開催と、ここは2週連続で神奈川県で記念が行われるんですね。しかも、いずれもかなりの豪華メンバー。地元である南関東の選手にとっては、かなり力が入る時期といえるでしょう。
5月初旬にはいわき平での日本選手権競輪(GI)が開催されるとはいえ、ここからまだ1カ月ほどありますからね。そちらに照準を合わせて調整するというよりは、「目前のレースに集中」という選手のほうが多いんじゃないですかね。郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)のように、地元でのレースにかける気持ちが強い選手は、なおさらですよ。まずは、ここに全力!というスタンスでしょうね。
このシリーズには5名のS級S班が出場していましたが、そのうち4名が決勝に進出。初日特選で、古性優作選手(100期=大阪・31歳)を差し切って快勝した佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)を筆頭に、いずれもかなりデキがよかった印象です。記念の決勝にふさわしい、ハイレベルな出場メンバーになりましたよね。
人気の中心は、3名が勝ち上がった地元勢。準決勝でワンツースリーを決めたメンツが、そのままの並びで決勝戦に挑みます。先頭は郡司選手で、番手に和田真久留選手(99期=神奈川・31歳)。3番手を固めるのが大塚玲選手(89期=神奈川・40歳)で、和田選手と大塚選手は平塚がホームバンクの「純地元」。となれば、郡司選手が早めに仕掛けて直線では和田選手が差す…という決着もありそうです。
2名が勝ち上がった近畿勢は、古性選手が先頭で、番手に神田紘輔選手(100期=大阪・35歳)という組み合わせ。同じく2名の九州ラインは、山田庸平選手(94期=佐賀・34歳)が前で井上昌己選手(86期=長崎・42歳)が後ろです。山田選手はこの相手だと、正攻法での戦いを挑むとちょっと厳しい。前がもがき合うような流れになるなど、展開面での助けが欲しいところですね。
そして混成ラインとなったのが、平原康多選手(87期=埼玉・39歳)と佐藤選手。混成とはいえ、平原選手は「ラインを組む以上は地元の仲間と変わらない」というスタンスで、それは佐藤選手も同じ。なので、結束力はイメージ以上に強いんですよね。言うまでもなくトップクラスの2名で、前を走る平原選手もかなり調子がよさそう。上位争いができて当然のコンビといえます。
ここで気付くのが「積極的に逃げる選手が不在」であること。各ラインの先頭はいずれも機動力のある強い自力選手ですが、誰も逃げたくはないんですよ。でも、レースが始まれば誰かが主導権を取らされることになる。それが果たして誰になるのか…初手の並びを含めて、ここがレースの勝敗を分ける“カギ”となりそうです。
では、決勝戦の回顧に入りましょう。スタートの号砲が鳴っても、誰も積極的に前に行く姿勢を見せませんでしたね。なぜなら、ここでの前受けは「斬って斬られて」を繰り返した結果、後方に置かれる可能性が高いと誰もが考えていたからです。そういった背景もあり牽制が入りましたが、しばらくして平原選手と佐藤選手が前に。しかし、この動きを見てから、郡司選手がスタートを取りにいきました。
結局、前受けは南関東ラインに。平原選手はその後ろの4番手となり、6番手に山田選手。そして後方8番手に古性選手というのが、初手の並びです。ここから先、前を斬りにいった選手は「次に誰かが斬りにこなければ自分が逃げる展開になる」というリスクを背負うことになります。タイミングや他のラインの思惑次第ではありますが、以前にも解説した前を斬る“勇気”が問われるレースといえるでしょう。
レースが動き出したのは赤板(残り2周)の手前から。セオリー通りに、後方にいた古性選手が前を抑えにいきます。6番手を走っていた山田選手も、この動きに追随。近畿ラインの後ろに切り替えて、ポジションを押し上げていきました。先頭を走っていた郡司選手は、まったく抵抗せず。赤板のホームを通過して先頭誘導員が離れたところで、いったん古性選手が先頭に立ちます。
ここですかさず、山田選手が前へと踏んで古性選手を斬りに。その動きを読んで、九州ラインの後ろに切り替えていた平原選手も、連動して上がっていきます。そして2コーナーを回ったところで、山田選手がまだ流しているのを確認した平原選手は、これを斬るべく前へと進出。そして今度は、「斬って斬られて」の繰り返しで最後方となっていた郡司選手が、それを追いました。
順番的には「郡司選手が平原選手を斬る」ところですが、郡司選手はここで前を斬りにはいかず、佐藤選手の後ろにうまくハマろうとします。しかし打鐘の手前、インで前を追っていた山田選手が佐藤選手との車間を一気に詰めて、そうはさせませんでしたね。佐藤選手の後ろを取ると、ライン番手の和田選手や大塚選手が外で浮いてしまうカタチになっていたのも、郡司選手は気にしたのだと思います。
そしてレースは「平原選手の逃げ」で打鐘を迎えます。3番手は、いったんは内の九州ラインと外の南関東ラインが併走となるも、最終ホーム手前から郡司選手が仕掛けて、一気に前を捉えにいきます。しかし、南関東ライン3番手の大塚選手は離れてしまい後方に。前へと迫る郡司選手を、まずは佐藤選手がヨコに動いて軽くブロックします。そこからは、先頭の平原選手と郡司選手の熾烈なデッドヒートとなりました。
平原選手は、郡司選手の猛攻を受け止めきって先頭を死守。残念ながら郡司選手は、ここで力尽きてしまいましたね。それを察知した南関東ライン2番手の和田選手は、最終バック手前から自力に切り替えて、単独で前を捲りに。その後ろにつけていた古性選手も、この動きに乗じてポジションを押し上げて、前を射程圏に入れます。
この和田選手の捲りを完全に受け止めきったのが、佐藤選手。ヨコの動きで二度、三度と和田選手をブロックして、その勢いを完全に削いでしまいましたね。その後ろにいた古性選手は、ここから外を回しては間に合わないと判断してインに切れ込み、4番手の内で踏ん張っていた山田選手をさらに内へと押し込めて、進路を確保しにかかります。
そして最後の直線。逃げ込みをはかる平原選手を、直線でも鋭く伸びた佐藤選手が差して先頭に。その後ろでは、内を突いて進路をこじ開けた古性選手や、佐藤選手にブロックされてからもしぶとく伸びる和田選手が、必死に前を追いすがります。しかし、力強く抜け出した佐藤選手の勢いは最後まで衰えず、そのまま先頭でゴールイン。2月の静岡記念に続く、今年2度目の記念優勝を決めました。
2着に、前を巧くさばいて直線でも鋭く伸びた古性選手。3着は、アグレッシブな先行でスタンドをおおいに沸かせた平原選手が粘りきりました。S級S班が3着までを独占と力をみせた一方で、地元・南関東ラインは、和田選手が4着、大塚選手は7着、郡司選手は9着という厳しい結果に終わっています。
平原選手と佐藤選手については「さすが」のひと言。タイミング的にも自分が逃げる展開が十分にある…と覚悟しながら前を斬った平原選手は、実際に郡司選手が斬りにこなかった時点で、完全に腹をくくりましたね。それが、あの思い切りのいい先行に繋がったと思います。かかりも非常によく、若々しさすら感じましたよ。そして、縦横無尽の働きで平原選手の走りにしっかり応えた佐藤選手も、素晴らしかった。
それとは対照的に、中途半端な走りとなってしまった感が否めないのが郡司選手。結果論であるのは承知の上で言いますが、地元ファンの期待に応えるためにも、あそこは躊躇なく平原選手を斬ってほしかった。初手で前受けをした時点で、後方からの勝負になるか、もしくは自分が逃げるかという「二択」だったと思うんですよ。だったら、キツい展開になるのを覚悟して平原選手を斬りにいって、主導権を奪うべきだった。
2着の古性選手については、序盤〜中盤で後手に回ってしまった面があり、そこからの挽回が難しかったですね。それでも最後はあそこまで差を詰めてくるんですから、なおさら惜しいというか。山田選手はうまく立ち回って終始いいポジションを取れていたんですが、いかんせん相手が強かった。いい競輪をしていたんですが、上位陣がそれ以上に強いレースをしたという印象です。
今回は苦渋を味わう結果となった郡司選手が、次の「純地元」川崎でどのような走りをみせるのか。こちらもかなりの豪華メンバーで、激闘の連続となりそうなだけに楽しみですね。彼らしいアグレッシブな走りで、ぜひ巻き返しを期待したいところです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。