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すっぴんガールズに恋しました!

【伊藤のぞみ】「病魔に負けない」競輪界に希望の光を与える遅咲きのガールズレーサー

アプリ限定 2022/03/22 (火) 12:00 22

⽇々熱い戦いを繰り広げているガールズケイリンの選⼿たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました! 』。3⽉のピックアップ選⼿は北海道出身の伊藤のぞみ(34歳・116期=北海道)。突然襲った病魔にも負けない屈強なメンタルを培った背景とは!? 遅咲きガールズレーサーの現在に至るまでの軌跡を写真とともにご紹介します!

伊藤のぞみ

卒業後に立った人生の岐路 選んだ先は看護職

 伊藤のぞみは函館の隣町・戸井町の出身。戸井町は2004年に函館市に編入された小さな町で、タコや昆布など漁業が盛んな町だった。2人きょうだいだった伊藤の幼少期はいつも兄の後ろにくっついて、兄の友達とゲームをして遊ぶことが多かったそうだ。中学に入ると伊藤は兄と同じ卓球部へ入部。高校は、町で唯一の道立である戸井高校へと進み、テニス部としてスポーツに汗を流した。

「地元は本当に小さい町。通っていた高校も閉校してしまいました。中学が卓球部でしたし、バドミントンも小さなころからやっていましたし、ラケットを使うスポーツが得意だったこともあって、テニス部以外を選択する余地はなかったですね(笑)。運動系の部活がテニスしかなかったですし」

 絵を描くことも好きで、イラストレーターや絵に関わる仕事に就くことも夢を見た時期もあったそうだが、進路で選んだのは医療・看護系の職業だった。

「両親が小さいころに離婚していますし、父は出稼ぎに行ってました。当時兄はすでに家を出ていたので、祖父、祖母、私の3人暮らし。祖父も祖母も体が弱かったこともあって、迷わず看護の仕事を選びました。道外の専門学校を選んで北海道を出ることも脳裏をよぎりましたが、祖父母のことを考えて函館の学校を選びました」

医療・看護系の道を選び、准看護師として汗を流していた(本人提供)

競輪との出会い そしてホワイトガールズプロジェクト一期生へ

 専門学校卒業後は准看護師として社会人をスタートさせた伊藤。そんな彼女に転機が訪れたのは、知人に誘われて訪れた函館競輪場だったという。

「(たしか私が)24か5の頃だったと思います。知り合いに誘われて競輪場へ行き、選手の走っている姿を見てかっこいいなーって(笑)。競輪ファンにはなりましたけど、まだそのときは競輪選手になりたいとまでは思わなかったんです。そんなとき偶然、函館競輪の Facebook で“ホワイトガールズプロジェクト(地元北海道所属のガールズケイリン選手育成プロジェクト、以下WGP)”の存在を知ったんです。WGPの一期生は自分と三尾那央子さんと寺井えりかさん。藪下昌也(引退・52期)さんに指導してもらいながら、ガールズケイリン114期の試験を目指すことになりました」

ホワイトガールズプロジェクト一期生 三尾、寺井、伊藤 で周回練習。外で並走するのは俵信之(引退・53期)

 ガールズケイリン挑戦を決意した伊藤だったが、病院の仕事を続けながらのチャレンジとなった。朝、練習をしてから出勤、練習、出勤、練習、出勤とハードな毎日を過ごしトレーニングに励んだが、114期試験はそう甘くはなかった。

「三尾さんと寺井さんは合格。自分は114期の試験は厳しいかなと思っていました。実技の1次試験もタイムが出ていなかったし(1次は合格)、2次試験の学科も本当に自信がなかった。手応えがなかったんです。落ちて当然だと思いました」

一度は不合格だった養成所試験 でも、諦めない

 もちろんそんな簡単に挑戦を諦める伊藤ではなかった。“2回までは挑戦しよう”と決めていた伊藤は、本腰を入れるため、意を決して看護師の仕事を退職。プロの選手になるために全精力を“競輪”に注ぎ込んだ。仕事をやめれば当然収入は無くなる。だがWGPは練習だけでなく、収入面でもサポートしてくれた。看護職出身の伊藤の武器を活かし、函館競輪開催中には医務室バイトをしたり、また本場開催がないときには場内の清掃業務も精力的にこなした。収入を得ながら、競輪の練習に明け暮れる日々が続き、ついにその努力が結実した。116期の試験は見事合格。合格の知らせを、薮下の紹介でバイトをしていた札幌のスキー場で確認したという。

「本当にうれしかったですね。いろんな人の支えがあって、ようやく競輪養成所に入ることができました。特に師匠の薮下さんには感謝しかないです。自転車の道具をはじめ手厚くサポートしてくれて。本当にお世話になりました」

師匠・藪下昌也(引退・52期)のサポートがあって今の私がある(本人提供)

最年長の候補生 養成所時代には骨折も経験

 念願の日本競輪選手養成所に入学した伊藤は、2018年4月、116期としてガールズケイリン選手のスタートラインに立つことができた。

同期・清水彩那(116期・右)は心の支え 養成所を楽しく過ごせたという

「病院に勤めている時に寮生活をしていた時期もあったので、集団生活自体には慣れていました。ただ、同期(115、116期)でも最年長だったので、最初のころはみんなと話が合わなかったですし、ジェネレーションギャップも感じて、やっていけるか不安な時もありました。でも、清水彩那ちゃんから声を掛けてもらってからは、同期のみんなとよくしゃべるようになりましたね。116期は自転車競技経験豊富な人が多かったので、いろいろと教わりました」

 在校成績は18位。学校生活では目立った戦歴は残せなかったが、養成所時代の苦労を教えてくれた。

「実は冬場に人生初のインフルエンザにかかってしまい…。ぜんそくから咳が悪化して、ろっ骨を折ってしまって…。学校生活の終盤はそのせいで競走訓練やタイムが悪かったです…」

左から藤田まりあ、伊藤、高木佑真 116期は逸材揃いだ

順風満帆な伊藤のぞみをアクシデントが襲う

 養成所を卒業した伊藤の本デビューは2019年7月10日の豊橋競輪に決まった。初日の予選1は流れの中で動きを見せるが5着。予選2は最終バック7番手を進み、前方で4人が落車するも、冷静に回避して3位入線、決勝進出を果たした。決勝は加藤恵-中西叶美の後ろで最終バック3番手という好位置をキープすると、4角を回り外に持ち出し直線グングン伸びるもわずか1/8車輪差届かず2着(優勝は加藤恵)。デビュー戦初優勝とはならなかったが強烈なインパクトを残した初陣となった。その後も前受けからの飛び付き策や、追い上げマークと変幻自在な立ち回りで、ガールズケイリン界に「伊藤のぞみ」の名を轟かせていった。

変幻自在な立ち回りで順風満帆に見えたデビューだったが…

 しかし、順風満帆な選手生活に見えた伊藤をアクシデントが襲った。2021年1月、受診した健康診断の心電図結果に異変が発覚、同年7月立川の出走後にJKAからのあっせんが保留になってしまったのだ。医師とJKAとで協議を重ね、22年1月にようやくあっせん保留が解除になったが、それでも復帰まではドタバタが続いた。

 追加が入った2022年1月19日の前橋競輪は開催自体が中止。前橋で復帰できなかったことで、最終出走日から半年以上空いたため(疾病や怪我などで6か月以上欠場を続けた場合は復帰試験の義務がある)、いわき平競輪で1000メートル走の走行能力調査を実施した。そこをクリアし、乗り込んだ1月31日大宮競輪では医務の身体検査で不合格となりまさかの欠場。2月26日静岡でようやくレースに復帰するも、3日目に開催中止と、トラブルのオンパレードだった。

平塚で復活! 競輪を選んだ伊藤のぞみが見据える未来とは

 しかしようやく光が見えたのが、復帰2場所目となった3月7日平塚。初日の予選1こそ7着に終わるも、2日目の予選2では初手から高木真備をマークして食い下がり3着。決勝進出をつかみ取った。決勝戦では、高木真備-藤田まりあの後ろで離れず追走し3着と好結果を残した。体の状態を見ながらの練習で、負荷のかかるトレーニングはできないが、それでも伊藤のぞみの生命線となる“レース勘”は全く衰えていなかった。

伊藤のぞみの卓越した“レース勘”は全く衰えていない

 函館競輪WGP出身組が伊藤を筆頭に120期の蛯原杏奈、堀田萌那、122期としてデビューを控えている畠山ひすい(はたけやま・ひすい)。そして124期として日本競輪選手養成所への入学が決まっている神戸暖稀羽(かんべ・ののは)と、WGP出身の選手が増え、練習環境がすごく良くなっていると伊藤は言う。

「今思えば、看護の仕事を辞めてガールズケイリンに挑戦してよかったなって思います。稼ぎもそうですが、なんといっても練習をすればするだけ強くなれますし、時間もフレキシブルに使える職業なのでそれは自分に合っているのかなって。目標はまずは競走得点を50点台に。あとはやっぱり優勝ですね。そしてその優勝の舞台が地元の函館なら一番いいですね!」

左から伊藤、蛯原杏奈、堀田萌那 北海道所属のガールズレーサーが増え練習環境がすごく良くなっているという

 レースに出られない、バンクを走れない苦しい時期があったが、ガールズケイリンを辞めるという選択肢は更々無かった伊藤のぞみ。病魔に屈することなく諦めずに続けてきた競輪を選んだその先に見据えている“希望の光”を彼女が手にするのは、そう遠くない未来にある。五稜郭の夜景にも負けないまばゆいばかりの“光”を。

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すっぴんガールズに恋しました!

松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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