アプリ限定 2021/01/28 (木) 17:00 15
日々熱い戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。このコラムではガールズ選手の素顔に迫り、競輪記者歴12年の松本直記者がその魅力を紹介していきます。
1月のピックアップ選手は、昨年フレッシュクイーンの座に就き、今月取手競輪で行われたトライアルレースで勝利し「ガールズケイリンコレクション2021京王閣ステージ」への出場を決めるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の「久米詩(くめ・うた)選手」です。
久米詩が伸び盛りだ。久米は1999年中期から2015年前期までS級で活躍した久米康徳(京都=70期)を父に持つ。小さなころは全く競輪に興味はなかったらしく、学生時代はテニスに熱中した。高校3年の夏、進路を決めようにもやりたいことが見つからず、“なんとなく大学進学”という道も考えたそうだが、キャンパスライフは「やりたいことじゃない」と感じたらしい。「スポーツをずっとやっていたので、プロアスリートに憧れがあった」と当時の心境を教えてくれた。
プロの競輪選手として家族を養ってくれた父に相談すると、父は「じゃあ競輪やってみるか」と声を掛けてくれたそうだ。その一声で日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)への受験を決意した久米は、自転車経験ゼロだったが、見事適性試験を合格。116期生として無事入学を果たした。
同期には自転車競技で活躍したメンバーが多く、付いていくのがやっとだったという。「訓練では何をすれば良いのか分からなかった」と学校時代を振り返る。集大成の卒業記念レースでも結果は出せず、在校成績は14位という結果で卒業した。卒業後は地道にコツコツと練習を続け、いよいよデビュー戦。
久米より一足先にデビュー戦を走った在校1位の山口伊吹(21歳・長崎)はデビュー戦で7着。卒業記念レースを優勝した鈴木樹里(21歳=愛知)はデビュー戦6着。同期たちはプロとして戦う先輩たちの高い壁に、ことごとく跳ね返されていた。
そんな中でデビュー戦を迎えた久米は「負けて当たり前。開き直って楽しもう」という気持ちで臨み、初日は逃げて2着、2日目も逃げて押し切り初白星をゲット。決勝3着と上々の滑り出しを決めた。その後も結果を出し、10月は大宮、11月は松戸で優勝し、まずまずの成績をおさめることとなった。
2020年は「展開を考えられるようになってきた」と話しており、デビューから得意にしていた「スタートを決めて前受けから流れに乗る」以外の戦い方も身に付け、戦法の幅を大きく広げている。
10月の久留米では、石井寛子や奥井迪らを相手に優勝を決め、11月防府のフレッシュクイーンに輝いた。繰り上がり出場のガールズグランプリトライアルでは決勝へ進出。2021年は1月の取手でガールズケイリンコレクショントライアルレースで優勝。今年の目標だった「コレクション出場」をあっさりと決めてしまった。成長著しく、今後が楽しみな存在だ。
久米は“車券を買いたくなる”選手だ。格上選手が相手でも必ずと言っていいほど見せ場を作る。先行も辞さず、常に攻めの姿勢を崩さない。後方に置かれることなく前々で戦う。これは車券を買うファンにとってはありがたいスタイルだ。久米本人も「車券を買ってくれているお客さんを楽しませるレースをしたい」と語っていた。
先日の取手で行われたガールズケイリンコレクショントライアルがまさに真骨頂。決勝で高木真備(26歳・106期=東京)、石井貴子(30歳・106期=千葉)の平塚グランプリ出場選手を相手に中団確保からの先まくりで一蹴と大物食いを披露した。今はまだ挑戦する立場だが、競走得点を上げて受ける立場になっても変わらないでほしい。
久米はレースを離れればキャラが立った人気者だ。検車場ではいつも久米の周りに選手が集まり、楽しそうに談笑している。マスコミ対応もうまく、記者やカメラマンの無茶振りにもしっかり応えて、面白い写真を撮らせてくれる。サービス精神旺盛な性格が、選手や関係者に好かれている。
今年のガールズグランプリの舞台は久米の地元・静岡。しかし本人はいたって冷静だ。「まだまだグランプリ出場が見えているわけではないし、今は地道に優勝回数を増やしていきたい」と話す。
昨年のガールズグランプリは児玉碧衣が圧勝し3連覇を達成。久米も「(児玉)碧衣さんが一段抜けて強かった。取手でトライアルは優勝できたけど、もう少し脚力を付けていきたい。1周駆けて押し切れるようになりたいし、ひとつひとつ頑張りたい」と浮ついた様子も一切ない。
これからもレースでガンガン攻めて、脚力アップを狙っていくと意気込んだ。今年の久米は限りなく中心に近い位置で、ガールズケイリンを盛り上げていきそうだ。
松本直
千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。