アプリ限定 2021/02/23 (火) 17:00 33
日々熱い戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。このコラムではガールズ選手の素顔に迫り、競輪記者歴12年の松本直記者がその魅力を紹介していきます。
2月のピックアップ選手は、昨年末の川崎で優勝し、ガールズケイリン公式パンフレットの”顔”にもなっている「荒川ひかり選手」です。
荒川ひかりのキュートなルックスは多くのファンを集めている。ガールズケイリンのパンフレットのカバーガールなども務めているため、ひょっとするとガールズケイリンを知って間もない人は「ルックス先行の人気レーサー」という印象を持っているかもしれない。
ただ、現場記者として言えるのは、むしろ玄人好みするガールズケイリンレーサーです、ということ。ガールズケイリン総選挙では2019年に14位、2020年は6位と2年連続でランクインを果たしているが、それは外見だけでなく、戦略的な競走スタイルや車券への貢献度が支持を集めている要因と見て間違いない。
荒川は茨城県内屈指の進学校、県立竹園高校に通っていた。陸上部に所属していたそうだが、部活中にかけられた言葉がガールズケイリンを知るきっかけになったという。「陸上部では短距離とやり投げをしていた。あるとき、スターティングブロックに付くと顧問の先生から『足がしっかりしている。競輪選手みたいだね』という声をかけられたんです。競輪選手という仕事が気になり、家に帰って調べたら、ガールズケイリンが出てきた。運動系の仕事がしたかったし、もしかしたらプロスポーツ選手になれるかも。これいいなって思いました」と当時を振り返った。
荒川は高校3年時に大学受験に失敗。高校卒業後は浪人生活で予備校通いの日々を過ごした。2回目の受験では希望した大学には不合格だったものの、滑り止めには合格していた。しかし荒川の気持ちの中では「競輪選手になりたい」という想いが固まり、同年4月には、大学ではなく日本競輪選手会・茨城支部の門をたたくことになった、と話した。
自転車競技経験がない荒川は、ガールズケイリン選手になるため、一から自転車に乗り始めた。しかし練習を始めてすぐに落車、鎖骨を骨折するアクシデントに見舞われた。それでも「骨折を理由に選手をあきらめるのは嫌だ」と逆に気持ちに火をつけた。デビュー前のエピソードを聞く限り、逆境をものともしない負けん気の強さは筋金入りだ。
努力の甲斐もあり、荒川は日本競輪学校に110期生として入学し、在校成績11位で卒業。荒川は学校時代を「しんどい思い出しかない。自信を持てず、いつもビビりながら走っていた」と懐かしんだ。
デビュー戦は2016年7月の京王閣。併走になる場面もあったが、全くひるむことなく前々へ踏み続け2着と好スタート。2走目も高木真備の後ろへ追い上げマーク。ゴール前で踏み直されて3着になったが、決勝進出を果たした。シリーズを通じて「うまい新人が出てきたな」と周囲をうならせることとなった。
その後は荒川本人も「思っていたより順調だった」と話すように、高い追走技術と鋭い差し脚を武器に安定感ある戦いを続けた。初優勝には少し時間がかかったが、車券に欠かせない選手として存在感を高めていった。2018年11月の和歌山競輪場で、田中まい(千葉=104期)のまくりに切り替え、直線一気の差し脚を発揮して初優勝を飾った。
荒川は2019年、ガールズケイリン総選挙14位となり、アルテミス賞レースに選出され3着の好走で魅せた。2020年は前年14位から6位へ大幅にジャンプアップ。ファンからの支持の厚さを証明した。しかし、選考期間内の欠場回数が多かったため、規定により選出から漏れてしまった。この結果に荒川は悔しさを滲ませた。
「2019年、初めてファン投票で選ばれたときは本当にうれしかった。まさか選ばれるとは思っていなかったし、結果は同期の鈴木彩夏から聞きました。アルテミス賞はファンの皆さんに乗せてもらったレース。3着に入って車券に貢献できてよかったです。2020年は6位に入ることができたけど、出られなくなりショックでした。投票してくれたファンの皆さんに申し訳なかったです」と振り返った。
今年は3年連続のファン投票での選出に期待が懸かるが「ファン投票は私自身の力ではどうにもならない。選んでもらうためにはレースでアピールするしかありません。ファンが買ってくれた車券にしっかり貢献できるようにひとつずつ頑張るだけ。選んでもらえたら、昨年出られなかった分も頑張りたいです」と冷静に目の前のレースへと集中していた。
2021年は1月1日の京王閣でいきなり落車をしたが、ケガは軽く、復帰戦の前橋では決勝へ進出している。荒川に今年の抱負を聞くと「地元の取手で優勝することです。地元戦はいつも気持ちが入り過ぎてしまい、なかなか結果が出ない。でも今年こそは優勝したいですね」と意気込んだ。今年最初の地元戦は決勝進出を逃してしまったが、すでに気持ちは次回開催に向いていることだろう。
110期の選手たちはまだグランプリに出場していない。コレクションやフェスティバルを優勝した選手もいない。だが、荒川をはじめ、掘れば掘るほど魅力的なストーリーを持っている選手ばかり。悲願である地元優勝とファン投票3年連続ランクインをめざす荒川から目が離せない。
松本直
千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。