2022/02/07 (月) 18:00 20
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが静岡競輪場で開催された「たちあおい賞争奪戦」を振り返ります。
2022年2月6日(日) 静岡12R 開設69周年記念 たちあおい賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
②小倉竜二(77期=徳島・45歳)
③諸橋愛(79期=新潟・44歳)
④吉澤純平(101期=茨城・36歳)
⑤荒井崇博(82期=佐賀・43歳)
⑥伊藤旭(117期=熊本・21歳)
⑦浅井康太(90期=三重・37歳)
⑧小川真太郎(107期=徳島・29歳)
⑨佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
【初手・並び】
←①⑨(混成)⑤(単騎)⑦(単騎)⑧②(四国)④③(関東)⑥(単騎)
【結果】
1着 ⑨佐藤慎太郎
2着 ③諸橋愛
3着 ①郡司浩平
2月6日には静岡競輪場で、たちあおい賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズには4名のS級S班が出場していましたが、平原康多選手(87期=埼玉・39歳)と清水裕友選手(105期=山口・27歳)は準決勝で敗退。また、地元代表でもある深谷知広選手(96期=静岡・32歳)も、残念ながら準決勝で敗れてしまいました。
平原選手は、年末のグランプリから地元の大宮記念までいい状態を保ってきましたが、さすがに少し調子を落としていた印象。競輪選手というのは、1年を通して好調をキープできるわけではありませんからね。しかも、少し先には取手での全日本選抜競輪(GI)が控えている。となれば、このあたりはある程度、先を見据えた調整になっても仕方がないでしょう。それは、清水選手にも同じことがいえると思います。
あとは、自力タイプの選手にとって厳しい結果となったレースが多かったという印象もあります。強く吹いた風の影響なのか、それともバンクコンディションだったのか…その詳細についてまではわかりかねますが、総じて苦戦していましたよね。その結果として決勝戦は、主導権を奪いにいきそうな選手が少なく、展開の読みづらい混戦模様となりました。しかも細切れ戦ですから、入ろうと思えばどこからでも入れます。
人気を集めたのは、無傷の3連勝で決勝戦へと駒を進めた郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)と、佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)のS級S班コンビ。混成ラインとはいえ、過去に何度も連係していて実績もあるので、車券を買う側としても安心感がありますよね。佐藤選手はオール3着での決勝進出でしたが、走りの内容からデキはかなりよさそう。郡司選手は、ここは捲る競輪で1着を狙いにくることでしょう。
調子のよさが目立っていたのが、四国ラインの先頭を務める小川真太郎選手(107期=徳島・29歳)。番手につくのが小倉竜二選手(77期=徳島・45歳)ですから、こちらも戦力的にはひけを取りません。そして関東ラインは、吉澤純平選手(101期=茨城・36歳)が先頭で、番手に諸橋愛選手(79期=新潟・44歳)。諸橋選手も調子を上げてきた印象で、展開次第では上位に食い込めそうです。
そして、単騎となったのが浅井康太選手(90期=三重・37歳)と荒井崇博選手(82期=佐賀・43歳)、伊藤旭選手(117期=熊本・21歳)の3名。荒井選手も調子はかなりよさそうでしたが、それが活かせるかどうかは展開や立ち回り次第。力があり、展開を読む能力が高い浅井選手にしても、ここでどう立ち回るかは非常に難しい。となれば、まだキャリアの浅い伊藤選手にとっては、かなり厳しい戦いとなります。
誰が逃げるのかすら読めない、難解な一戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは郡司選手が飛び出していきます。ここは逃げるのではなく「捲る競輪」で勝負したいでしょうから、1番車をもらったここは前受けを選びますよね。3番手は荒井選手で、4番手に浅井選手。四国ラインの小川選手は5番手から、関東ラインの吉澤選手は7番手からとなりました。そして最後尾に伊藤選手というのが、初手の並びです。
赤板(残り2周)の手前から後方にいた吉澤選手が動いて、まずは先頭の郡司選手を「斬り」に。単騎の伊藤選手も、この動きについていきます。誘導員が離れたところで吉澤選手が先頭に立ちますが、ここで郡司選手がスッとヨコに動いて、諸橋選手の後ろのポジションを確保。入る場所のなくなった伊藤選手は、再び最後尾まで下げるしかなくなってしまいました。トップクラスの手痛い“洗礼”ですね。
そして2コーナー過ぎから、今度は小川選手が動いて先頭に。吉澤選手は3番手、郡司選手は5番手という態勢で、レースは打鐘を迎えます。その後はとくに動きはなく、そのまま小川選手が逃げるカタチとなりました。荒井選手は変わらず佐藤選手の後ろを追走していましたが、最終ホーム手前で浅井選手が外から動いて、そのポジションを奪いにいきましたね。最終2コーナー過ぎまで競り合いが続きましたが、この争いには浅井選手が勝利。荒井選手は、この時点で厳しくなりました。
主導権を「取らされる」カタチとなった小川選手ですが、腹をくくってからは非常にかかりのいい逃げを見せましたね。最終バック手前から吉澤選手が捲りにいきますが、小倉選手の外に並ぶところまでいくのが精一杯。それを見てから、今度は郡司選手が仕掛けて前へと迫ります。しかし、その差が意外に詰まらない。3コーナーでも、まだ前とはけっこう差がある態勢でした。
ここで、佐藤選手の後ろにいた浅井選手は内を選択。早々と自力に切り替えてインに突っ込んで、コースを探します。佐藤選手は郡司選手の後ろから動かず、そのまま直線へ。先頭では、まだ小川選手が逃げ粘っています。その番手にいた小倉選手や、捲りにいった吉澤選手の伸びはイマイチで、直線で外に出した諸橋選手の脚色がいい。外から郡司選手もジリジリと伸びますが、前を捉えきれるかどうかは微妙な勢いです。
これは諸橋選手の優勝か…と思ったところを、諸橋選手と郡司選手の間の狭いところを突いて一気に伸びたのが、佐藤選手。直線でのコース取りは、もう“お見事”と言うしかありませんでしたね。進路が開くと読み切っていたかのような動きで諸橋選手を差しきって、先頭でゴールイン。2着に諸橋選手、3着に郡司選手という結果で、先に動いた浅井選手は伸びきれずに4着でした。
ギリギリまで動かずに郡司選手のスピードをもらって、そこから冷静に進路を見極めたことによって達成された勝利。この「目の前に転がってきたチャンスをモノにする力」は、すべての競輪選手が見習うべきものですよ。前を走る自力選手の能力やデキに左右される面のあるマーク選手でありながら、この安定感は本当にすごい。おそらくこの優勝で、現時点での獲得賞金額トップですよ。
45歳といえば、私はもう引退を考え始めていた年齢。「心技体」とはよく言ったもので、年齢が上がるにつれて、身体や技術はまだ何とかなるとしても、"気持ちの強さ”が保てなくなるんですよ。しかし、佐藤選手はこの年齢になっても、心技体のすべてが高いレベルで維持出来ている。これは競輪選手としてはもちろん、アスリートとして驚異的といっても過言ではないと思います。
そういう意味では、2着の諸橋選手も十分にすごいんですが、佐藤選手にさらに上をいかれた感がありましたね。そして3着の郡司選手については、無傷の3連勝で勝ち上がったとはいえ、そこまでデキがよくはなかったんじゃないか…という印象があります。本当に調子がよかったならば、捲りきって優勝しているでしょうし、少なくとも諸橋選手は差せていますよ。
最後はさすがに力尽きて5着に敗れたとはいえ、小川選手の走りも力強かった。最終3コーナーでは、逃げ切りまでありそうな勢いでしたからね。デキもよかったんでしょうが、力もつけている。この相手にあれだけの走りができたというのは、今後の自信に繋がると思います。荒井選手については、あくまで結果論ではありますが、郡司選手よりも前でレースがしたいラインの後ろを狙ったほうがよかったかもしれませんね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。