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山田裕仁のスゴいレース回顧

【和歌山グランプリ 回顧】古性優作が乗り越えるべき“課題”

2022/01/13 (木) 18:00 17

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが「和歌山グランプリ」を振り返ります。

開催全て1着の完全優勝を飾った郡司浩平(撮影:島尻譲)

■2022年1月12日(水) 和歌山12R 開設72周年記念 和歌山グランプリ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・30歳)
②松浦悠士(98期=広島・31歳)
③根田空史(94期=千葉・33歳)
④神山拓弥(91期=栃木・34歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
⑥松本秀之介(117期=熊本・21歳)
⑦郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
⑧岩津裕介(87期=岡山・40歳)

⑨東口善朋(85期=和歌山・42歳)

【初手・並び】
←①⑨④(混成)③⑦⑤(混成)⑥②⑧(混成)

【結果】
1着 ⑦郡司浩平
2着 ⑤佐藤慎太郎
3着 ⑨東口善朋

グランプリメンバーの中でも調子のよかった郡司選手

 1月12日には和歌山競輪場で、和歌山グランプリ(GIII)の決勝戦が行われました。先日の立川・鳳凰賞典レース(GIII)と同様に、昨年のグランプリに出場していた選手が多く配分されていましたね。S級S班が4名も出場するという、ハイレベルなメンバーで開催されたシリーズとなりました。

 シリーズを通してデキのよさが目立っていたのは、なんといっても郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)でしょう。グランプリでピークにもっていった状態をうまく維持できていたようで、初日特選から素晴らしい動き。立ち回りはじつに巧く、判断も冴えている。二次予選、準決勝でも強さを見せて、無傷の3連勝で勝ち上がりました。オールラウンダーである郡司選手のよさが、随所で発揮されていましたね。

3日目準決勝も郡司-佐藤慎太郎で決まった(撮影:島尻譲)

 決勝戦では、根田空史選手(94期=千葉・33歳)がラインの先頭を走り、番手に郡司選手。そして3番手を、佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)が固めるカタチに。根田選手もなかなか調子がよさそうなので、ここは積極的に主導権を取ってきそうです。南関東ベースの混成ラインとはいえ、郡司選手と佐藤選手は大舞台で何度も連係している実績あり。結束力はかなり高いといえるでしょう。

 地元である近畿からは2名が勝ち上がり。ラインの先頭は、昨年のグランプリ覇者である古性優作選手(100期=大阪・30歳)です。初日、二次予選と苦戦を強いられましたが、本人もコメントしていたように、デキはけっして悪くなかったですよ。その番手を回るのは、和歌山がホームバンクである東口善朋選手(85期=和歌山・42歳)。こちらの3番手には、神山拓弥(91期=栃木・34歳)がつきました。

 そして松浦悠士選手(98期=広島・31歳)は、今回はラインの先頭を松本秀之介選手(117期=熊本・21歳)に任せました。これはおそらく、自分のデキにそれほど自信がなかったからだと思います。実際に、勝ち上がりの内容もいまひとつという印象。それでも決勝戦までキッチリ勝ち上がってくるというのが、レースが巧い松浦選手“らしさ”ですよね。ラインの3番手は、岩津裕介選手(87期=岡山・40歳)です。

根田選手引っ張るライン3車が出切った中盤

 単騎の選手がいない綺麗な3分戦で、松本選手と根田選手の主導権争いになる可能性が高そうな一戦。では、決勝戦の回顧に入りましょう。スタートが切られるも、誰も積極的に出ていかずに牽制が入りましたが、最終的には神山選手が押し出されるように前に。つまり古性選手のラインが「前受け」で、4番手に根田選手、7番手に松本選手というのが、初手の並びとなります。

 早い段階で後方にいた松本選手が動き出しますが、ここで4番手にいた根田選手がスッと下げて、ポジションを譲るようなカタチに。松本選手も素直にそれを受け入れて、4番手と7番手が入れ替わります。次にレースが動いたのは、先頭の古性選手が赤板(残り2周)を通過してから。後方にいた根田選手が猛烈なダッシュで一気にカマシて、早々と主導権を奪いにいきました。

決勝では根田のかかりが良く関東ラインに貢献した(撮影:島尻譲)

 赤板の2コーナー過ぎではライン3車が完全に出切って、4番手に古性選手、7番手が松本選手という態勢に。そのままの並びで打鐘を過ぎて、ポジション争いで後手を踏んだ松本選手は最終ホーム手前から仕掛けて、前との差を詰めにかかります。しかし、ライン3番手の松本選手はダッシュについていけずに連係が切れて、松浦選手との2車に。前では根田選手が、相変わらずかかりのいい先行で引っ張っています。

 結局、松本選手は4番手まで追い上げるのが精一杯。それとは対照的に、後続の仕掛けを前との車間を切って待ち構えている郡司選手には、まだ余裕があります。松本選手から切り替えた松浦選手が仕掛けると、それに郡司選手もキッチリ合わせて前へと踏み、最終バックの手前から番手捲り。時を同じくして、佐藤選手の後ろで動かずにじっとしていた古性選手も、前を捲りにいきます。

 しかし、郡司選手に仕掛けを合わされている松浦選手と古性選手はキツイですよね。3コーナーでこの両者が必死に前を追いますが、先に抜け出している郡司選手と佐藤選手との差は詰まりません。その後方では、古性選手の番手にいた東口選手が、地元の意地を見せるべくインに進路を取って急追。逆に、外から追いすがっていた松浦選手は、残念ながらここで力尽きてしまいましたね。

今年最高のスタートを切った郡司選手

 最後の直線でも後続は差を詰められず、番手から捲った郡司選手が粘るか、それとも郡司選手マークの佐藤選手が差すかの争いに。ゴール前では外に出した佐藤選手がジリジリと前に迫りますが、郡司選手が最後の最後まで粘りきってゴールイン。今年最初のシリーズを完全優勝で決めるという、最高のスタートです。

 過去に何度も解説していますが、主導権を奪ったラインの番手捲りで勝つというのは、簡単そうにみえてじつは難しい。厳しいペースを追走するケースが多いわけですから、番手にいる選手もけっこう消耗するんですよね。しかし、今回の郡司選手は余裕綽々。根田選手のかかりのいい先行に助けられたとはいえ、最後まで止まらず、佐藤選手との僅差の勝負をモノにしたんですから本当に強かった。

 2着の佐藤選手は、久々の優勝が見えていただけに、ちょっと悔しかったでしょうね。とはいえ、これは勝った郡司選手の強さを褒めるべき。3着の東口選手もいいレースをしているんですが、本人も後でコメントしていたように「あれが精一杯」でしょう。この展開での“最善”を尽くした結果で、地元の意地も見せた。個人的には、胸を張っていいレースをしていたと思います。

直線は追いすがる佐藤を退けた郡司が優勝(撮影:島尻譲)

 松本選手については、後方7番手に置かれた時点で厳しかった。いったん引いてから一気にカマシて主導権を奪った、根田選手のほうが一枚上だったということです。そして松浦選手も、松本選手から切り替えて前に迫ってからの伸びはイマイチ。郡司選手に仕掛けを合わされたのもありますが、やはりデキの面が本物ではなかったのではないか……というのが、個人的な印象ですね。

グランプリ覇者の「受けて立つ」という課題

KEIRINグランプリ2021の覇者となり「受けて立つ」立場となった古性優作(撮影:島尻譲)

 そして、古性選手について。彼がこのシリーズでなかなかいい結果が出せなかったのは、簡潔にいえばグランプリを勝ち、「受けて立つ側」に回ったからです。レースの流れに応じて臨機応変に立ち回れるのが古性選手の“強み”なんですが、それを周囲もよくわかっているので、そこに枷をかけにくる。今回のように「前受けをさせられる」レースになると、持ち味がなかなか出せないんですよ。

 しかも今回は、郡司選手や松浦選手など、オールラウンダー型の強豪が相手。勝ちパターンのある選手が相手ならばまだ与し易いんですが、こういう相手で「前受け」を強いられると、なおさらレースの組み立てが難しくなる。古性選手の持つ自在性という武器が、なおさら活かしづらい決勝戦だったといえるでしょう。

 昨年のグランプリ覇者ですから、今年はずっと1番車。他のラインから牽制が入れば、グランプリ覇者という「受けて立つ」選手の責務としても、前受けせざるを得ない。おそらく、こういったケースが今年は多発することでしょうね。私が言うまでもなく、古性選手自身が課題だと感じているし、どう対応していくかを考えてもいるはずです。

 超一流であり続けるために、そして今後の近畿を牽引していく存在としても、こんなところで躓いてはいられませんからね。この大きな課題に対して、古性選手が今後どのように取り組んでいくのか。そして、どう乗り越えるのか。その過程を、今年しっかりと見届けたいと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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