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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ひろしまピースカップ 回顧】ここでは役者が違った松浦悠士

2021/12/13 (月) 18:00 15

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがひろしまピースカップ(GIII)を振り返ります。

地元で完全優勝を果たした松浦悠士(撮影:島尻譲)

2021年12月12日(日) 広島12R 開設69周年記念 ひろしまピースカップ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①和田健太郎(87期=千葉・40歳)
②松浦悠士(98期=広島・31歳)
③野原雅也(103期=福井・27歳)
④大坪功一(81期=福岡・44歳)
⑤阿部拓真(107期=宮城・31歳)
⑥三登誉哲(100期=広島・34歳)
⑦阿竹智史(90期=徳島・39歳)
⑧池田良(91期=広島・35歳)
⑨町田太我(117期=広島・21歳)

【初手・並び】
←⑨②⑧⑥(中国)③④(混成)⑤①(混成)⑦(単騎)

【結果】
1着 ②松浦悠士
2着 ⑨町田太我
3着 ⑤阿部拓真

松浦選手の勝ち方に注目が集まった決勝戦

 12月12日には広島競輪場で、ひろしまピースカップ(GIII)の決勝戦が行われました。グランプリ前のシリーズながら、松浦悠士選手(98期=広島・31歳)に守澤太志選手(96期=秋田・36歳)、和田健太郎選手(87期=千葉・40歳)と、3名のS級S班が出場。しかも、松浦選手と守澤選手は、今年のグランプリに出場する選手です。現時点でのデキがどうなのか…という意味でも、注目の一戦となりました。

 しかし、守澤選手は初日特選で落車してしまい、以降は途中欠場に。しかも診断の結果、右鎖骨の骨折と診断されたとのことで、グランプリ出場がどうなるのかが心配ですね。おそらく無理にでも出場はしてくると思いますが、鎖骨の骨折は走りに大きな影響が出ますから、レース当日のデキには不安が残ります。出場の詳細については、今後の報道を待つとしましょう。

 そんなアクシデントはありましたが、松浦選手と和田選手は決勝戦まで勝ち上がり。地元記念でもあり、連日気合いの入ったレースを見せる松浦選手は、オール1着で完全優勝を狙います。決勝戦でその前を任されたのは、ヤンググランプリへの出場が決まっている町田太我選手(117期=広島・21歳)。こちらもデキは上々で、準決勝でも松浦選手とのワンツーを決めています。

準決勝でもワンツーを決めていた松浦悠士(5番・黄)と町田太我(1番・白)(撮影:島尻譲)

 さらに地元・広島からは、池田良選手(91期=広島・35歳)と三登誉哲選手(100期=広島・34歳)も勝ち上がり。広島勢だけでの4車ラインを形成して、池田選手が3番手、三登選手が4番手を固めます。これだけでも超強力ですが、単騎を選んだ阿竹智史選手(90期=徳島・39歳)も中四国ですから、広島勢の仲間のようなもの。この時点で、広島勢が圧倒的に有利といえます。

 また、他のラインがいずれも「混成」であるのも、広島勢の有利さを加速させました。野原雅也選手(103期=福井・27歳)の後ろに大坪功一選手(81期=福岡・44歳)、阿部拓真選手(107期=宮城・31歳)の後ろには和田選手がそれぞれつきましたが、前の選手は後ろの選手のために、無茶をすることはありませんからね。記念らしく、あらゆる面で地元勢のほうが有利だったわけです。

 しかも、広島勢の先頭は中四国の次世代を担う大物候補で、その番手は地元の看板を背負うスター選手。ここが一本かぶりの人気となるのは当然でしょう。この2人がどういうレースをするか、そして松浦選手がどういう勝ち方をするかに注目が集まったレースといえるかもしれません。私も、このメンバーだといたって順当に決まるだろう…という見立てでした。

後手に回るも最終周回であっさり巻き返した町田選手

 それでは、決勝戦のレース回顧です。スタートが切られると、松浦選手と野原選手がダッシュよく飛び出していきましたが、先頭を確保したのは松浦選手のほう。これで、地元勢の「前受け」が決まりました。野原選手は5番手から、阿部選手は7番手からで、最後尾に単騎の阿竹選手というのが、初手の並びです。

 最初に動いたのは7番手の阿部選手で、かなり早くからポジションを押し上げて、先頭の町田選手を抑えにいきましたね。赤板(残り2周)を通過して先頭誘導員が離れたところで先頭に立ち、突っ張るか引くかで少し迷っていた感のある、町田選手の進路を防ぎにいきます。さらに、外から野原選手も勢いよく進出。一気に先頭に立ち、その後の3番手に阿部選手という態勢で、打鐘を迎えました。

 ここまでのレースの組み立ては、町田選手が後手に回っています。そして、他のラインは「強いラインを少しでも後方に置く」という、勝つための戦略をもって挑んでいる。通常のレースであれば、後方に置かれた町田選手が必死で捲るも届かず……といった展開をつくり出せたかもしれません。でも今回のメンバーだと……後方に置かれたとしても5番手なんですよね(笑)。

 そして町田選手は、打鐘後の4コーナーからスパートを開始。さすがのダッシュ力で、最終周回に入ったところで、あっさりと阿部選手の横を通過します。さらに先頭の野原選手を追ってグングンと捲っていき、最終バックの手前で先頭に。松浦選手はそれにピッタリとついていきますが、ライン3番手の池田選手が少し立ち後れて、松浦選手との車間が空いてしまいました。

完璧な勝利で役者の違いを見せつけた松浦選手

最終バックの手前で町田太我が先頭に立つ(撮影:島尻譲)

 その隙を見逃さずにポジションを奪いにいったのが、インにいた阿部選手。外に切り替えて松浦選手の番手を確保し、前を追います。最終バック通過時には、町田選手と松浦選手が早々と抜け出すカタチに。切り替えた阿部選手と、その後ろにいた和田選手が松浦選手を追う態勢で3コーナーを通過し、そのまま直線へと入りました。

 自分の後ろに阿部選手がいると振り返って確認していた松浦選手は、あえて仕掛けを少し遅らせて、阿部選手の差しが届かないように配慮していましたね。間を割られることがないように丁寧にコーナーを回り、進路を少しだけ外に出して、先頭の町田選手を追います。町田選手もいい粘りをみせましたが、松浦選手はゴール前でハンドルを投げ、まるで測ったように差して1着でゴールイン。役者の違いを見せつけました。

芸術的ともいえるハンドル投げで町田太我をゴール前で差し切った(2番・黒が松浦悠士)(撮影:島尻譲)

松浦選手を相手に敢闘した選手たち

 着差こそ小さかったですが、実際は松浦選手の完勝。町田選手とワンツーが決められるように…と随所で気を配っていた松浦選手には、まだまだ余裕が感じられましたね。この完全Vで、心身ともに最高の状態で暮れの大一番に臨めるはず。このシリーズでもデキのよさは十分に感じられたので、なおさらグランプリが楽しみになりました。

 2着の町田選手もいい走りをしていたんですが、これはもう「相手が悪い」としか言いようがない。地元の先輩であり、同時に自分の目の前に立ちふさがる大きな“壁”でもある松浦選手には、これからも何度も打ちのめされることでしょう。でも、この悔しさを乗り越えて、彼はまだまだ強くなる。そうですね…このまま順調に伸びていけば、5年後には競輪界のトップに立っていても不思議ではないと思いますよ。

 3着は、序盤からうまく立ち回った阿部選手。前提条件からして劣勢だったわけで、ここは3着にくるのが精一杯というか、それ以上の結果を狙うのは非常に難しかったというか。やれることを精一杯やった上での3着ですから、褒めていいと思いますね。混成ラインですから、後ろの選手のために共倒れ覚悟で、町田選手を潰しにいくようなレースもできない。取るべき選択肢が、本当に少ないレースだったといえます。

地元ファンの歓声に応える松浦悠士(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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