2021/11/24 (水) 18:00 21
現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが競輪祭(GI)を振り返ります。
2021年11月23日 小倉12R 第63回朝日新聞社杯 競輪祭(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①北津留翼(90期=福岡・36歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
③松浦悠士(98期=広島・30歳)
④園田匠(87期=福岡・40歳)
⑤新山響平(107期=青森・28歳)
⑥山田久徳(93期=京都・34歳)
⑦吉田拓矢(93期=茨城・26歳)
⑧渡邉一成(88期=福島・38歳)
【初手・並び】
←①④(九州)⑤⑧(北日本)③(単騎)②(単騎)⑨⑥(近畿)⑦(単騎)
【結果】
1着 ⑦吉田拓矢
2着 ⑤新山響平
3着 ④園田匠
11月23日には小倉競輪場で、今年最後のGIとなる競輪祭の決勝戦が行われました。言うまでもなく、年末のグランプリ出場をかけた最終戦でもあります。新田祐大選手(90期=福島・35歳)のように、「グランプリに出場するにはここを獲るしかない」選手が多く出場していましたから、レースはおのずと激しいものに。その結果、落車が多いシリーズとなってしまったのは残念でした。
決勝戦などで一発勝負にいった結果の落車は致し方ないと思いますが、なかには避けられるものも多い。車券を買って応援してくれるファンのためにも、「避けられる落車は絶対に避ける」という意識を、選手にはもっと持ってほしいと思います。選手だって大きなダメージを受けるわけで、落車では誰も幸せにはなれませんからね。
そういった少し残念な点はありましたが、激闘の連続で非常に面白く、そして盛り上がるシリーズとなりました。現地に詰めかけたファンの声援もすごくて、地元である九州や福岡の選手は大きな励みになったでしょうね。決勝戦に勝ち上がった北津留翼選手(90期=福岡・36歳)や園田匠選手(87期=福岡・40歳)は、地元の声援に応える素晴らしい走りをしていましたよ。それに、デキもかなりよかった。
そして、デキのよさでは新山響平選手(107期=青森・28歳)も負けていません。準決勝では一気のカマシ先行で主導権を奪ってそのまま逃げ切り、人気の中心だった平原康多選手(87期=埼玉・39歳)を完封。展開がハマった面はありましたが、それにしても強かった。あのデキのよさならば決勝戦でも十分に通用する--というのが、私の見立て。主導権を奪える可能性が高いというのも、そう考えた理由のひとつです。
決勝戦は2車のラインが3つと単騎の選手が3名という、完全な細切れ戦に。九州ラインは北津留選手、北日本ラインは新山選手、そして近畿ラインは古性優作選手(100期=大阪・30歳)が、それぞれ先頭を任されました。古性選手が先行する可能性もなくはないですが、積極的に主導権を奪いにくるのは、やはり新山選手のほう。北津留選手は、得意の「後方から捲る競輪」をしてくる可能性が高いと思われました。
S級S班で、今年のグランプリ出場も決まっている郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)と松浦悠士選手(98期=広島・30歳)は、単騎を選択。どちらもタテ脚だけでなくヨコの動きもできる選手なので、どこかの番手を捌いたり飛びつくケースが十分に考えられます。そして、決勝戦で4着以内だと収得賞金でのグランプリ出場が決まる吉田拓矢選手(93期=茨城・26歳)も単騎。ここは当然、一発を狙ってきます。
以上、難解かつ非常に面白いメンバー構成となった、競輪祭の決勝戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは九州ラインの北津留選手が飛び出していきます。車番的にも、これは多くの人が予想した通り。その後の3番手を取ったのは北日本ラインの新山選手で、5番手に松浦選手、6番手に郡司選手。そして7番手が近畿ラインの古性選手で、最後尾に吉田選手というのが、初手の並びです。
赤板(残り2周)の手前から、後方にいた古性選手が前を抑えにいこうと動き出しますが、その前にいた郡司選手も同時に浮上を開始。また、近畿ラインの後方にいた吉田選手も、この動きについていきます。つまり「②・⑨⑥・⑦」がセットで前を抑えにいったカタチに。先頭を走っていた北津留選手は、突っ張らずに引いてポジションを下げていきます。
そして打鐘前、先頭集団の2番手にいた古性選手が、先頭の郡司選手を「斬り」にいきます。郡司選手は抵抗せずに引いて、近畿ラインの後ろに。そこに襲いかかったのが、前の動きを見ながら仕掛けるタイミングを見計らっていた新山選手です。外からスーッと上がっていって、打鐘では3番手に浮上。この動きを待っていた松浦選手も、一緒に前へと進出するかと思われましたが、こちらは郡司選手の後ろにつけました。
打鐘過ぎの2センターで新山選手が先頭に立ちますが、その番手を走っていた渡邉一成選手(88期=福島・38歳)を古性選手が外に張って、新山選手の後ろを奪いにいきます。しかし、渡邉選手は必死にリカバリーして、新山選手の番手を死守。まったく同じタイミングで、今度は古性選手の番手を狙って郡司選手が内からスルッと潜り込み、近畿ラインを分断にかかります。
このバトルは郡司選手が競り勝って、最終1センター過ぎで古性選手の後ろを確保しますが、ここまでにかなり脚を使わされていたのもあって、一気に前を捲りにいくような勢いはありません。そこを今度は、中団にいた松浦選手が強襲。最終バックから捲って前を捉えにいこうとしますが、最終3コーナーで古性選手にうまくブロックされて失速。前では、依然として新山選手が踏ん張っています。
新山選手のかかりが非常によく、これは北日本のワンツーもあるかーーという態勢のままで、最終2センターを通過。後方からは北津留選手が外をついて捲ろうとしますが、それよりも一瞬だけ早く仕掛けた吉田選手が、進路をブロック。北津留選手は、少し外に張られてしまいます。そこから満を持して仕掛けた吉田選手はグングン伸びて、松浦選手の外に並びかけるところまで一気に迫りました。
そして、最後の直線。少しだけ抜け出していた新山選手と渡邊選手が逃げ込みをはかるところに、内をついた郡司選手がジリジリと迫りますが、最後は前と同じ脚色に。そこに外から矢のような伸びで飛んできたのが、吉田選手です。道中できるだけ動かず脚を温存できていたのもあって、イエローライン上を一気の脚で突き抜けて、1着でゴールイン。グランプリ出場の最終切符を、自力で見事にもぎ取りました。
2着に、最後の最後まで逃げ粘った新山選手。3着には、北津留選手から切り替えて吉田選手のスピードをもらい、最後よく伸びた園田選手が入りました。息もつかせぬ展開とはまさにこのことで、出場した全選手が積極的に動いて、おおいに存在感を発揮。誰もが優勝を目指して“最善”を尽くした走りができていました。残念ながら車券がハズレに終わったファンも、「これなら仕方がない」という納得感があったことでしょう。
優勝した吉田選手には、惜しみない拍手を贈りたいですね。「4着以内に入れば収得賞金でのグランプリ出場が可能」という条件下であったにもかかわらず、着をまとめるような競輪をしなかった。後手に回った感があったにもかかわらず、そこで焦らず冷静に立ち回ることができた。だからこそ巡ってきたチャンスで、それを最高のカタチでモノにしたんですから、本当に素晴らしい。
思えば、彼は今年ずっと随所で存在感を発揮し続けてきたんですよ。春の高松宮記念競輪では、惜しくもタイトルに手が届きませんでしたが、力強い走りで宿口陽一選手(91期=埼玉・37歳)の優勝に貢献。その後も、関東地区の選手との連係で、好内容のレースを続けてきたという印象があります。本当に力をつけているし、いまは先行でも捲りでも自分の力を発揮できている。大きく飛躍した感があります。
その“集大成”が、この競輪祭だった。そして、念願の初タイトルを獲得して、先輩である平原選手や宿口選手と一緒にグランプリへ向かう。もう、最高の流れですよね。吉田選手がグランプリでどんな走りを見せてくれるのか、本当に楽しみですよ。それに、今回は好結果が出せなかった松浦選手、郡司選手、古性選手の3名も、グランプリ本番での巻き返しを期して、今度は最高のデキで出場してきますからね。
12月30日の静岡競輪場ではどのようなドラマがあり、そしてどのような幕切れとなるのか。ここからの約1カ月間、私もアレコレ悩むとしましょう。いやあ、それにしてもいいレースだった! ファンの熱い声援があって、選手もそれに応えるべく最高のレースをして。これが競輪、これぞ競輪ですよ!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。