2021/11/10 (水) 18:00 17
現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが泗水杯争奪戦(GIII)を振り返ります。
2021年11月9日(火) 四日市11R 開設70周年記念 泗水杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①浅井康太(90期=三重・37歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
③稲垣裕之(86期=京都・44歳)
④岩本俊介(94期=千葉・37歳)
⑤東口善朋(85期=和歌山・42歳)
⑥中村浩士(79期=千葉・43歳)
⑦古性優作(100期=大阪・30歳)
⑧坂井洋(115期=栃木・27歳)
⑨内藤秀久(89期=神奈川・39歳)
【初手・並び】
←④②⑨⑥(南関東)⑦③⑤(近畿)⑧(単騎)①(単騎)
【結果】
1着 ⑧坂井洋
2着 ①浅井康太
3着 ②郡司浩平
11月9日(火)には四日市競輪場で、泗水杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。このシリーズには3名のS級S班が出場していましたが、決勝戦まで駒を進めたのは郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)だけ。ここは南関東勢が好調で、郡司選手のほかにも岩本俊介選手(94期=千葉・37歳)など3名が決勝戦まで勝ち上がっています。岩本選手の調子のよさは、とくに目立っていましたね。
注目された南関東勢の「並び」ですが、岩本選手が先頭を買って出たとのことで、郡司選手が番手に。そして3番手が内藤秀久選手(89期=神奈川・39歳)、4番手が中村浩士選手(79期=千葉・43歳)。つまり「千葉→神奈川→神奈川→千葉」という、やや変則的な並びとなりました。この並びとなった経緯から考えると、積極的に主導権を奪いにいく可能性が高いと思われます。
3名が勝ち上がった近畿地区は、古性優作選手(100期=大阪・30歳)がラインの先頭を任されました。しかし、その古性選手の調子がどうも思わしくない。本人的にも違和感が大きかったようで、「他人の自転車を借りて走っているようだ」などというコメントも出ていましたね。1着だったとはいえ、準決勝の内容は確かにもの足りないもの。決勝戦までの短い間に、どこまで修正できるかがが問われます。
こちらは、ライン2番手を稲垣裕之選手(86期=京都・44歳)、3番手を東口善朋選手(85期=和歌山・42歳)が固めます。東口選手もかなりデキがよさそうだったんですが、それを生かすも殺すも、古性選手の競輪次第。ラインの総合力は南関東勢に勝るとも劣らないと思いますが、南関東ラインが楽に主導権を握るような展開になってしまうと、分が悪いですね。
そして地元である中部勢ですが、決勝戦まで勝ち上がれたのは、“盟主”である浅井康太選手(90期=三重・37歳)のみ。ここは一発を狙って、単騎での勝負を選択しています。浅井選手は四日市がホームバンクですから、ここは期するものがあり、大きな一戦となるはずです。それだけに身体をしっかりつくってきていた印象で、調子のよさも感じられました。
ダークホース的な存在となったのが、こちらも単騎の坂井洋選手(115期=栃木・27歳)。準決勝では後方から一気に捲って浅井選手を退けるなど、勢いのあるところを見せていました。調子もよかったんですが、それ以上に「展開が向く」ケースが多かった印象で、いい“流れ”を味方につけているというか。単騎なので選択肢は限られますが、それでも侮れない面がありましたね。
では、決勝戦の回顧に入りましょうか。スタートが切られると、まずは郡司選手が飛び出していきます。つまり、南関東ライン4車が「前受け」ですね。そして、南関東ラインの後ろに古性選手。坂井選手が8番手で浅井選手が9番手と、単騎の選手はいずれも後方からのレースを選択しました。
古性選手が動いたのは、セオリー通りに赤板(残り2周)の手前から。前を抑えにくる気配を察知した岩本選手は、引かずに突っ張って主導権を主張します。ここで少しヒヤッとしたのが、先頭誘導員を追い抜くのが赤板通過と「ほぼ同時」だったこと。これが一瞬でも早いと失格ですからね。レース後に審議となりましたが、幸いにもギリギリセーフ。岩本選手も肝を冷やしたことでしょう。
岩本選手が突っ張る姿勢を見せても古性選手は引かず、郡司選手の外を併走するカタチに。赤板のバックでは郡司選手と激しくやり合い、岩本選手の番手を「競る」態勢のままで打鐘を迎えます。後方では浅井選手と坂井選手のポジションが入れ替わり、やり合う南関東ラインと近畿ラインの動きを見据えて追走。一発を狙う浅井選手からすれば、これは願ってもない展開です。
その後も南関東ライン近畿ラインのバトルは続きます。郡司選手に続いて内藤選手もポジションを守りきりましたが、中村選手との分断に成功した古性選手が4番手を確保して、最終ホームを通過。そして2コーナー過ぎから再び、死力を尽くして前に襲いかかります。ここまでにかなり脚を使っていたはずですから、この捲りには驚かされましたね。さすがはタイトルホルダーの底力ですよ。
それを察知した郡司選手は、予定していたよりも早くタテに踏んで、番手捲りで古性選手に応戦。そこに後方から一気の脚で飛んできたのが、浅井選手です。古性選手の捲りは封殺した郡司選手ですが、後方でじっと脚を温存してきた浅井選手は、完全に前を飲み込むような勢いで前に急接近。そのスピードをもらって、最後方にいた坂井選手もグングンと差を詰めてきます。
郡司選手は4コーナーで進路を外に振って、浅井選手をブロック。それで浅井選手は少し勢いを削がれますが、すぐさま態勢を立て直して、逃げ込みをはかる郡司選手に再び襲いかかります。この勢いならば浅井選手が郡司選手を差す……と思ったところを、外からさらにいい脚で強襲したのが坂井選手。三者横並びでのハンドル投げ勝負となったゴール前では、坂井選手がほんの少しだけ出ていました。
2回目の記念決勝進出で、うれしい初優勝となった坂井選手。勝つときはすべてが上手くいくものですが、それにしてもハマりましたね。あらゆる事象がうまく噛み合って、彼に優勝をもたらしたという印象。このシリーズを通して、彼は勝利の女神に微笑まれていた気がします。あまり強さは見せていないのに、それでいて最高の結果をもぎ取ったというか……勝利の女神もイケメンには甘いんですかね(笑)。
僅差の2着に浅井選手。非常に悔しい、そして惜しい結果となってしまいましたが、仕掛けるタイミングなどは「さすが」のひと言。最終バックで一気に捲ったときには、これは浅井選手の優勝だと多くの人が感じたことでしょう。これはタラレバになりますが、郡司選手のブロックがなければ、勝っていたのは彼だったかもしれません。地元の意地を見せた、ファンの期待に応える走りだったと思います。
そして、3着に終わった郡司選手も素晴らしい走り。「やれることはすべてやった」といえる、まさしく獅子奮迅の働きでした。結果は3着でしたが、もっとも強いレースをしたのは、彼だったと思います。それは古性選手も同様で、本調子にないなかでも、優勝するために死力を尽くし、最善を尽くした。競輪祭、そしてグランプリへ向けてどう立て直してくるか、注目したいですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。