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山田裕仁のスゴいレース回顧

【周防国府杯争奪戦 回顧】ファンの心を“震わせた”熱き走り

2021/11/04 (木) 18:00 16

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが周防国府杯争奪戦(GIII)を振り返ります。

記念レース4連覇を達成した清水裕友(撮影:島尻譲)

2021年11月3日 防府11R 開設72周年記念 周防国府杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①清水裕友(105期=山口・26歳)
②小原太樹(95期=神奈川・33歳)
③諸橋愛(79期=新潟・44歳)
④山下一輝(96期=山口・32歳)
⑤和田圭(92期=宮城・35歳)
⑥宮本隼輔(113期=山口・27歳)
⑦小倉竜二(77期=徳島・45歳)
⑧阿部拓真(107期=宮城・30歳)
⑨柏野智典(88期=岡山・43歳)

【初手・並び】
←⑥①④⑨(中国)②(単騎)③(単騎)⑧⑤(北日本)⑦(単騎)

【結果】
1着 ①清水裕友
2着 ⑥宮本隼輔
3着 ④山下一輝

短い直線が影響!? 有力選手が次々に姿を消した今シリーズ

 11月3日には防府競輪場で、周防国府杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。このシリーズで注目されたのは、防府がホームバンクである清水裕友選手(105期=山口・26歳)でしょう。なんと3年連続でこのレースを制しており、今年も勝てば前人未踏の4連覇達成。S級S班が4名出場し、そのほかにも好メンバーが揃ったこのシリーズでそんな大記録が達成されたならば、これは本当にすごいことです。

 よく「地元三割増し」などといわれる競輪ですが、それでも地元記念を勝つというのは、そう簡単な話ではありません。確かに地元の有力選手は「準決勝まで」の過程で、有利な番組を組んでもらえる面はあります。とはいえ、一発勝負である決勝戦では、レースの流れひとつで取りこぼしてしまう。しかも防府は直線が短い333mバンクですから、後方に置かれる展開になってしまうと、挽回できないんですよ。

 そんな333mバンクの「怖さ」が如実に出たのが、3日目10レースの準決勝。初日特選、二次予選ともに脚力で圧倒していた新田祐大選手(90期=福島・35歳)と組む、同じS級S班の守澤太志選手(96期=秋田・36歳)の北日本ラインが、ここは断然の人気に推されていました。しかも新田選手、デキもかなりよかったんですよね。誰もが「ここは新田で盤石」と考えていたことでしょう。

シリーズ通して好調だった新田祐大(白・1番)は準決勝で敗退(撮影:島尻譲)

 しかし、新田選手は攻めるタイミングを逸して後方8番手からのレースに。勝ったのは、中団バックから豪快に捲った宮本隼輔選手(113期=山口・27歳)で、守澤選手は6着、新田選手は7着に終わるという大波乱でした。宮本選手のデキが素晴らしかったというのも理由にありますが、それでも展開ひとつで、あの新田選手がこんな負け方をしてしまう。これが、競輪という競技の難しいところです。

 ほかにも、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)や吉田拓矢選手(107期=茨城・26歳)、町田太我選手(117期=広島・21歳)といった有力どころが、いずれも準決勝で敗退。無事に決勝戦へと駒を進めたS級S班は、注目の清水選手「のみ」となりました。しかも決勝戦には、中国地区から4名が勝ち上がった。この時点で、清水選手の四連覇が達成される可能性はかなり高くなったといえます。

実際にはさらに分が悪かった北日本ライン

 中国ラインの先頭は、準決勝で新田選手を退けた宮本選手。そして番手に清水選手で、こちらもこのシリーズに向けてかなり身体をつくってきた印象でしたね。そして、ライン3番手を山下一輝選手(96期=山口・32歳)、4番手を柏野智典選手(88期=岡山・43歳)を固めるという布陣。中四国で連係することも多い小倉竜二選手(77期=徳島・45歳)は、ここは単騎を選択しました。

 それに対抗するのが2名で連係する北日本ラインで、先頭は阿部拓真選手(107期=宮城・30歳)。準決勝では松浦選手と吉田選手の主導権争いが激化したとはいえ、そこを一撃で捲りきったのだからお見事ですよ。このシリーズでも一二を争う、デキのよさだったと思います。番手は和田圭選手(92期=宮城・35歳)で、あとは諸橋愛選手(79期=新潟・44歳)と小原太樹選手(95期=神奈川・33歳)が単騎での勝負です。

 中国ライン4車と北日本ライン2車の二分戦という時点で前者が有利なわけですが、単騎の小倉選手が中国ラインを邪魔するような競輪はしないと思われるので、実際の北日本ラインはさらに分が悪い。捌く競輪で中国ラインの分断を仕掛けてくる可能性があるとすれば諸橋選手ですが、単騎となると選択肢は限られてきます。あとは、地元勢に吹く“追い風”を、しっかりモノにできるかどうかですね。

スタートから熱く冷静だった中国ライン

 スタートが切られると、まずは清水選手がダッシュよく飛び出していって先制。戦力で勝る中国ラインの「前受け」は、想定通りですね。単騎の小原選手が5番手、諸橋選手が6番手と続いて、北日本ラインの阿部選手は7番手から。そして最後尾に小倉選手というのが、初手の並びとなりました。まずは、「後ろ攻め」となった阿部選手がどこから仕掛けるかが争点となります。

 レースが動き出したのは、青板(残り3周)のバックから。阿部選手が前を抑えにいったところで先頭誘導員が外れて、まずは先頭に立ちます。少し遅れてこの動きについていったのが、単騎の小原選手と諸橋選手。小倉選手は後方のまま動かず、「北日本+小原・諸橋」の4車と「中国+小倉」の5車という態勢で、赤板(残り2周)を通過しました。こうなると、あとは宮本選手がどこから仕掛けるか次第です。

 打鐘から少しずつ前との差を詰めていった宮本選手は、その勢いのままに2センターから追撃を開始。最終ホームでは全力で踏んで、前に襲いかかりました。その前から全力で踏んでいた阿部選手は必死の抵抗を試みますが、最終1センターでは宮本選手に並ばれてしまい、万事休す。それを察した番手の和田選手は自力に切り替えるも、外から襲いかかる中国ラインの勢いの前に、なすすべがありませんでした。

北日本ライン(8番、5番)の外から襲い掛かる中国ライン(撮影:島尻譲)

 しかも中国ラインは、内からの「飛びつき」に備えて、少し外を回っていましたからね。ここで巧みな立ち回りができたのは、一瞬の間隙をついて山下選手の後ろを取りきった、諸橋選手だけです。これでギリギリ勝負圏内といえるポジションを得た諸橋選手ですが、前には地元・山口の3車がいるわけですから、ここから先も容易ではない。最終3コーナーでは山口3車が完全に抜け出し、そのままの態勢で直線に入ります。

 諸橋選手は4コーナーで内に進路を取って狭いコースを突こうとしますが、直線での伸びはなく、前との差は詰められずじまい。前では、外に出した清水選手が短い直線でグイグイと伸びて、見事に先頭でゴールラインを駆け抜けました。大接戦となった2着争いは、最後の最後まで逃げ粘った宮本選手に軍配が上がりましたね。そして3着に山下選手と、地元3車がそのまま上位を独占です。

有言実行で記念四連覇を達成した清水には賞賛しかない

プレッシャーを乗り越え偉業を達成。地元のエース、S級S班の意地を見せた(撮影:島尻譲)

 地元記念四連覇を達成すると言葉に出して、実際にそれを達成してみせた清水選手。優勝者インタビューで語った「今までの競輪人生で一番うれしかった、幸せです」という言葉や、レース後に見せた涙に、思わず胸が熱くなったという人も多かったんじゃないでしょうか。私もあの姿を見て、ジーンときました。こういうレースがあるかぎり、競輪の未来は明るい。そう思わせてくれる、素晴らしい走りでした。

 繰り返しますが、さまざまなプレッシャーを跳ね返して地元記念を勝つというのは、簡単なことではありません。しかし、清水選手はそれを4年連続で成し遂げた。やってやる、決めてやると自分自身を追い込んで、それに打ち克って、前人未踏の大記録を達成した。この勝利は、どれだけ言葉を尽くしても語れないほどに、価値のあるものです。手放しでの賞賛を、彼に贈りたい。

 阿部選手を完封して、最後までよく粘った宮本選手の走りもお見事。敗れた阿部選手を筆頭にそのほかの選手も、選択肢が限られているなかでも諦めず、いい走りをしていたと思います。こういった「ファンに感動を与えられるレース」を、私はまた見たい。清水選手にはぜひ、次の競輪祭でも大活躍して、競輪界全体を再び沸かせてほしいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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