アプリ限定 2021/10/31 (日) 18:00 20
日々熱い戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。このコラムではガールズ選手の素顔に迫り、競輪記者歴12年の松本直記者がその魅力を紹介していきます。10月のピックアップ選手はガールズ5期生の卒業記念チャンプ!
2021年4月、同期の酒井拳蔵選手との結婚が話題になった「土屋珠里(つちや・じゅり)選手」です。ガールズケイリンと出会うきっかけ、順風満帆に思えた競輪学校時代とデビュー後の苦難、支えになっている存在…などここでしか聞けない話が盛りだくさんです!
土屋珠里は、餃子で有名な栃木県宇都宮市出身だ。中学では陸上部800メートル走で活躍、県大会では入賞したこともあるほどの実力者だった。高校は県内屈指の進学高・県立石橋高校へ進学。高校時代については「周りが頭良くて付いていくのが精一杯だった」と謙遜する土屋。高校へは自宅から自転車で通い、往復1時間毎日ペダルをこいでいた。
大学進学しようか…と進路を考えているときに父からの助言でガールズケイリンの存在を知る。それがきっかけで、夏休みにはガールズケイリン選手発掘のために開催された「ガールズサマーキャンプ」に参加した。全く自転車競技経験はなかったが、意外にも楽しめたそうだ。
「競輪学校で同期になる藤巻絵里佳さん、宮地寧々さん、中野咲さんと同じグループでした。未経験組の集まりだったけど和気あいあいと楽しくできました!」ここでの良い思い出が日本競輪学校受験へと繋がったようだ。
パワーマックス(固定自転車)の数値が良かったこともあり、進路は「職業・ガールズケイリン」と決心がついた。高校3年の秋から本格的に自転車の練習を開始し、日本競輪学校には適性試験で合格した。
入学後は着実に力を付けていったが、自転車競技未経験ということで大変なことも多かったようだ。「実際どのくらい走れるか分からなかったし、はじめはとても苦労しました。落車もしたこともあったけれど、プロになるんだと自分に言い聞かせて必死に取り組みました」。
努力の成果は結果に表れる。1年間の集大成「卒業記念レース」では予選3走を全て1着通過。決勝は鈴木奈央の仕掛けに乗って最終バックからは自力を繰り出して1着。4連勝の完全優勝で110期の頂点に立った。
ガールズケイリンには1期生から続く、卒業記念完全優勝の系譜がある。(1期生・加瀬加奈子、2期生・石井寛子、3期生・石井貴子、4期生・尾崎睦も完全優勝)5期の土屋がこの系譜をしっかり繋いだ。
「卒業記念レースに向けて状態のピークを持っていくことができたのが大きかったと思います。ただ、卒業記念レースは優勝できたけれど、先輩相手にどこまで通用するかは不安がありました」。土屋にとって卒業記念チャンプの看板は少し負担になってしまったようだ。
デビュー戦は2016年7月18日の名古屋。デビュー戦を逃げ切りで1着スタート。2走目もしっかり力を出し切って2着とまずまずの滑り出しだったが、決勝は最終2センターで斜行してしまい失格。デビュー2場所目の前橋2日目には落車。左肩大結節を骨折と大きくつまずいてしまった。
「周囲の期待になかなか応えられず、うまく走ることができなかったです。選手に向いていないかなと思うこともありました」。折れそうな心を支えてくれたのは同期の存在だった。「同期には助けられましたね。励まされて、 “このまま終わるわけにいかない!”と強く思いました」。
3か月の休養期間に体と心を立て直すと、年末12月の宇都宮から5場所連続で決勝進出。その後もコンスタントに決勝進出を続けると、デビューから1年後の2017年7月の前橋で初優勝を達成した。
「卒業記念を優勝したことでやはりプレッシャーがありました。それでも自分なりに一生懸命マイペースに進んでいって少しずつ慣れていくことができました」。
土屋にとって大きな転機になったのは同期・酒井拳蔵との出会いだった。競輪学校時代は男女交際は厳禁。しかしお互いに『いいなぁ』と心引かれる存在だったそうで、卒業後に交際がスタート。順調に愛を育み、デビューから5年が経過した2021年5月に結婚することとなった。
「学校時代はあいさつをする程度だったけど『いいな』と思っていました。コロナ禍になり、なかなか会うことができない時間が多くなったこともあり、デビューから5年の節目でもあったので、結婚することになりました」。
生まれ育った栃木を離れることに少しだけ抵抗はあったが、夫も競輪選手。酒井は近畿地区の機動型。築き上げたラインの実績もあり、大阪を離れることは難しい。ラインのないガールズケイリンで戦う土屋が大阪へ移籍することとなった。
「栃木のときは師匠(宮原貴之)を始め、いろんな方にお世話になってきました。練習環境はすごくよかったので、移籍するのは寂しかったけど大阪支部のみなさんは温かく迎えてくれました。春に引っ越しをして環境も整い、いい練習ができています」今の練習環境にも慣れたようだ。
今年は1月川崎、3月高知、8月西武園、10月奈良と4回優勝と自己ベストの成績を残している。3月高知は世話になった栃木支部所属として最後の開催でうれしい優勝となった。
今後の目標を尋ねると堅実な返答が返ってきた。「現状を踏まえて、常に確定板に乗れる選手になりたい。平均で54点をキープできるようにワンランクアップしていきたい」と目標は具体的だ。
派手な活躍を見せる108期、個性派ぞろいの112期に挟まれて、なかなか強いインパクトを残すことができていない110期だが、卒業記念チャンプの土屋を筆頭に、いい選手が揃っている。
11月は新しくホームバンクになった岸和田、トップレーサーが集まるガールズグランプリ2021トライアルレース(小倉)と大事な開催が続く。
一歩ずつ着実に力を付けている土屋珠里の実りの秋に注目したい。
松本直
千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。