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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ドームスーパーナイトレース 回顧】今後はこれが“責務”となる

2021/10/18 (月) 18:00 11

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがドームスーパーナイトレース(GIII)を振り返ります。

今年の高松宮記念杯競輪を制しているGI覇者の宿口陽一。GIIIは今回初優勝となった(撮影:島尻譲)

2021年10月17日 前橋12R ドームスーパーナイトレース(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①宿口陽一(91期=埼玉・37歳)
②齋藤登志信(80期=宮城・48歳)
③山田諒(113期=岐阜・22歳)
④田中誠(89期=福岡・38歳)
⑤久米良(96期=徳島・33歳)
⑥伊藤成紀(90期=大阪・39歳)

⑦武藤龍生(98期=埼玉・30歳)
⑧友定祐己(82期=岡山・42歳)
⑨阿部大樹(94期=埼玉・32歳)

【初手・並び】
←①⑨⑦(関東)②(単騎)④(単騎)③⑤⑧(混成)⑥(単騎)

【結果】
1着 ①宿口陽一
2着 ③山田諒
3着 ⑨阿部大樹

「準地元」宿口が中心になった決勝戦

 10月17日には前橋競輪場で、ドームスーパーナイトレース(GIII)の決勝戦が行われています。寛仁親王牌(GI)の直前でもあって、出場選手のレベルは正直なところかなり低め。さらにいえば、地区プロ(地区プロ選手権自転車競技大会)とも日程がかぶっていたんですよね。地区プロは来年の寛仁親王牌(GI)の予選会でもあるので、特別競輪への出場を目指す選手はそちらを選ぶ。それでさらにメンバーが手薄になった…という側面があります。

 そんな中にあって、ひときわ強い存在感を発揮していたのが、今年の高松宮記念杯競輪の優勝者である宿口陽一選手(91期=埼玉・37歳)。競走得点からして断然の高さで、誰がどう見ても彼が中心のシリーズとなる。関東の選手なので「準地元」という側面もあり、押しも押されもしない中心的存在となりました。

 ただし、調子のよさでは阿部大樹選手(94期=埼玉・32歳)のほうが目立っていましたね。オール1着で決勝戦まで勝ち上がり、完全優勝までありそうな雰囲気。しかも関東ラインは、先輩である宿口選手のほうが前を回ることになったんですよね。直線の短い前橋バンクで宿口選手を差すのは容易ではないでしょうが、デキのよさも手伝って、展開次第ではそれが大いにありうる雰囲気でした。

 そして、山田諒(113期=岐阜・22歳)選手も調子が非常によかった。連日バックを取る積極的な競輪で結果を出しており、準決勝でも非常にいい内容で逃げ切って、ラインでのワンツースリーを決めています。残念ながら中部勢は彼だけの勝ち上がりで、ここは準決勝と同じく、中四国勢の久米良選手(96期=徳島・33歳)と友定祐己選手(82期=岡山・42歳)が後ろにつくカタチとなりました。

 齋藤登志信選手(80期=宮城・48歳)と田中誠選手(89期=福岡・38歳)、伊藤成紀選手(90期=大阪・39歳)の3人は、単騎を選択。つまりここは、宿口選手が先頭を走る関東ラインと、山田選手が先頭の混成ラインの2分戦です。しかも、ここで逃げにこだわりを持つのは山田選手だけで、実質的には「先行1車」のメンバー構成。想定される展開が、かなり限られてくる一戦といえるでしょう。

ファンを沸かせた伊藤のカマシ

 では、決勝戦の回顧に入っていきます。スタートの号砲が鳴ると、武藤龍生選手(98期=埼玉・30歳)と友定選手が内に切れ込みながら飛び出していきました。つまり、どちらのラインも「ここは前受けでいい」と考えていたのでしょうね。結局は車番的に有利な武藤選手が前の位置を取りきって、宿口選手と阿部選手を前に迎え入れました。

 そして、顔見せ(選手紹介)でも関東ラインの後ろにつける気配を見せていた齋藤選手が4番手に入って、田中選手が5番手に。山田選手は6番手で、最後方に伊藤選手というのが、初手の並びです。まずは赤板前に山田選手が前を抑えにいきますが、先頭誘導員が離れたところで宿口選手はスッと引いて、4番手に。3車のラインが2つ続いて、単騎の選手が後方に固まる態勢で、赤板(残り2周)を通過します。

 その後はしばらく動きが見られず、この並びのままで勝負かーーと思われたところで、最後方にいた伊藤選手が一気のカマシ。1センターから仕掛けてグングン上がっていき、打鐘で先頭に立つと、さらにリードを広げにかかります。これで楽になったのは、前に目標ができた山田選手。逆に宿口選手は、これで展開的にはけっこう厳しくなりましたね。どこから捲るかという仕掛けどころも変わってきます。

一気のカマシを見せた伊藤成紀がレースを動かす(撮影:島尻譲)

 単騎カマシで先頭に立った伊藤選手だけが抜け出している態勢で、最終ホームを通過。5番手にいた宿口選手が1コーナーから早々と捲りにいこうとしますが、前にいた山田選手もそれに合わせて踏んで、伊藤選手を捉えにいきます。さすがに無理がたたったか、伊藤選手は最終バックで力尽きて失速。先頭に立った山田選手を、外から宿口選手がジリジリと追い詰めるカタチで、3コーナーに突入しました。

 4コーナーで、山田選手の番手にいた久米選手が、外から迫る宿口選手を軽くブロック。とはいえ、最後の直線が短い前橋バンクでは、ここで少し外を回らされただけでも、結果に大きく響いてきます。そして最後の直線、必死に逃げ込みをはかる山田選手でしたが、外から迫る宿口選手のほうが脚色がいい。そしてゴール前、宿口選手が最後の最後で山田選手をキッチリ捉えて、先頭でゴールを駆け抜けました。

 2着に、最後まで前で粘った山田選手。3着には、宿口選手の番手から伸びた阿部選手が入りました。伊藤選手のカマシで絶好の展開となった山田選手を、宿口選手が力の差でなんとかねじ伏せたーーといったレース内容。カマシた伊藤選手は残念ながら最下位でしたが、単調な展開になりそうなところで一気に動いて、ファンを沸かせてくれましたね。アレで、レースが格段に面白くなりました。

格の違いを見せた宿口陽一(白・1番)が捲りで完勝(撮影:島尻譲)

S級S班はプレッシャーとの闘い

 けっして楽ではない展開を、早くから動いて強引に捲りきったのですから、宿口選手の走りは立派ですよ。とはいえ、彼は来年には競輪界の横綱である、S級S班に格付けされる選手ですからね。それを考えると、この結果は「及第点」でしかありません。記念を制するのは今回が初とはいえ、今後はこの相手ならば力でねじ伏せて当然、結果を出して当然と言われる存在になる。いやもう、メチャクチャ大変ですよ。

 でも、現在の競輪界における「S級S班」の価値というのは、それくらい高い。S級1班の人数が少なかった時代と比べると、格段に高まったといえます。だからこそ、どんなコンディションであろうとも、結果を出し続ける必要がある。もちろん人間ですから、調子がいいときも悪いときもあるんですが、今後の宿口選手はそれを言い訳にはできなくなる。そういうプレッシャーとの戦いでもあるわけです。

 だから、記念を勝ったからといって、手放しで褒め称えるわけにはいかない。まずは年末のグランプリを見据えての戦いになりますが、さらに“その後”のことも考えると、この結果にホッとしてはいられません。37歳といえども、ここからさらなる進化を遂げられる可能性だってある。さらなる高みを目指してほしいと、切に願います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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