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山田裕仁のスゴいレース回顧

【湘南ダービー 回顧】動かないことで勝利をつかんだ郡司浩平

2021/10/05 (火) 18:00 13

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが湘南ダービー(GIII)を振り返ります。

直線で素晴らしい伸びを見せ地元の記念競輪を制した郡司浩平(撮影:島尻譲)

2021年10月4日 平塚12R 開設71周年記念 湘南ダービー(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
②新田祐大(90期=福島・35歳)
③清水裕友(105期=山口・26歳)
④小松崎大地(99期=福島・39歳)
⑤稲川翔(90期=大阪・36歳)
⑥松坂洋平(89期=神奈川・39歳)

⑦小倉竜二(77期=徳島・45歳)
⑧野田源一(81期=福岡・42歳)
⑨古性優作(100期=大阪・30歳)

【初手・並び】
←②④(北日本)①⑥(南関東)③⑦(中四国)⑨⑤(近畿)⑧(単騎)

【結果】
1着 ①郡司浩平
2着 ⑨古性優作
3着 ⑦小倉竜二

徹底先行型が不在で展開読みが難しかった決勝戦

 10月4日には平塚競輪場で、湘南ダービー(GIII)の決勝戦が行われています。ここに勝ち上がってきたのは、特別競輪の決勝戦といわれても何の違和感もない、超豪華メンバー。同じ記念の決勝戦でも、確たる中心を欠くメンバーだった、先週の青森記念とはまるで違います。開催タイミングによるとはいえ、同じ記念でここまで出場選手のレベルが違うというのは、正直なところいかがなものかと思いますね…。

 ここは、ラインが4つに単騎の選手が1名という細切れ戦。しかも、ラインの先頭はすべて「今年のS級S班と来年のS級S班予定選手」ですから、力任せに圧倒するような競輪はできません。有利な展開を緻密につくり出す必要がありますが、動こうと思えば自分から動ける選手ばかりですから、さまざまなパターンが考えられる。しかも、どの選手もけっこう調子がよさそうだったんですよ。

 なかでもデキのよさが目立っていたのは、シリーズを通して積極的なレースを見せていた新田祐大選手(90期=福島・35歳)。勝ち上がりの過程では1着こそありませんでしたが、内容はよかったと思います。その新田選手を準決勝で、上がり10秒9という強烈な捲りで2着に退けたのが、古性優作選手(100期=大阪・30歳)。休養明けでの出場でしたが、レースを走るごとに調子が上がってきている様子でしたね。

今シリーズは積極的なレースが目立った新田祐大。S班の存在感を見せてくれた(撮影:島尻譲)

 あとは、決勝戦では単騎となった野田源一選手(81期=福岡・42歳)も、絶好調といっていいデキだったと思います。それに、平塚がホームバンクである松坂洋平選手(89期=神奈川・39歳)が後ろにつく郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)や、小倉竜二選手(77期=徳島・45歳)とのコンビで挑む清水裕友選手(105期=山口・26歳)も、当然ながら侮れません。

 いわゆる「徹底先行型」が不在で、誰か主導権を握るのかさえも読みづらかった一戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは新田選手と小松崎大地選手(99期=福島・39歳)が迷わず飛び出していって、先頭に立ちます。そして、郡司選手が3番手、清水選手が5番手、古性選手が7番手、最後尾に単騎の野田選手というのが、初手の並び。赤板(残り2周)の手前から、レースが動き始めます。

逃がされた清水、絶好の3番手には古性がつける

 まずはセオリー通り、後方にいた古性選手が進出を開始。単騎で最後尾にいた野田選手も、この動きについていきます。赤板を通過したところで先頭に立ちますが、「前受け」だった新田選手は抵抗することなく、スッとポジションを下げました。そして間髪を入れずに、今度は清水選手が前を「切り」にいって先頭に。となれば、次に動く「順番」なのは最後尾の新田選手ですが、動く気配はありません。

 赤板周回のバックに入っても、先頭が清水選手、3番手に古性選手、6番手に郡司選手、8番手に新田選手という隊列に変化なし。郡司選手は、後ろの新田選手の様子を何度も振り返ってうかがいつつ、そのままのポジションでレースを進めます。もし新田選手が前を切りにいくと、郡司選手は最後方になってしまう。それを避けるために、先に郡司選手が動く…という展開もありえる流れでしたが、動きませんでしたね。

 そして、後方に位置する郡司選手と新田選手が動かないままで、レースは打鐘を迎えます。かくして、結果的に「逃がされる」展開となった清水選手が、覚悟を決めて先行。こうなると展開的に有利なのは「前」で、労せず3番手が取れた古性選手にとって絶好の流れとなりました。逆に、後方8番手に置かれた新田選手は厳しい。最終バックに入ったところで新田選手が一気に捲って上がっていこうとしますが、前をいく郡司選手に仕掛けを「合わされる」カタチとなって、併走状態で最終バックを通過。そして前では、逃げ込みをはかる清水選手に、古性選手が襲いかかります。

残り1周、打鐘から先行勝負に出た清水裕友が懸命に逃げ込みを図る(撮影:島尻譲)

 直線の入り口では、先頭でもがく清水選手をめぐって、内外から選手が殺到。清水選手の番手にいた小倉選手が前を捉えたところで、インコースからは野田選手が、外からは古性選手がグングンと伸びてきます。これは古性選手の優勝か…と思ったところで、大外から一気に矢のような伸びをみせたのが郡司選手。ほんの少しだけ古性選手の前に出たところが、ゴールラインでしたね。

 最後の最後で力尽きた清水選手ですが、仕掛けてからの「かかり」はよく、それだけに後方から捲るのはかなり難しかったはず。普通だったら届かないと思われる位置から、郡司選手は本当によく伸びましたよ。あの展開だとさすがに、番手の松坂選手をつれていくのは厳しかったでしょうが、地元・神奈川の意地を見せられたのはよかった。長らく神奈川の選手が勝てていないというのも、起爆剤となったのでしょう。

「競輪脳」を磨くためにも9車立てのレースは必要

 惜しくも2着に敗れた古性選手も、いい競輪をしていたと思います。最後は郡司選手の剛脚に屈したカタチですが、休養明けで練習量が不足していたこと、初日から徐々に調子が戻ってきているようなコンディションだったことを考えれば、この結果は悪くない。3着の小倉選手は、シリーズを通して彼らしい走りが見られず、あまりデキがいいとは思えなかったんですよ。ここは、清水選手の走りに助けられた面もありますね。

 小倉選手がレース後にコメントしていましたが、ここは「みんな新田の仕掛け待ちみたいな感じ」の展開となりました。それだけ、新田選手が存在感を発揮していたシリーズだったということです。しかし、そんな新田選手といえども、この強豪相手で後方に置かれてしまうと力を出せない。それが競輪というもので、こういう展開をつくり出した、他のラインの戦略勝ちといえるでしょうね。

 私がよく言っていることですが、あの脇本雄太選手(94期=福井・32歳)であっても、ライン戦で後手を踏むと負けるのが競輪。出場する選手のレベルが上がれば上がるほど、いかに自分に有利な展開をつくり出すかという技術が問われてきます。その技術向上のためには、「9車立て」のレースでの経験が不可欠。7車の単純なレースでは、9車のレースで勝つための技術は磨かれません。

 まだコロナ禍の影響があるとはいえ、「S級シリーズ以上のレースは9車立て」に戻すことならば、すぐにでもできるはず。このままだと若い選手の成長が望めず、競輪界全体にとって大きなマイナスとなります。競輪という競技が魅力的なものであるために、そういった声が強まることを願ってやみません。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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