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山田裕仁のスゴいレース回顧

【共同通信社杯 回顧】まさに“死闘”となった決勝戦

2021/09/21 (火) 18:00 26

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが共同通信社杯(GII)を振り返ります。

完璧なレースでビッグレースを制した山口拳矢(撮影:島尻譲)

2021年9月20日 岐阜11R 第37回共同通信社杯(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①清水裕友(105期=山口・26歳)
②山口拳矢(117期=岐阜・25歳)
③新田祐大(90期=福島・35歳)
④鈴木裕(92期=千葉・36歳)
⑤守澤太志(96期=秋田・36歳)
⑥杉森輝大(103期=茨城・39歳)
⑦郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
⑧新山響平(107期=青森・27歳)

⑨平原康多(87期=埼玉・39歳)

【初手・並び】
←⑦④(南関東)①(単騎)⑨⑥(関東)②(単騎)⑧③⑤(北日本)

【結果】
1着 ②山口拳矢
2着 ⑨平原康多
3着 ④鈴木裕

能力の高さに加えデキの良さが目立った山口拳矢

 9月20日に岐阜競輪場で行われた共同通信社杯(GII)の決勝戦で、山口拳矢選手(117期=岐阜・25歳)が、デビュー最速でのGII制覇記録を更新して優勝。何かと注目される117期のなかでも、もっとも早くビッグタイトルを手中に収めました。すべてがうまく噛み合った結果とはいえ、今日の彼は本当に強かった! お父さんのヤマコウ(山口幸二)さん、絶対に泣いてたと思いますよ(笑)。

 優勝候補の一角だった松浦悠士選手(98期=広島・30歳)が初日に敗退するといった番狂わせはありましたが、S級S班が5名も決勝戦に駒を進めて、注目の若手である山口選手も勝ち上がり。その結果、かなり難しく、かつ予想が面白いメンバー構成になったといえます。ビッグレースらしく、デキのよさが目立つ選手が多かったのも印象的でしたね。

 決勝戦は、ラインが3つに単騎を選択した選手が2名。ここで主導権を握ると目されていたのは、新山響平選手(107期=青森・27歳)が先頭を任された、北日本ラインです。新田祐大選手(90期=福島・35歳)が2番手につけて、そして3番手を守澤太志選手(96期=秋田・36歳)が固めるという強力布陣。このラインに楽な競輪をさせてしまうと、他のラインはなすすべがありません。

 南関東ラインは、無傷の3連勝で勝ち上がってきた郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)が先頭で、2番手が鈴木裕選手(92期=千葉・36歳)という構成。郡司選手は、休養明けだった前シリーズよりも確実にいいデキだったと思いますよ。とはいえ、ここは準決勝までとは相手が違います。そう簡単に完全優勝できるほど甘くはない……というのが、レース前の見立てでした。

 最後に関東ラインですが、こちらは平原康多選手(87期=埼玉・39歳)が前で、後ろが杉森輝大選手(103期=茨城・39歳)という組み合わせ。落車のダメージから少しずつ調子を取り戻してきた平原選手ですが、まだ本調子とはいえない印象です。この強力な相手に対して、自力勝負でどこまでやれるかは、なんともいえないところ。上位を争うには、展開の助けが必要になりそうです。

 そして、単騎を選択したのが清水裕友選手(105期=山口・26歳)と山口拳矢選手(117期=岐阜・25歳)。言うまでもなく力はありますから、あとは立ち回り次第でしょう。山口選手は地元でのビッグ開催というのもあり、ここに向けて万全の態勢で臨んできたという印象を受けました。タイレコードの上がりを出すなんて、能力とデキの両方がなければ、できる話ではありませんからね。

早い段階からペースが上がり死闘の様相に

 行く気が満々の新山選手に、他のラインがどのように対抗するかが問われた決勝戦。スタートが切られると、郡司選手、清水選手、平原選手の3名が飛び出していきましたが、まず先頭に立ったのは郡司選手。清水選手は3番手、平原選手は4番手につけます。その後ろの6番手に山口選手、最後尾の7番手に新山選手が先頭を走る北日本ラインというのが、初手の並びです。

 レースが動き出したのはセオリー通りに赤板(残り2周)からでしたが、そこからの「動き」が非常に激しかった。最後尾にいた新山選手が動くよりも先に、4番手にいた平原選手が前を抑えにかかります。その動きを察知した郡司選手は引かずに、先頭誘導員が離れたところで前に踏んで、一気にペースが上がります。結果として前の隊列はほとんど変わらず、早い段階からペースだけが上がるカタチとなりました。

 そして、赤板周回の2コーナー過ぎで新山選手が動きます。一気にカマシて先頭に迫りますが、3番手にいた清水選手もこの仕掛けに合わせてタテに踏み込み、関東ラインをかく乱しにいきます。打鐘過ぎでは、インをすくって先頭に立とうとする清水選手、新山選手の後ろのポジションを取ろうと待ち構えていた郡司選手、そして外から主導権を奪いにかかる新山選手の3車併走となります。

 ここで、外から先頭を取りきったのは新山選手。それに新田選手が続きますが、北日本ラインの3番手は、インをすくった清水選手と守澤選手の奪い合いに。郡司選手は、その後の5番手となりました。打鐘からの攻防で、郡司選手の番手にいた鈴木選手がいったん離れてしまいますが、最終ホームに入るまでにうまくリカバーして復帰。じっと前の様子をうかがっていた山口選手は、その後ろにつけています。

残り1周で先頭に立つ北日本ライン。守澤太志(黄・5番)は横の動きで清水裕友(白・1番)を食い止める(撮影:島尻譲)

脚を温存していた山口が満を持してスパート

 最終周回、巻き返しをはかる郡司選手が1コーナーから仕掛けていきますが、前に合わされたうえに清水選手からのブロックを受けて不発に終わり、失速。そして最終バックに入ったところで、道中であまり脚を使わずにじっと我慢していた山口選手が、満を持して仕掛けます。ポジションが取れずに最後方となった関東ラインも、山口選手と一緒に上昇を開始しました。

 絶妙のタイミングで捲った山口選手。一気に差を詰めていって、最終バックでは前を射程圏に入れます。山口選手にとって何より大きかったのが、新田選手が新山選手の番手からタテに踏むよりも早く、北日本ラインに並ぶところまで行けたことです。それもあってか、新田選手は番手捲りではなく、山口選手のブロックを選択。しかし残念ながら、ヨコの動きが得意ではない新田選手のブロックでは、山口選手の勢いを殺せませんでした。

 そして勝負どころの最終3コーナー。先頭を走る新山選手はここで力尽きて、新田選手と山口選手が併走するカタチで直線に入ります。内では新田選手の後ろの守澤選手、外からは山口選手の後ろにつけた平原選手と杉森選手が続きますが、郡司選手の番手から自力に切り替えた鈴木選手も、その隙間を狙って伸びてくるという大混戦。まさに、手に汗を握るデッドヒートとなりました。

 直線に入ってもしばらくは山口選手と新田選手のせめぎ合いが続きましたが、勝利の女神が微笑んだのは、ジリジリと最後まで伸び続けた山口選手のほう。後続に2分の1車身差をつけてゴールに飛び込み、巡ってきたチャンスを見事にモノにする勝負強さを見せつけました。道中で脚を使わされた選手が多く、展開が向いたのは事実ですが、あの仕掛けは本当にお見事。いやあ、「持っている」選手ですよ。

 ズラッと横並びとなった熾烈な2着争いを制したのは、山口選手をマークするカタチとなった平原選手。そして3着には、巧い捌きで直線でもいい伸びを見せた鈴木選手が入りました。新田選手は最後の最後で力尽きて、4着に。序盤から前で脚を使わされる厳しい展開となった郡司選手は8着、さらに清水選手も7着という結果に終わっています。

「ラインに頼らない競輪」を貫き通すその先は…

名選手だった父・幸二さん(左)と優勝を喜ぶ山口拳矢(撮影:島尻譲)

 勝ちに徹する走りのスタイルが物議を醸すことも多い山口選手ですが、それでビッグのタイトルを獲得して、グランプリ出場が視野に入るところまできたのですから、本当にたいしたもの。コレで結果を出しているんですから、外野からアレコレ言われる筋合いはないと私も思いますよ。

 ただし、彼はまだ若い。デビューが遅くなったとはいえ、競輪選手になってから2年もたっていないわけです。だから、「ラインに頼らない競輪」を貫き通すのがいかに困難なことであるかを、本当の意味ではわかっていない。長い選手人生のなかで、それを思い知る瞬間というのが、いつかは必ずやってくる。まだ先の話とはいえ、その時にどうするのか……というのは、やはり気がかりですよ。

 惜しかったのは新田選手で、山口選手の勢いをキッチリ殺せるようなブロックができていれば、結果は大きく変わっていたと思います。あとは、あそこでヨコに動くのではなく、もう少しだけ早くタテに踏んでいれば……というタラレバも、やはり頭をよぎります。新山選手がいい走りをしてくれただけに、この結果を悔しく思う気持ちは、彼もかなり強いはず。この敗戦を糧に、どう変わってくるかに期待したいですね。

 あとは新山選手も、ちょっともったいない走りだった側面があります。誰もが「新山が主導権を奪いにくる」と確信している状況だったわけですから、それを逆手に取るような手もあったのではないかと。主導権を握るにしても、もう少し意外性のあるタイミングで仕掛けることで、違う結果が出せていた可能性がある。こういった大一番では、相手の思惑に乗らないことが、強敵の力を削ぐことにつながりますからね。

 ……といったタラレバはありますが、全選手が優勝を目指して全力で走った、非常にいいレースだったと思います。年末のグランプリへ向けての戦いが、さらに熾烈なものになっていく今後が、より楽しみになりましたよ。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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