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山田裕仁のスゴいレース回顧

【蒲生氏郷杯王座競輪 回顧】大きな“意義”をもつ浅井康太の優勝

2021/09/13 (月) 18:00 26

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが蒲生氏郷杯王座競輪(GIII)を振り返ります。

浅井康太は昨年12月オランダ王国友好杯以来の記念優勝となった(撮影:島尻譲)

2021年9月12日 松阪12R 開設71周年記念 蒲生氏郷杯王座競輪(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①浅井康太(90期=三重・37歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
③宿口陽一(91期=埼玉・37歳)
④中本匠栄(97期=熊本・34歳)
⑤守澤太志(96期=秋田・36歳)
⑥木暮安由(92期=群馬・36歳)
⑦清水裕友(105期=山口・26歳)

⑧園田匠(87期=福岡・39歳)
⑨平原康多(87期=埼玉・39歳)

【初手・並び】
←③⑨⑥(関東)①(単騎)②⑤(混成)⑦④⑧(混成)

【結果】
1着 ①浅井康太
2着 ⑧園田匠
3着 ⑤守澤太志

決勝は特別競輪でもおかしくない豪華メンバー

 9月12日には松阪競輪場で、蒲生氏郷杯王座競輪(GIII)の決勝戦が行われました。決勝戦へと駒を進めたのは、ご覧のとおりの強豪たち。郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)に守澤太志選手(96期=秋田・36歳)、清水裕友選手(105期=山口・26歳)、そして平原康多選手(87期=埼玉・39歳)と、4名のS級S班が決勝戦に駒を進めています。

 さらに、高松宮記念杯競輪(GI)を勝ってタイトルホルダーの仲間入りを果たした宿口陽一選手(91期=埼玉・37歳)や、中部地区を牽引する存在である浅井康太選手(90期=三重・37歳)もいるんですから、特別競輪の決勝戦でもおかしくないほど。文句なしの好メンバーで、どういうレースになるのかじつに楽しみでした。

 決勝戦で人気を集めたのは郡司選手で、その後ろには守澤選手がつくことに。休み明けの郡司選手は、今回デキがどうかと思われましたが、1戦ごとに調子を上げてきました。とはいえ、まだまだ本調子ではない。その証拠といえるのが、準決勝で後手を踏んで、後方に置かれる展開となったことです。よく追い上げて3着まできましたが、あんな読み間違えをするのは彼らしくありませんからね。

 そして、3車が決勝に駒を進めた関東ラインは、宿口選手が前を任されることに。平原選手に志願しての結果とのことですから、気合いが入っているのは間違いありません。関東ラインが主導権を奪うと、宿口選手が早めに仕掛けてバックで平原選手が番手捲り……といった展開となる可能性が大。他のラインは、それにどう対抗するかを考える必要がある一戦でした。

 デキのよさが目立っていた清水選手の後ろには、準決勝でも連係していた中本匠栄選手(97期=熊本・34歳)がつきました。さらに、ライン3番手には園田匠選手(87期=福岡・39歳)と、清水選手の後ろを九州勢が固めるカタチ。別線はかなり強力ですが、こちらも展開次第では十分に優勝争いができるだけの力があります。

 地元・三重を代表する存在でもある浅井選手は、単騎を選択して一発を狙います。ここを目標に調子を上げてきており、デキもかなりよさそうでしたが、松阪バンクはなぜか相性がイマイチで、苦い思い出も多いだけに、ここで思いきった競輪ができるかどうかがカギを握ります。バンクとの“相性”って、トップクラスの選手でもけっこう気にしてしまうものなんですよねえ……。

宿口を前に出させず主導権を譲らなかった郡司

スタートは関東ラインがポジションを取りに行った(撮影:島尻譲)

 超一流がズラリと揃って、どういう展開になるか楽しみだった決勝戦。スタートの号砲が鳴ってまず飛び出していったのは、平原選手でした。関東ラインが「前受け」を選択して、まずは宿口選手が先頭に。単騎の浅井選手が4番手に入り、5番手に郡司選手、後方7番手に清水選手というのが、初手の並びです。

 赤板(残り2周)の手前で動いたのは清水選手。後方から勢いよく上昇していって、先頭誘導員が離れたところで先頭に立ちます。さらに郡司選手も、この動きについて上がっていきましたね。宿口選手はいったんポジションを下げますが、1センターでは少し前に踏んで、郡司選手と守澤選手の少し後ろにつけつつ、いつでも動ける態勢で前の様子をうかがいます。

 そして打鐘前に、今度は郡司選手が清水選手を「切って」先頭に立ちますが、時を同じくして宿口選手が後方から進出を開始。打鐘過ぎから主導権を奪おうと襲いかかりますが、このタイミングで引くわけにはいかない…とばかりに郡司選手が応戦。宿口選手は、仕掛けを郡司選手に合わされるカタチとなりました。この両者が踏み合ったままで、レースは最終周回に入りました。

宿口(赤・3番)と郡司(黒・2番)の攻防はレース展開に大きな影響を与えた(撮影:島尻譲)

 ここでの勝者は、最後まで宿口選手を前に出させなかった郡司選手。宿口選手は最終1センター手前で早々と力尽きて、戦線を離脱します。自力に切り替えた平原選手は5番手の外につけますが、この展開ではさすがに厳しい。かくして主導権を取りきった郡司選手ですが、こうなると展開が向くのは郡司選手と守澤選手の後ろ、3番手の位置をキープしてきた清水選手。2コーナーから捲って、前を捉えにかかります。

郡司-守澤ラインの直後につけた清水が捲りを放つ

 しかし、その差が意外に詰まらない。最終バック過ぎで、守澤選手に軽くブロックされてからも必死に追いすがりますが、一気に前を飲み込むような勢いはありません。ここで、後方から素晴らしい勢いで伸びてきたのが、最終ホームからじっと最後方で前の様子をうかがっていた浅井選手。2コーナーで仕掛けるとバックでグングン伸びて、3コーナーでは前が射程圏に入るところまで進出します。

 そして直線。郡司選手が先頭で必死にもがくところを、外から浅井選手が一気の脚で抜き去ります。そのスピードをもらって外からいい脚で伸びてきたのが、3コーナーで浅井選手の後ろに切り替えた園田選手。とはいえ、先に抜け出している浅井選手を捉えるまでは至りません。清水選手や、その番手にいた中本選手、そして守澤選手も内からジリジリと伸びますが、これは3着争いまででしたね。

 結果は、浅井選手が後続に2車身差をつける完勝。そして2着に園田選手、大接戦の3着には守澤選手が入るという結果で、3連単は10万車券という大波乱決着となりました。最近はいい結果を出せていなかった浅井選手だけに、この優勝は本当にうれしいはず。しかも、この相手に単騎で優勝という結果を出せたのは、本当に大きいですよ。中部地区のリーダーは、やはり彼ですから。

展開も味方したが、2車身差は実力の証

 各ラインが「他のラインに力を出させない」ことを意識した結果、前がもつれる展開になり、後方でじっと様子をうかがっていた浅井選手にとって絶好の流れになったのは事実です。とはいえ、これほど鮮やかな勝ち方ができるというのは、力の証明ですよ。最近の中部では山口拳矢選手(117期=岐阜・25歳)が存在感を発揮していますが、彼ではまだまだ、地区全体を牽引するような存在にはなれません。

 単騎で優勝して「番手を回らずともまだ自力で勝負ができるんだ」と示せたことで、若手に対する説得力が強まる。また、浅井選手自身が苦手意識を持っていたであろう松阪バンクでの優勝も、メンタル面で大きなプラスとなります。さらにいえば、これが岐阜での共同通信社杯(GII)直前だというのも大きい。中部地区全体がいい流れと雰囲気のなかで、ビッグレースを迎えられます。中部地区を応援する者として、この優勝は本当に、我がことのようにうれしいですよ!

中部地区の大黒柱としてまだまだ活躍を期待したい(撮影:島尻譲)

 それに、このレース自体もじつに面白かった。宿口選手に主導権を奪わせまいと引かずに応戦した郡司選手は、準決勝での失敗を踏まえて、自分の走りをキッチリ修正してきましたね。結果こそ8着に終わりましたが、あれでこそ郡司浩平。逆に宿口選手は、タイトルホルダーになったとはいえ、超一流を相手にした場合のレースの組み立てについては、課題が残ります。

 あとは「守澤選手が清水選手を完全に止めてみせた場合の結果」も見てみたかったかな。ブロックして清水選手の勢いを殺していましたが、あれが佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)だったら、完全に止めていたと思いますよ。守澤選手はマーク選手とはいえタテ脚が武器で、ヨコの動きについてはもっと磨きをかけられるはず。今後のさらなる技術向上を期待したいところですね。

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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