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「史上最高」へーー古性優作が挑む、未踏の称号と村上義弘から受け継がれた思い /日本選手権競輪スペシャルインタビュー

アプリ限定 2025/04/25 (金) 19:00 9

ダブルグランドスラム達成を目標に掲げる古性優作にとって、残すタイトルはまだ勝っていない日本選手権競輪(ダービー)と競輪祭だ。全日本選抜競輪2V、高松宮記念杯競輪2V、オールスター競輪2V、寛仁親王牌2V、そしてKEIRINグランプリ2Vという状況(これだけでもとんでもない実績…)だが、今はまだ旅の途中。
果てなき道を行く男の、脳みその奥深く、心の中はどうなっているのか…。また、まずは眼前に迫る名古屋・日本選手権競輪に向けてはーー。(取材・文=東京スポーツ・前田睦生)

冷静な語り口でもダービーに秘めている思いは熱い

「最も欲しいタイトル」ーー村上義弘から受け継がれた思い

 日本選手権。その名の通り、競輪選手の頂点を決める戦いだ。今年は名古屋競輪場で4月29日〜5月4日の日程で争われる。そこへ、向かう。

「ホントに…、最も欲しいタイトルなんで。日本選手権は。勝ちたい、でも…」

 日本選手権への思いは、ある人から受け継がれている。「村上義弘(引退=73期)さんがすごく大事にされていた大会ですし、日本一になるために絶対取らないといけないタイトルなので」。冷静な語り口ながら、熱気を隠せない。肌で感じてきたものがある。

「村上さんは日本選手権を取ることにすごいフォーカスしてはった方。最初はあまりピンと来てこなかったけど、年々意識し出して、本当に取りたいタイトルになってます」

 充実期の今、今回の大会を勝つことが目標に向けて大きな前進になる。ダブルグランドスラムに向けて「日本選手権を取りたいというよりか、通過点として取らないといけないタイトルなので。そこで取って終わりじゃない。自分が目指すべきものに対して必然的に要るタイトル」と、向き合うもの、背負うものから目を背けない。

 総合的な“競輪の力”で話した時、多くの選手が『古性優作が史上最高の競輪選手』と呼ぶほどの選手になった。とはいえ、自身が感じる好不調、状態の揺れはある。4月上旬の高知記念(よさこい賞争覇戦)は1着、3着、4着、1着という結果に終わっている。

「高知は本当にどうしようもなかったです。ただ、そこからは良くなってきている。でも、確実に取りにいくとなると力が足りない。GIの中でも、ミス2回くらいしても優勝できるくらいの力がほしい。今はミスひとつもできない、プラスアルファ展開も向かないときつい」

 自身の状態、また競輪に関しての把握力も秀でている古性の言葉がある。足りていない、弱い、と自身を評することも多い。昨年春にはナショナルチームの練習に参加する機会があり、見つめ直すきっかけをつかんだが、「頭打ちもしていて、またさらに進化するためにいろいろ考えないといけない」現状にぶつかっている。

古性優作のトレーニング哲学、質と量、そしてバランス

「質も量もそれを考える力も日本一」とすべてにおいて頂点を目指す(撮影:北山宏一)

 トレーニングについての考え方がある。

「トレーニングの質も大事ですけど、量も大事だと思っているんです。質を求めて、ナショナルチームと一緒の量をしても追い付かないんで。質を求めながらより量を求めて、さらに体がつぶれないようにケアもしないといけない。そこのバランスを取る能力も上げたい」と全体を作り上げている。

 自転車についても、よくなるため、強くなるためを惜しまない。性格なのか…。自分を振り返ってもらうと「結構、古い考えも持っているんですよ。追及することも大事ですけど、そこに、トレーニングの量も増えないといけない。追及すると、質を良くして量を求めなくなりがちですけど。プラスアルファで昭和的な考えもあって量も確保して」と、ただ最先端ではないことを分析する。

「質も量も日本一。それを考える力も日本一でないといけない。あと自分の考えが、今の段階で正解だったとしても、絶対1年2年3年経つと古くなっていく。柔軟に考えないと取り残される」

 自分をしっかりと持ちつつ、受け入れるべき事実とはしっかり向き合う。自分の中で「感覚がいいからといっても過去の自分より下回っていたら、それは感覚がいいだけで進んでいないんで。感覚が悪くても進んだ方がいい」とおざなりにすることはない。

“最初に行った奴がカッコいい”今も根本にあるBMX精神

やる前に諦めることはしない、とりあえず挑戦してみることが古性優作の強さ(撮影:北山宏一)

 それ、を積み重ねてきている。2011年7月岸和田デビューから、日々を重ねてきた。現状にとどまらないように「新しいことがあったら、長いスパン考えて挑戦してきたし、やる前からアカンと思ったことはないです。とりあえずやって、という感じ。昔からそれはやってこれた」ことが現在をつくり出している。

 現在の強さにつながった具体的な場面を2つ挙げた。「タイトルを取った年の2月に斡旋が止まったんですけど」。振り返ったのは2021年。8月にいわき平オールスターでGI初優勝、暮れの静岡グランプリを制した年だ。その2月。

「フレームもパーツも一緒のものがないくらい一新して、3月に復帰した時にこれいけるな、っていう手応えを感じた。あの時間は無茶苦茶大きかった」

 もう一つは、そのオールスターを勝った後の時間。そこにいた自分は「初めてタイトルを取った時に、満足することなく、さらに追及できたことによって、あともタイトルを重ねることができた。自分でよかったと思うのは、タイトルを取った後、何も変わらなかったということ。満足もなかった。それが今を体現できているのかなと思います」と、今と同じ自分だったと振り返る。そんな性格。子どものころから?

「なんか、人がやったことがないことをしたかったですね、ふふ。先にやりたかった、ジャンプとかも。BMXのジャンプでも新しいジャンプを最初に飛びたい、と。どうなるかわからないですけどね。思いっきりコケてもいいから、とりあえずチャレンジしてみたい、カッコいいし!みたいな(笑)」

 子どものころから親しみ、日本王者にも輝いたBMXの精神が合っていた。「BMXってそういう文化なんで。もう、コケても、フレーム折れても、大ケガしても、最初に行った奴がカッコいい。だから、最初に行こう!って思ってました。ハハハ!」

実は…ファッションセンスは昭和!?

南修二(左)と丸かぶりになったファッション(写真提供:古性優作選手)

 そんなヤツ。そんな男。今や競輪界の顔であり、風格漂う存在だが、かしこまってはいない。競輪場に入る時も古風な背広を決めてくる。髪型も独特だが「髪はパーマをあてると楽なんですよ。セットとかが」とこだわりよりも実用性を重視。服装はなぜか、あの先輩と寄ると笑う。

「今日(取材日)偶然なんですけど、見てください。南(修二)さんと全く一緒! 全然違うところで買ったんですけど…。ジーパンの色も打ち合わせもなんもしてないのに」

 背広は貫禄のあるものが多いが「可愛いと思ったものを買っている感じです。お店の人と話しして、いいな、と」。結果、そもそものセンスが昭和なのかもしれない。

 後輩に対して、いい関係を築くことも忘れない。近畿地区の後輩の成長へ、しっかりと言葉をぶつける。また、近畿地区でなくても、「菊池岳仁も後藤大輝も、部屋とか遊びに来るんですよ」と交流を断らない。

「2人とも真面目なんで。(岸和田に)練習にも来るし、岸和田は今、日本一機材が揃っていますから、ウエートとかも。来てくれるのはありがたいですよ。可愛いです」

古性優作の走りに魅了される、仲間そして競輪ファン

古性優作の周りには多くの人が集まる

 そうして先輩、後輩、仲間とふれあい、笑顔でいる古性の姿もよく見る。「1人になりたい時もあるし、基本はみんなと練習するのも楽しい。極端ですね」。時間の使い方も、自分に合うように…で、バランスを取っている。日々が積み重なっている。

 戦い、実績は孤高の存在に見えそうなもの。しかし、古性の周りには多くの人がいて、今までを作ってくれた人たちがいて、これからを作っていこうとしていく人たちがいる。そして今、古性の走りに魅せられる競輪ファンがたくさん増えて、まだまだ大きなうねりを生んでいこうとしている。

 まずは名古屋の日本選手権ーー。日本一の競輪選手であるための絶対必要タイトルをつかみ取る。人が憧れる人に…。誰も追い付けない場所に古性優作は突き進んでいく。

「競輪好プレー大賞2024」授賞式もお楽しみ!

次回は「競輪好プレー大賞2024」を受賞した古性優作選手の授賞式インタビューをお届けします!古性選手の直筆サイン入りグッズのプレゼントもありますので、お楽しみに!※5月中旬公開予定です。

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