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“80歳まで現役”掲げる石井寛子が向き合う「私が生まれてきた意味」/オールガールズクラシック特別インタビュー後編

アプリ限定 2025/04/20 (日) 18:00 12

25日にガールズケイリンGI「第3回オールガールズクラシック」が開幕する。netkeirinではガールズグランプリ2024を制した石井寛子選手にインタビューを行った。後編では、変化を続けるガールズケイリン界についてや掲げている“80歳まで現役”という目標の真意、さらにオフの一面に迫った。

変わりゆくガールズケイリン界

 2012年に始まったガールズケイリンが11年目となる2023年、GIレースが新設された。男子のGI高松宮記念杯競輪と併催される「パールカップ」、競輪祭と併催される「競輪祭女子王座戦」、そして最も格式の高い「オールガールズクラシック」だ。

 それまでガールズグランプリの出場権争いは賞金争いが中心だったが、GI優勝者にはガールズグランプリの優先出場権が与えられることになった。GI新設から3年目を迎えた今年、4つ目のGI「女子オールスター競輪」の初開催が決まっている。

 ガールズグランプリ最多出場を誇る石井の目に、GIはどのように映っているのだろうか。

「ガールズケイリン全体で考えればGIが4つに増えたことはすごくいいこと。優勝賞金も上がったし(今年のオールガールズクラシック優勝は900万円・副賞含む)、ガールズケイリンを知らない人にも知ってもらうきっかけになると思います。GIレースはテレビで放送してもらえるのもすごくうれしいですね」

 一方で石井がGIで決勝まで勝ち上がったのは『第1回オールガールズクラシック』の1度だけ。GIにおける戦い方や調整面で試行錯誤を続けながら、グランプリ出場のチャンスと前向きにとらえている。

「優勝すればグランプリが決まるというのは大きいです。序盤戦であまり勝つことができず賞金ランキングで足踏みしている今年のような状況だと、GIが多くあるのはチャンスかもしれません」

女子から“5000万円レーサー”を

 今年の5月に128期(ガールズ14期生)がデビューを控え、選手数の増加(217人在籍/3月31日現在)もガールズケイリンの変化のひとつだ。2期生として黎明期から支えてきた石井は、さらなる発展のためもっと選手が増えることを望んでいる。

「自分は80歳まで現役を続けていきたいと言い続けています。そのためにはガールズケイリンが途切れず続いていくことが不可欠です。最初の女子競輪が15年で終わってしまった過去がある。そうならないためにも選手がもっと増えればいいし、ガールズケイリンみんなで盛り上げていきたいですね」

 “3年で終わる、もって5年”と言われた草創期。苦しい時代のガールズケイリンを知り、デビューからトップを走り続けてきた石井は、常にガールズケイリン界のことを考えている。そのため現状に課題を感じることもあるという。

「どうしたら人気が出るのかなと常に考えています。ガールズケイリンのトップレーサーの賞金は5000万円くらいまで上がってほしいですね。女子ボートレーサーだとトップは8000万円以上(2024年、ボートレースの賞金女王・遠藤エミの獲得賞金額は8057万円)。もっとガールズケイリンがメジャーになって、車券が売れて賞金が上がれば『こんなに稼げるんだ』と話題になると思うので、ガールズケイリンをやりたいと思ってくれる子たちが増えたらいいですよね」

 昨年の賞金女王・石井の獲得賞金は3564万4000円で、これは歴代最高記録だ。男子同様ガールズケイリンの賞金も上がっているものの、年間賞金が3000万円を超えたのは昨年の石井と2022年の柳原真緒の二人だけである。

GP

 またGIオールガールズクラシックにも出場する加瀬加奈子や前座戦に登場する大久保花梨など、出産を経て戦列復帰する選手が年々増えている。

「お母さんレーサーへの待遇が良くなるといいですよね。例えば開催場に託児所があれば、安心して走れると思います」

 出産後もプロが続けられるというのは、間違いなくガールズケイリンの長所だ。それは月に2回を基本に各選手にレースが振り分けられ、公私のスケジュールやコンディション調整がしやすいという理由もあるだろう。

ガールズケイリン発展のため望むこと

 一方でモーニング、デイ、ナイター、ミッドナイトと4種類の時間帯で走る競輪界は、生活リズムを整えるのが難しい面もある。どの時間帯でも最大限のパフォーマンスが発揮できるよう、コンディション作りに配慮している選手も多い。

「開催中、食事の時間はすごく大事ですね。レース参加中は宿舎や競輪場内にある選手食堂で食事をするのですが、一番難しいのがミッドナイトの食事時間です。ガールズが走るのはだいたい20:40〜21:10の間(最終日の決勝は23:00前後)。どこの競輪場もだいたい16時半から17時に夕食になるんですが、その時間に食事を摂るとレースを走る時、お腹の中に消化されていないものが残ってしまう。かといって食事を摂らないと力が出ないしフードロスの問題もあるので、ミッドナイトの時は16時から食事が摂れればみんな十分に食べられると思います。検討してもらえるとありがたいです」

 さらに成績不振者が強制的に引退となる『代謝制度』は、ガールズケイリンでは2014年から導入され、現在半年に3人が強制引退となっている。この中にはデビュー直後のケガで1年半しか現役生活を送れなかった者や、産休から復帰後1年半で引退を余儀なくされた者も含まれている。

「代謝の人数は、今のガールズ選手の人数を考えると多いようにも感じます。半年に3人、1年に6人というのは少し厳しいんじゃないかな」

 トップで走る石井にとって代謝制度は現状無縁といえる。それでもガールズケイリン繁栄を願うからこそ、選手増加は至上命題だ。代謝により選手の質は保たれる一方で、選手を目指すハードルが上がっていることも確かだろう。

「今回グランプリで私が優勝したのを見て、一度選手になることを諦めてしまった子がもう一度選手を目指すと決めてくれたんです。ガールズケイリンを続けてきてよかったと思った瞬間でした。後輩が増えないとガールズケイリンは盛り上がらないですから。後輩の育成も私がやるべきことのひとつだと思っています」

“石井寛子が生まれた意味”

 そして、それらの希望を現実にするためには、ガールズケイリンの人気と車券売上向上が必須であることも当然理解している。トップレーサーとして活躍し続けているからこそ、ガールズケイリンを盛り上げることに大きな使命感があるのだ。

「大きなことを言わせてもらうと、私が生まれてきた意味は『競輪で世の中を明るくするため』だと思っています。自分が楽しむというよりも、育成や周囲に働きかけることでガールズケイリンを盛り上げたい。自分が寄付するのは第一に困っている方々のためと、そのとき名前を出して記事にしてもらうのは競輪を知ってもらうきっかけになればと思ってのことです」

 石井は寄付や福祉施設の訪問などの社会貢献にも積極的だ。

「デビューしてすぐの時期は余裕がなかったのですが、少しして経済的にも落ち着いたときに『私がやりたいことってなんだろう』と考えました。2011年3月に東日本大震災が起きて、テレビで流れてくる情報でつらい思いをしている人を見ていると、自分の置かれた環境が恵まれているなと。普段と同じ生活ができて、練習もできるし、レースにも参加できる。家族が亡くなってしまったり、家が流されてしまった人がいる中で、何か行動を起こしたいって気持ちはずっとあったんです」

 今回のグランプリ優勝では地元・調布市役所の「調布市子ども・若者基金」と生まれ故郷である春日部市役所の「春日部市ふじ福祉基金」への寄付、そして石川県に「令和6年能登半島地震災害義援金」を送っている。石井は寄付したお金がどのように使われるか調べ、より有意義に貢献できるよう努めている。

「自分ができることは、現地に手伝いにいくことよりも寄付をすることなのかなと。2017年8月に被災地のいわき平でガールズケイリンコレクション(アルテミス賞)を勝つことができたので、寄付させてもらったのが最初です。そのあとは大きなレースで勝つことができたときに、そのとき大変な場所へ寄付させてもらっています」

 2023年には埼玉県社会福祉協議会「こども食堂・未来応援基金」に寄付し、2024年は妹・貴子とともに児童養護施設に足を運んだ。

「80歳で引退したあとは、子どもたちへの支援活動をしたいと思っているんです。京王閣競輪さんの協力もあり、YouTubeの企画でこども食堂や児童養護施設に行くことができました。勉強するために足を運んだのですが、子どもたちと触れ合いパワーをもらって応援してもらえたので、もっと頑張ろうと思いました」

 “競輪で世の中を明るくする”という使命。強さだけでなく優しさでも世を照らすのが、石井寛子の生きざまなのだ。

“推し活”に目覚めた!?

 そんなストイックな印象が強い石井寛子だが、最近はインタビューなどでバンド『Mrs. GREEN APPLE』のファンであることを明かし、“推し活”についても口にする機会が増えた。 

「ハマったきっかけは練習なんです(笑)。練習の一環でダンスを取り入れていて、トレーナーさんから出された課題曲がMrs. GREEN APPLEの『ダンスホール』でした。最初はただ踊っているだけだったのに、耳に入ってくる感じが良くて。トレーナーさんに歌詞も見るように言われて意識したら、“いつだって大丈夫”というメッセージが心に響いて、いいなって」

 徐々に興味を深めるうちに、Adoの『私は最強』はMrs. GREEN APPLEが提供した曲であること知り、衝撃を受けた。3人の活動から“みんなを楽しませたい”という思いが伝わり、どんどん惹かれていった。

「調べていくうちに、どんどん沼にハマりました(笑)。ライブDVDは全部持ってますし、ポップアップストアでグッズをたくさん買ったり、コラボ商品を探すためにコンビニをはしごしたり… そんな感じで推し活を楽しんでます」

 練習中に曲を聴くことで楽しい気持ちになったり、集中力を研ぎ澄ますことができるという。“推し活”は生活の一部になっている。

(本人提供)

 さらに優勝報告会では、スピードチャンネルで共演した手越祐也さんから花が届いていた。

「スピードチャンネルでの共演がきっかけでファンになりました。手越さんはスポーツが大好きで、競輪のことも調べてくれたんです。だから私も手越さんのことを知ろうと思い、DVDを全部買ってみました。1回ライブに招待してもらってすごく楽しかったので、その後は自分でチケットを買って見に行ったら、共演したガールズ選手たちに偶然会いました(笑)」

デビュー当時の挫折「私、やっていけるかな?」

 常にトップを走り、ガールズケイリン発展のため前向きに取り組む石井でも、デビュー直後は心が折れそうになったこともあった。

「まだ1期生と2期生しかいないときは苦しかったです。レースでも宿舎でもバチバチで気持ちに余裕がなく『私、ガールズケイリンでやっていけるかな?』と不安でした」

 当時、ガールズケイリンの後輩として現れた自転車競技の実力者・石井寛子を“簡単に勝たせるわけにはいかない”という思いがあったのだろう。

「でもそれも3期生、4期生が次々デビューしていくにつれて変わりましたね。新しい選手が増えて、強い選手も現れて…。“1期生vs.2期生”のような構図はなくなりました。お互いにいろいろ話すようになり、1期生と2期生の距離が近づいていきました」

 当初、猛烈なライバル関係にあった1期生とはガールズケイリンを初期から支えた“戦友"として、今はともに力を合わせ歩んでいる。

「一緒の開催を走った時に、加瀬(加奈子)さんが『寛子はおばさんの星だから』と言ってくれました(笑)。私が通算500勝を達成したときは、(小林)莉子ちゃんたちからプレゼントをもらった。応援してもらえるようになるなんてデビュー当時は考えられなかった。今でもライバルですが、温かい関係になっています」

『80歳まで現役』のモチベーション

 ここまで何度も出てきた通り、石井寛子の目標は『80歳まで現役』だ。節制と鍛錬の日々は決して楽しいことばかりではないだろう。なぜそこまで高いモチベーションを維持できるのだろうか。

「周りの先輩ガールズケイリン選手とも“長くやりたいですね”って話をするんです。中村由香里さんは『60歳までやりたい』と言っていて、一時期『80歳までやる』と話していたので、自分も80歳までやりたいって言ったのが最初なんです」

 石井よりも年上の選手の活躍が、確かに励みになっている。

「自分は“終わり”とか“卒業”とかが苦手なんです。だから“引退”っていう言葉もイヤ。『死ぬまで現役』って考えていれば、終わることがないから」

 そう言って笑った石井。限界を決めず、まだまだ成長できると信じているからこその思いなのかもしれない。

「ゴールは決めていません。40代で小学生、50代は中学生、60代は高校生、70歳は大学生みたいなイメージ。80歳で一人前です(笑)。80歳まであと41年しかないんだな、人生短いな、って思います。理想は開催中に選手宿舎で最期を迎えることかもしれない(笑)。でも、80代以降にもまだまだやりたいことがあるので死ねません(笑)」

 石井寛子を突き動かすのは、競輪への愛情だ。ガールズケイリンを誰よりも愛し、その強さと優しさ、美しさで競輪界を照らしている。

 通算勝利は675勝、優勝回数は182Vとガールズ最多だ。ガールズケイリンの歴史を開拓してきた“生けるレジェンド”石井寛子ならば、前人未踏の“傘寿レーサー”となる未来も不思議とイメージできるのではないだろうか。

 彼女から勇気をもらっている人がたくさんいる。“使命”を背負い、最前線で戦う姿を今後も目に焼き付けたい。

取材:デイリースポーツ・松本直
撮影:北山宏一


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