2024/12/23 (月) 18:00 28
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが佐世保競輪場で開催された「九十九島賞争奪戦」を振り返ります。
2024年12月22日(日)佐世保12R 開設74周年記念 九十九島賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・34歳)
②深谷知広(96期=静岡・34歳)
③荒井崇博(82期=長崎・46歳)
④村田雅一(90期=兵庫・40歳)
⑤佐々木悠葵(115期=群馬・29歳)
⑥渡邉雅也(117期=静岡・23歳)
⑦稲川翔(90期=大阪・39歳)
⑧末木浩二(109期=山梨・33歳)
⑨窓場千加頼(100期=京都・33歳)
【初手・並び】
←②⑥(南関東)①③(混成)⑤⑧(関東)⑨⑦④(近畿)
【結果】
1着 ⑨窓場千加頼
2着 ③荒井崇博
3着 ②深谷知広
気がつけば今年も、残すところあと1週間ほど。静岡・KEIRINグランプリの「並び」も発表されて、あとは本番を迎えるだけとなりました。ヤンググランプリやガールズグランプリもありますから、ここからの競輪ファンは本当に大忙しですよね。本番前にヘロヘロになってしまいそうですが…いいお正月を迎えるためにも納得がいくまで考えぬいて、そして好結果を手にしたいものです。
そんなさなか、12月22日には長崎県の佐世保競輪場で、九十九島賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。ここには、先週の広島記念を制した松浦悠士選手(98期=広島・34歳)が連戦で登場。さらに、現S級S班の佐藤慎太郎選手(78期=福島・48歳)や深谷知広選手(96期=静岡・34歳)も出場と、メンバーレベルの高いシリーズとなりましたね。それに、地元・長崎勢もかなり強力です。
今年の秋に、自転車競技の世界選手権・男子ケイリンで優勝して金メダリストとなった、山崎賢人選手(111期=長崎・32歳)がエントリー。小倉・競輪祭(GI)ではいい結果を出せませんでしたが、地元記念のここは力が入ります。あとは、昨年の覇者である荒井崇博選手(82期=長崎・46歳)も注目される存在。荒井選手は毎年、しっかり身体をつくって地元記念に臨んできますからね。
まずは初日特選から。ここは、深谷選手が山崎選手を突っ張って先行するも、それを後方からカマシて叩きにいった佐々木悠葵選手(115期=群馬・29歳)が主導権を奪取。佐々木選手の番手を回った坂井洋選手(115期=栃木・30歳)が、絶好の展開をモノにして1着をとりました。最後よく伸びた菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)が2着で、後方に置かれた地元勢は見せ場なく終わっています。
しかし、初日特選の上位勢は、勝ち上がりの過程で次々と脱落します。3日目10レースの準決勝では、初日特選を快勝した坂井選手と、その番手を回った佐藤選手が敗退。注目選手の一人だった山崎選手も6着に終わっています。このレースを後方から力強く捲りきったのが、窓場千加頼選手(100期=京都・33歳)。連係した稲川翔選手(90期=大阪・39歳)とのワンツーを決めて、決勝戦に駒を進めています。
荒井選手は、準決勝で「深谷選手の番手を回る」という地元記念らしい番組もあって、準決勝を1着で勝ち上がり。深谷選手は、二次予選では突っ張り先行から逃げ切ったように、調子は上々のようです。同様にデキのよさが目立ったのは、佐々木選手でしょうか。松浦選手も決勝戦にはキッチリ勝ち上がりましたが、デキについては前場所のほうがよかったように感じました。
決勝戦は、ライン4つのコマ切れ戦に。松浦選手は、地元代表である荒井選手との即席コンビとなりました。松浦選手が前で、番手を荒井選手が回ります。2名が勝ち上がった南関東勢は、深谷選手が先頭で番手に渡邉雅也選手(117期=静岡・23歳)という組み合わせ。同じく2名の関東勢は、佐々木選手が先頭で、これが記念初優出となる末木浩二選手(109期=山梨・33歳)が番手を回ります。
最多となる3名が勝ち上がった近畿勢は、先頭が窓場選手で番手に稲川選手、3番手を村田雅一選手(90期=兵庫・40歳)が固めるという布陣。3車という“数の利”はありますが、車番に恵まれなかったのでここは後ろ攻めとなりそうで、そこからレースをどう組み立てるかという難しさがあります。他の機動型が好調というのもあって、楽なレースはさせてもらえないでしょう。
それでは、決勝戦のレース回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲と同時に、いい飛び出しをみせたのは6番車の渡邉選手。スタートを取って、南関東勢の前受けが決まりました。直後3番手には松浦選手がつけて、5番手に佐々木選手。そして後方7番手に窓場選手というのが、初手の並びです。後方の窓場選手が動いたのは、青板(残り3周)周回のバックからでした。
外から浮上した窓場選手が先頭の深谷選手を抑えにいって、ほぼ横並びで赤板(残り2周)掲示を通過。深谷選手は一瞬は突っ張る気配をみせますが、すぐに引いて近畿勢を前に出します。1センターを回ったところで、今度は松浦選手が前を斬りにいきますが、それをみて佐々木選手もすかさず始動。松浦選手はスッと3番手に下げて、レースが打鐘を迎えるのと同時に、佐々木選手が先頭に立ちました。
窓場選手が5番手、深谷選手が8番手という隊列となって、一列棒状で打鐘後の2センターを通過。そのままの隊列で最終ホームと最終1センターを通過して、バックストレッチに進入します。ここで後続よりも先に仕掛けたのが、3番手にいた松浦選手。前との車間をきって待ち構えていた末木選手がブロックにいきますが、それを乗り越えて、松浦選手が先頭の佐々木選手に迫ります。
これをみて、最終バック手前で今度は窓場選手が捲り始動。素晴らしいダッシュで荒井選手の外へと瞬時に並び、前との差を一気に詰めていきます。時を同じくして後方の深谷選手も仕掛けますが、前とはまだかなり差がある。窓場選手に仕掛けを「合わされた」カタチにもなっているので、果たしてどこまで差を詰められるか。最終バックで、逃げていた佐々木選手の脚が鈍り、前の隊列がギュッと凝縮します。
最終3コーナーでは、内から佐々木選手、松浦選手、窓場選手が横並びで先頭に。しかし、脚色のよさは最後に仕掛けた窓場選手が図抜けています。ここで、松浦選手の番手にいた荒井選手が、ヨコの動きで外の稲川選手をブロック。これを捌いてポジションを奪い、窓場選手の後ろに切り替えます。後方からは、大きく外を回りながら深谷選手がグングン伸びて、先頭集団に迫ってきました。
佐々木選手に続いて松浦選手もここで脚が鈍って、最終2センターでは窓場選手が単独先頭に抜け出します。それを直後から荒井選手が追って、その後ろには村田選手と稲川選手。そして大外から捲ってくるのが深谷選手と渡邉選手という態勢で、400mバンクにしては短い、佐世保の最終直線に入りました。外に出して差しにいった荒井選手が、粘り込みをはかる窓場選手にジリジリと迫ります。
そこから少し離れて村田選手や稲川選手が前を追いますが、大外から捲ってきた深谷選手とマークする渡邉選手が、そこに接近。しかし、前で優勝を争う2車との差は絶望的で、3着争いが精一杯でしょう。前では、荒井選手が窓場選手との差をさらに縮めますが、届きそうで届かない。結局そのまま、窓場選手が最後までリードを守り抜き、先頭でゴールラインを駆け抜けました。
今年ブレイクした窓場選手は、これがうれしいGIII初優勝。意外だと感じるのは、今年の平塚・オールスター競輪(GI)での活躍があまりに印象的だったからでしょうか。同期の古性優作選手(100期=大阪・33歳)とワンツーを決めて、競輪ファンに「近畿に窓場あり!」と知らしめましたからね。11秒3という驚異的な上がりをマークしたように、この決勝戦も非常に強い内容だったと思います。
2着は、昨年の覇者である荒井選手。悔しい結果ではありましたが、稲川選手を捌いてポジションを奪取し、窓場選手にあそこまで迫ったのですから、内容は非常によかった。ブロックを押し返した稲川選手と絡み合っていなければ、ゴール前はもっと際どかったかもしれません。それに今日に関しては、優勝した窓場選手が素晴らしい走りをしたというのもあります。荒井選手、負けて強しでしょう。
3着は、最後よく差を詰めてきた深谷選手。松山記念の決勝戦と同様、後方に置かれる展開となったのが痛かったですね。あとは、最後の直線が短い佐世保バンクもマイナスに働きました。このシリーズでは、前受けからの突っ張り先行など積極的なレースを見せており、デキもよかったはず。それだけに悔いが残る結果だと思いますが、内容はけっして悪くなかったと思いますよ。
優勝した窓場選手については、この決勝戦でみせたような力強い走りを、もっと安定して発揮できるようになってほしいところ。今年の後半戦は病気欠場も多く、それもあってか、デキにかなりバラつきがあったんですよね。古性選手のようなオールラウンダーを目指すならば、デキの悪いときでも「悪いなりに結果を出す」走りが求められてきます。レースの組み立てなどを工夫して、もっと安定感を高めたいですね。
今日の走りで改めて感じましたが、窓場選手は能力的には、ビッグ制覇だって狙えるところまできています。このGIII優勝で自信と弾みをつけて、来年はさらなる飛躍を期待したいですね。「寺崎浩平選手(117期=福井・30歳)よりも先にGIIIを勝てた!」なんて喜んでいる場合じゃないですよ(笑)。目指すべきは、脇本雄太選手(94期=福井・35歳)や古性選手と肩を並べるところでしょう。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。