2024/11/25 (月) 18:00 47
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが小倉競輪場で開催された「競輪祭」を振り返ります。
2024年11月24日(日)小倉12R 第66回朝日新聞社杯 競輪祭(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・34歳)
②脇本雄太(94期=福井・35歳)
③荒井崇博(82期=長崎・46歳)
④寺崎浩平(117期=福井・30歳)
⑤松谷秀幸(96期=神奈川・42歳)
⑥村上博幸(86期=京都・45歳)
⑦犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
⑧菅田壱道(91期=宮城・38歳)
⑨浅井康太(90期=三重・40歳)
【初手・並び】
←⑦①③(混成)⑧⑤(混成)⑨(単騎)④②⑥(近畿)
【結果】
1着 ②脇本雄太
2着 ⑦犬伏湧也
3着 ①松浦悠士
年末の大一番・KEIRINグランプリ出場を目指す戦いも、これが「最後」。11月24日には福岡県の小倉競輪場で、競輪祭(GI)の決勝戦が行われています。6日制のナイター開催で、初日からまさに激闘の連続となったこのシリーズ。S級S班であっても一次予選からのスタートで、初日には脇本雄太選手(94期=福井・35歳)がなんと最下位に終わるという大波乱が発生。このレースでは、3連単31万車券が飛び出しています。
一次予選は「2戦で得た点数による勝ち上がり」で、一発アウトではないとはいえ、いきなり黄信号が灯った脇本選手。しかし、翌日はしっかり1着をとって、なんとか二次予選に駒を進めています。脇本選手は、その二次予選でも後方7番手に置かれるかなり厳しい展開になるも、豪快に捲りきって1着。初日はどうなることかと思われましたが、どうやらデキは上々のようです。
二次予選では、佐藤慎太郎選手(78期=福島・48歳)と山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)が勝ち上がりを逃して、S級S班からの陥落が決定。5日目の準決勝第10レースでは、直前の四日市記念(GIII)を制して勢いに乗る新山響平選手(107期=青森・31歳)が敗退しますが、こちらは決勝戦を前に、獲得賞金によるグランプリ出場を決めています。このレースを制したのは、自力に切り替えて捲った脇本選手でした。
続く準決勝第11レースでは、眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)が敗退。松浦悠士選手(98期=広島・34歳)が犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)とのワンツーを決めて、初日から無傷の4連勝で決勝戦進出を決めました。本当にいいときの松浦選手が、ようやく戻ってきたという印象ですね。昨年のグランプリ覇者として、このシリーズに賭けてきた“気持ち”の強さも感じられました。
そして準決勝第12レースでは、古性優作選手(100期=大阪・33歳)のブロックで深谷知広選手(96期=静岡・34歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)が落車するという、大アクシデントが発生。これによって残念ながら、深谷選手のグランプリ出場への道は閉ざされ、S級S班からの陥落も確定しました。古性選手はレース後に失格となり、当然ながら決勝戦進出を逃しています。
かくして決まった、決勝戦のメンバー。2名が勝ち上がった中四国勢の後ろには荒井崇博選手(82期=長崎・46歳)がついて、西の混成ラインを形成します。先頭を任されたのは犬伏湧也選手で、番手を回るのは完全優勝に王手をかける松浦選手です。近畿勢は、寺崎浩平選手(117期=福井・30歳)が先頭で、番手が脇本選手。3番手を村上博幸選手(86期=京都・45歳)が固めるという布陣となりました。
菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)の後ろには松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)がついて、初連係の即席コンビで勝負。浅井康太選手(90期=三重・40歳)は唯一、単騎での勝負を選択しました。寺崎選手と犬伏選手による熾烈な主導権争いとなりそうで、実質は二分戦のようなもの。そして、主導権を奪ったラインの番手に展開が向くというのも、レース前から読めるメンバー構成です。
それでは、決勝戦のレース回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは3番車の荒井選手と8番車の菅田選手。ここは中団が欲しい菅田選手がバックを踏んで、荒井選手がスタートを取ります。これで、西の混成ラインが前受けに。菅田選手はその直後4番手につけて、単騎の浅井選手が6番手。そして近畿勢が7番手からの後ろ攻めというのが、初手の並びです。
レースが動き出したのは、青板(残り3周)周回の2コーナーから。後方の近畿勢が位置を上げていって、先頭の犬伏選手を外から抑えるカタチで併走。先頭誘導員が残る状況での「出方の探り合い」となりますが、2センターで後方の浅井選手が空いてる内をすくって、荒井選手の後ろまで位置を上げます。そして赤板(残り2周)掲示の手前から、少し下げていた寺崎選手が、前を斬りに動きます。
犬伏選手も突っ張りますが、寺崎選手が内に切り込みながら犬伏選手の前に出て、赤板を通過。近畿3車が前に出切って1センターを回り、犬伏選手は4番手でバックストレッチに入りました。犬伏選手は打鐘前から前に踏み込み近畿勢との差を詰めますが、先頭の寺崎選手もスピードを上げて応戦。ここでレースは打鐘を迎え、一列棒状で2センターを回って、最終ホームに帰ってきます。
犬伏選手は、ここから反撃開始。一気の加速で先頭の寺崎選手に迫りますが、脇本選手の外に並びかけたところで、すかさず脇本選手が番手から発進して、早々と先頭に立ちました。しかし、最終1センターを回ったところで、村上選手が脇本選手の加速についていけず、前と口があいてしまいました。同じく松浦選手も、脇本選手に食らいつこうと加速する犬伏選手に、車間をあけずについていけません。
その結果、脇本選手の番手に犬伏選手がハマり、少し離れて村上選手と松浦選手が並ぶという隊列に。必死にリカバリーしようとする松浦選手と村上選手の後ろに、単騎の浅井選手が外から忍び寄っています。荒井選手が村上選手の後ろ、浅井選手が松浦選手の後ろという隊列に変わり、展開についていけず置かれた菅田選手と松谷選手は、最終バックでも後方のままです。
松浦選手や村上選手は前との差を詰めようと必死に追いすがりますが、抜け出している脇本選手と犬伏選手との差がなかなか詰まらない。最終2センターでは、外の松浦選手が村上選手の前に出て、単独3番手に浮上します。その後ろには浅井選手と菅田選手が続きますが、前との差は絶望的なほど。松浦選手も前との差をなかなか詰められないままで、最後の直線に入りました。
もうこの時点で、優勝は脇本選手か犬伏選手のどちらか。犬伏選手が少し外に出して差しにいこうとしますが、脇本選手との差はまったく詰められません。そこから大きく離れて、松浦選手と浅井選手の3着争い。その後ろには、内から抜けてきた荒井選手や外を回った菅田選手がいますが、伸びてくる様子はなし。結局、寺崎選手の番手から捲った脇本選手が、他の選手を寄せ付けないまま先頭でゴールを駆け抜けました。
犬伏選手が2着で、離れた3着に松浦選手。4着に浅井選手、5着に荒井選手という結果で、菅田選手は何もできないまま6着に終わっています。最終ホーム過ぎに先頭に立った選手が、最速タイの10秒9で上がっているのですから、後続が差を詰められないのは当然ですよね。脇本選手は、2022年の西武園・オールスター競輪(GI)以来となるビッグ優勝。これは近畿勢にとって、じつに59年ぶりとなる競輪祭優勝でもあります。
競輪祭のタイトル獲得によって、KEIRINグランプリ出場と来年のS級S班を決めた脇本選手。これで、グランドスラム達成にも一歩前進ですね。赤板過ぎの攻防で、寺崎選手が前に出切ってくれたのが大きかったとはいえ、番手捲りで先頭に立ってからのスピードは、やはり圧巻。持ち味である“速さ”をフルに生かせる小倉バンクという舞台で、近畿勢が勝てないジンクスも跳ね返す、本当に力強い走りをみせてくれました。
2着の犬伏選手は、仕掛けをもうワンテンポ早くするか遅くしていれば、また違った結果になっていたかもしれません。打鐘では寺崎選手に合わされ、最終ホームでも脇本選手に合わされていますからね。カマシ捲りでいちばん力を発揮できる選手なのに、そのカタチに持っていくことができなかった。犬伏選手自身がレース後にコメントしていたように、大胆に攻めきれなかった面があったと思います。
悔しい結果に終わったのが松浦選手で、これでS級S班からは陥落。とはいえ、決勝戦のゴール前でも浅井選手に抜かれていないように、デキは本当によかったですよ。厳しい時期をようやく乗り越え、特別競輪でトップクラスが相手でも戦えるだけの状態を取り戻した。ここから先は気持ちを切り替えて、改めて前進あるのみでしょう。多くのファンが、来年のS級S班復帰を心待ちにしていますからね。
存在感をまったく発揮できずに終わった菅田選手については、このレースで好走する上での必要条件だった「中団でうまく立ち回る」ことを、もっと徹底すべきだったでしょうね。機動力で勝る犬伏選手や寺崎選手が相手のここでは、なにがなんでも中団を取り続けるくらいの意識でいなければ太刀打ちできない。その意識が足りず、後手に回ってしまった今回の結果を反省して、次に生かしてほしいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。
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