2024/11/20 (水) 18:00 5
netkeirinをご覧の皆さんこんにちは、金子貴志です。今回は、4か月走って感じたS級とA級の競走の違いと弥彦で久しぶりに1着を取ったこと、そしてメダルラッシュに沸いた世界選手権について書いていきたいと思います。
その前に、GI「寛仁親王牌」を制し大会連覇を成し遂げた古性優作君、本当におめでとうございます。展開関係なしにどんな位置からでもコースを作って踏み勝つ古性君は本当に凄い。まさに完成された選手です。
聞いたところによると、ダブルグランドスラムを目標に掲げているとか。前人未踏の目標に向かって自分を震い立たせるところを私も見習って、高い目標を忘れないようにしたいです。古性君ならきっと達成できると思います。
余談ですが、古性君はメールの返信もすごく早いです。GIを優勝した直後は取材などで忙しいなか、お祝いのメールを送るとすぐに返事をくれていつも驚いています。メールも華麗に捌いているのか… まさに“超人”なのかもしれません(笑)。
では、S級とA級の違いについて書いていきます。7月からA級を走り、4か月経ちました。ここまで戦ってみて、思っていたより戦えていると感じています。それまでは正直、全然レースになっていなかったですし、「A級は甘くない」と選手たちにも聞いていました。
S級との一番の違いは、もがく距離が短いことです。S級はスローにならず、赤板からずっとスピード上がった状態でレースが進むことが多いです。少しの躊躇や頭で考えてしまうと反応が遅れてしまうので、体が反応する状態を作らなければなりません。しかしA級の場合は、いったんスローに落ちるレースが多いので、体力も温存でき展開をよく見極めて走ることができています。
7車と9車の違いも大きいです。S級だとGIII以上は9車ですが、A級だとすべてのレースが7車立てが基本です。9車だと3・3・3の3分戦やコマ切れのレースが多いため出入りが激しくなりますが、7車は比較的単調で、スタートを取ったラインがそのまま突っ張って先行するケースが多いです。出入りが少ないレースは先行選手の消耗も少なく、一本棒の状態で4コーナーを迎えると後方に置かれたラインは苦しくなってしまいます。
それにS級はA級に比べてハイスピードかつ航続距離も長いため、体に負担がかかり回復までに時間がかかっていました。S級では苦戦が続いていましたが、今はA級戦では戦える状態にあると感じています。そうなるとレースが面白く、勝ちたい欲も増してきました。
11月の弥彦初日予選では、ここのところずっと取れていなかった1着を取ることができました。振り返ってみると、2023年4月の福井が最後の1着だったようなので、1年半以上ぶりです。
前の選手を抜くということがなかなかできず、A級でも決勝には乗れても1着を取るのは難しいと感じていました。そのレースでは前を任せた豊橋の後輩、岩城佑典君が頑張ってくれて、その気持ちがとても嬉しかったです。
決勝に進めれば一番よかったのですが、最終日は特選を走り、ここでも1着を取ることができました。連係した兵庫の藤田真君は、地区が違うのに赤板から突っ張って、いつもより長い距離を駆けてくれました。
上がりタイムは良くなかったですが、良いタイムだけではないのが競輪。先行選手の思いとそれに報いたい追い込み屋の気持ちが重なる、競輪らしいレースができたのではないかと思います。1着もうれしいですが、一緒に戦った選手の気持ちに、一層ありがたさを感じた開催でした。弥彦には『走植動物部』の松岡健介君もいて、検車場で倒れ込んでいた同県の藤田君に「いいレースだったよ」と声をかけていました。
若いころ、私は先行にこだわっていて「同じ自力型には負けたくない」というのが原動力でした。それだけこだわってきた自力を捨てて、追い込みに転向するときには葛藤もありました。最終的には「生き残っていくためにはこれしかない」と、決断しました。先行も大事ですが追い込み屋も大切な役割だというのは、それまでの経験でよくわかっていました。ずっと先行出来たらよかったという気持ちもありましたが、私は戦って勝つための手段を変えました。
先日、開催中に部屋でレースダイジェストを見ていたら、同級生の宮崎一彰君が新人選手相手に捲りを打っていました。宮崎君は道中その新人選手のラインの3番手にいましたが、溜めて4コーナー勝負をするのではなく捲りにいって、力勝負を挑んだのです。それを見て「こういう姿勢を忘れてはいけない」と思い、その勇気に胸が熱くなりました。レースで選手の気概や魅力が伝わるのも競輪らしい部分だと思います。
還暦レーサーのひとりである宮倉勇さんもいつも元気いっぱいで「痛いところはまったくないよ」と言っていました。ただ、競走前後は遠くまで体のケアに行っているのだそうです。宮倉さんは60歳を迎えた今もなお気持ちが燃えている方で、話をしてモチベーションが上がりました。長く続けている人は、気持ちの切り替えが上手な方が多い気がします。
長く成績は低迷しましたが、当たり前によい着がとれていたときはわからなかったことをたくさん感じられるようになりました。先日の1着もそうですが、「お客さんに貢献できた」という喜びは、今の私にとって力の源になっています。
先日次期級班が発表され、来年1月からもA級です。最初は「S級点を取らなければ」と思いすぎて、守りに入ってしまった部分がありました。序盤に決勝進出できていたことで気負う部分もあったかもしれません。
今はいい意味で吹っ切れていて、もちろんS級に戻ることも大事ですが「今できる最善を尽くすこと」を大切にしています。「離れないで追走できた」「セッティングを変えて良かった」など、どんな小さな収穫でも大切にして、前回より何かよくなるように、と取り組めています。若い選手に負けないように、そしてS級に復帰できるよう頑張りたいと思います。
最後になりましたが、世界選手権では男子ケイリンで山崎賢人君が37年ぶりに金メダルを獲得しました。女子ケイリンでも佐藤水菜さんが史上初の金。そしてスクラッチでは窪木一茂君が金。男子チームスプリントは長迫吉拓君、太田海也君、小原佑太君が銅。太田君はスプリントでも銅メダルを獲得しました。
トータル6個のメダル、その内3個が金は快挙です。私自身、ずっと自転車競技をしていたので、この結果は自分のことのように嬉しく思います。
パリ五輪にも出場した長迫君は『走植動物部』の鉢を作ってくれたこともあり、メダルを獲得したらアガベをプレゼントする約束をしていました。機会を見つけて渡したいと思います。
今回の快挙はテレビのニュースでも放送がされていたようです。世界選手権で結果を残すことで競輪を知らない人の耳にも届き、少しでも興味を持ってもらえたらいいですね。新しいファン獲得につながると思うので、世界でチャレンジを続ける選手たちには敬意を表したいです。
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Kaneko Takashi
愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。