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山田裕仁のスゴいレース回顧

【長良川鵜飼カップ 回顧】“格”の違いをみせたS級S班の両者

2024/09/25 (水) 18:00 16

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが岐阜競輪場で開催された「長良川鵜飼カップ」を振り返ります。

長良川鵜飼カップを制した松浦悠士(写真提供:チャリ・ロト)

2024年9月24日(火)岐阜12R 開設75周年記念 長良川鵜飼カップ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松浦悠士(98期=広島・33歳)
②深谷知広(96期=静岡・34歳)
③三谷将太(92期=奈良・38歳)
④青野将大(117期=神奈川・30歳)
⑤阿竹智史(90期=徳島・42歳)
⑥村田祐樹(121期=富山・26歳)
⑦坂井洋(115期=栃木・29歳)
⑧笠松信幸(84期=愛知・45歳)
⑨小原太樹(95期=神奈川・36歳)

【初手・並び】

←④⑨(南関東)⑥⑧(中部)①⑤(中四国)②③(混成)⑦(単騎)

【結果】
1着 ①松浦悠士
2着 ②深谷知広
3着 ⑥村田祐樹

地元・山口拳矢は欠場、松浦悠士は初日にあわや落車の危機

 ようやく秋の気配が感じられるようになった9月下旬。9月24日には岐阜競輪場で、長良川鵜飼カップ(GIII)の決勝戦が行われています。地元代表である山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)は残念ながら病気欠場となり、S級S班からは深谷知広選手(96期=静岡・34歳)と松浦悠士選手(98期=広島・33歳)の2名が出場。次期でのS級S班復帰を決めている平原康多選手(87期=埼玉・42歳)も、注目された選手の一人でしょう。

 負傷欠場明けだった宇都宮・共同通信社杯競輪(GII)では、やはりデキがともなわず、いい結果を出せていなかった松浦選手。それだけに、単騎となった初日特選で、どのような走りができるのかと注目されました。ここは、瓜生崇智選手(109期=熊本・29歳)のブロックで前が一気に開けたところを、深谷選手が中団から捲って快勝。番手マークの小原太樹選手(95期=神奈川・36歳)とのワンツーを決めています。

 松浦選手は、後方から捲った坂井洋選手(115期=栃木・29歳)の番手を捌いてポジションを確保するも、レース後に失格となった瓜生選手による「押し上げ」のあおりを受け、さらに勝負どころでは菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)に内から張られて自転車が故障し、8着という結果に終わりました。とはいえ、落車してもおかしくないところを堪えて完走できたのは、現在のコンディションを考えると本当に大きかったはずですよ。

深谷知広(写真提供:チャリ・ロト)

 このシリーズに絶好調モードで臨んできたのが、新鋭・村田祐樹選手(121期=富山・26歳)。中部勢3車の先頭を任された準決勝では後方7番手に置かれ、最終ホームからの仕掛けで後続が離れるも、そのまま単騎で捲りきって1着をとっています。豪快な走りで記念初優出を決めたことで、一気に周囲の選手からも注目されたでしょうね。決勝戦でも、意外性を秘める「伏兵」と目される存在になったといえます。

村田祐樹(写真提供:チャリ・ロト)

 深谷選手は、二次予選2着、準決勝1着という危なげない内容で決勝戦に進出。松浦選手も、準決勝では接触した山口泰生選手(89期=岐阜・42歳)が落車というヒヤッとするシーンがありつつも、勝ち上がってきました。決勝戦は、ラインが4つに単騎が1名というコマ切れ戦に。動きのある展開になりそうで、どこが主導権を奪うのかも読みづらいですから、車券的にはかなり難しいレースになりましたよね。

 松浦選手は、決勝戦ではライン先頭で自力勝負。番手には阿竹智史選手(90期=徳島・42歳)がつきました。3名が勝ち上がった南関東勢は、深谷選手と神奈川勢が別線での勝負を選択。深谷選手の後ろには、中部・近畿での連携を選択しなかった三谷将太選手(92期=奈良・38歳)がつきます。師弟コンビとなった神奈川勢は、青野将大選手(117期=神奈川・30歳)が前で、小原太樹選手(95期=神奈川・36歳)が番手です。

阿竹智史(写真提供:チャリ・ロト)

 準地元である中部勢は、先頭を任されたのが村田選手で、番手が笠松信幸選手(84期=愛知・45歳)という組み合わせ。相手関係は一気に強化されますが、村田選手はそれに臆することなく、積極的な走りで存在感を発揮してもらいたいものです。そして、唯一の単騎が坂井選手。勝ち上がったとはいえ、デキがいいという印象はないだけに、ここは立ち回りの巧さが問われてきそうですね。

青野-小原の神奈川コンビが前受け

 ではそろそろ、決勝戦の回顧に入りましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時にいい飛び出しをみせたのは、8番車の笠松選手と9番車の小原選手。内の笠松選手がスタートを取ることもできましたが、ここは小原選手に譲って、神奈川勢の前受けが決まります。村田選手が3番手に入り、松浦選手は5番手から。深谷選手が後方7番手で、最後尾に単騎の坂井選手というのが、初手の並びです。

 後方の深谷選手が動いたのは、青板周回(残り3周)のバックから。単騎の坂井選手も連動して、2センターでは3車で村田選手の外まで進出します。

青板2センター。深谷(黒)、単騎の坂井(橙)らが上昇(写真提供:チャリ・ロト)

 5番手にいた松浦選手は空いていた最内をすくって、村田選手のインに入り込み3コーナーを通過。一団がギュッと密集したカタチで、青野選手が先頭のままで赤板(残り2周)を迎えます。誘導員が離れたところで、青野選手は前に踏み込み、先頭を主張しました。

青野(青)の先頭で赤板を通過(写真提供:チャリ・ロト)

 深谷選手は前を斬りにはいかず、自転車を下げて後方に。赤板を最内で回った松浦選手が3番手に浮上し、村田選手は5番手と、中団のポジションが入れ替わって打鐘前のバックストレッチに入ります。深谷選手がポジションを下げていく過程で、坂井選手はスッと動いて中部勢の後ろに切り替えて、深谷選手が後方8番手まで下げきったところでレースは打鐘を迎えました。

 打鐘を迎えたとはいえ、先頭の青野選手はペースをまだ上げきっていない状況。ここで、主導権を奪うべく果敢にカマしたのが、5番手の村田選手でした。

打鐘過ぎ2センター。5番手にいた村田(緑)が打鐘からカマす(写真提供:チャリ・ロト)

121期・村田が打鐘でカマし爆走! 中部の若手が大金星か

 先頭の青野選手も全力モードにシフトしてこれに対抗しますが、村田選手は打鐘後の4コーナーを回ってから、グンと加速。最終ホームに帰ってきたところで先頭に立ちますが、番手の笠松選手がこの猛ダッシュについていけず、連係を外して離れてしまいます。

村田(緑)が先頭で最終ホームを通過。番手の笠松(桃)は離れる(写真提供:チャリ・ロト)

 単騎先頭となった村田選手は、その後もスピードを緩めず、最終2コーナーを回ったところで大きなリードを確保。2番手となった青野選手は必死に前を追いすがりますが、その差は詰まるどころか広がっています。ここで後方の深谷選手が仕掛けますが、これにタイミングを合わせて捲りにいったのが、4番手の松浦選手。いい加速で前との差を詰めますが、番手の阿竹選手は松浦選手のダッシュについていけません。

最終バック。松浦(白)が4番手から独走する村田を追う(写真提供:チャリ・ロト)

 単騎捲りとなった松浦選手ですが、最終3コーナーでは前の青野選手を捉えて2番手に浮上。しかし、先頭の村田選手とはまだかなりの距離があります。後方から猛追する深谷選手は、ここで5番手まで浮上し、最終2センターでは青野選手と小原選手を外から捉えて3番手に。さすがのタテ脚ですが、それをもってしても先頭の村田選手にどこまで迫れるかという状況。村田選手のリードは、まだ5車身以上あったでしょう。

 誰もが「これは村田選手の大金星か」と思ったであろう、最終4コーナー。しかし、ここで村田選手の脚色がさすがに鈍りだしたのか、松浦選手や深谷選手との差が一気に詰まります。松浦選手の後ろには小原選手が切り替えて、深谷選手の後ろは三谷選手がぴったり追走という態勢で、向かい風が吹く最後の直線へ。村田選手のリードはこの時点で、2車身ほどにまで縮まっています。

 先頭の村田選手が死力を振り絞って粘るところに、ジリジリとではありますが着実に差を詰めていく松浦選手。その外からは、深谷選手と三谷選手がいい脚で伸びてきます。30m線でも村田選手がまだ先頭で踏ん張っており、これは最後まで粘りきるか…と思ったところに、松浦選手が最後のひと伸びで外に並び、そしてハッキリと前に出て、先頭でゴールラインを駆け抜けました。

好相性のバンクで示したS班・松浦の底力

 レース後には、「考えていた中では一番遅いタイミングの仕掛けになった」とコメントしていた松浦選手。村田選手が築いたリードの大きさを考えると、確かにギリギリ間に合ったという仕掛けでしたよね。それでも、深谷選手の捲りを待ってキッチリ合わせて、前に出させずゴールしているあたりは、さすがのひと言。状態面も、けっして満足のいくものではなかったと思いますが、底力をみせましたね。

 それに今回の松浦選手は、初日特選で落車をまぬがれたことなど、“運”にも恵まれていたように感じました。そういった意味でも、2022年の優勝者でもある松浦選手は、岐阜バンクと相性がいいですよね。3月の玉野以来となる今年2回目のGIII優勝ですが、獲得賞金でのグランプリ出場はかなり厳しい状況だけに、さらに状態を上げてのタイトル奪取を期待したいですね。

 2着は、最後方から捲った深谷選手。獲得賞金ランキングを考えると優勝がほしかったとは思いますが、最後方に置かれる最悪の展開からあそこまでくるのですから、そのタテ足はやはり尋常ではない。松浦選手と同様、S級S班としての力を示しましたね。調子もけっして悪くはなかったと思うので、次に出走予定の熊本記念や弥彦・寛仁親王牌(GI)に向けて、デキのさらなる上積みを狙って調整していきたいところです。

 三谷選手との大接戦を制して、3着には村田選手が粘りきりました。私も最終3コーナーでは「これは初優出で初優勝か」と思いましたし、村田選手本人もレース後に「夢を見た」とコメントしていましたが、優勝を意識したことがマイナスに出た面があったかもしれません。あとは岐阜バンクらしく、風の影響も大きかったでしょうね。それでも大健闘には違いなく、この結果は大きな自信につながるはずですよ。

 神奈川コンビや単騎の坂井選手も、頑張っていたとは思いますが、ここは力及ばずという結果に。かなりの混戦模様だったにもかかわらず、終わってみれば「S級S班のワンツー決着」という結果で、やはり“格”というものはあるな…と改めて実感した次第です。中部地区を応援する者としては村田選手の力走はうれしいかぎりで、この調子でさらに力をつけて、地区を支えるような存在に成長してほしいですね。

 ただ、地区というのは先行選手とその後ろを回る選手の「両方」が充実せねば、強くはならないもの。そして現在の中部は、残念ながらその両方が欠けているんですよね。山口拳矢選手がひとり気を吐くような状況から脱却するためにも、村田選手にかかる期待は本当に大きいですよ。あとは、五輪代表だった太田海也選手(121期=岡山・25歳)や中野慎詞選手(121期=岩手・25歳)「以外」の121期が、このクラスで戦えるようになってきているというのも大きな喜びでした。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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