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すっぴんガールズに恋しました!

【大久保花梨】産休から復帰後すでに3V! たくましさ増し帰ってきた26歳の目標は「子育てと両立してグランプリ出場」

アプリ限定 2024/09/27 (金) 12:00 33

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。今回は8月に産休から復帰し、即優勝を挙げ話題となった大久保花梨選手(26歳・福岡=112期)。デビュー時から期待を集めトップレーサーとして活躍したが、23年4月から長期欠場。8月に産休を経て復帰し、いきなり優勝するとここまで4開催で3Vを挙げている。若き“ママさんレーサー”が目指す先は…。

スポーツ少女とガールズケイリンの出会い

 大久保花梨は佐賀県鳥栖市の出身。両親は警察官で柔道を教えていたといい、柔道場が幼少期の遊び場だった。大久保自身も4歳から柔道を習い始めたが「イヤだな、辞めたいな」というのが本音だったそうだ。

1歳ですでに柔道着に身を包んでいた(本人提供)

 中学生になると5歳下の弟が始めていたラグビーに興味を持ち、女子ラグビーで汗を流した。そして高校進学を控えている中学3年生のとき、思わぬところでガールズケイリンとの出会いがあった。

「母が整骨院をやっていて、その整骨院に(小林)優香さんのおばあちゃんが来たんです。優香さんが競輪学校に入る前のタイミングだったみたい。優香さんのおばあちゃんが母にガールズケイリンを勧めてくれて、両親が私に『ガールズケイリンやってみない?』と」

自転車競技の名門で頭角現す

 高校は鳥栖市の隣、福岡県久留米市にある私立祐誠高校に進学した。競輪選手を大勢輩出しており、GIタイトルホルダーの加倉正義(68期)や今年のパリ五輪にも今村駿介、内野艶和(120期)、池田瑞紀の3人が出場している自転車競技の名門高だ。

 柔道、ラグビーで鍛えた身体能力は自転車競技でもすぐに発揮された。高校1年生のインターハイは中距離種目でエントリー。スクラッチに出場したときに人生初の落車を経験するが、臆せずその後は短距離種目に転向しメキメキと力をつけ、ジュニアの日本代表に選ばれるまで成長した。

「周りの環境がよかったです。強い部活で練習環境がよかったし、女子も1人じゃなかったので、やりやすかった。ジュニアのナショナルチームに呼ばれたこともうれしかった。(鈴木)奈央さんとはその頃からの縁で今でも仲良くさせてもらっています」

自転車競技の名門・祐誠高校で活躍(本人提供)

 高校卒業後、すぐにプロを目指すのか。大学進学を考える同級生もいるなか、大久保自身も心が揺れていた。プロ志望の決め手は小林優香の存在だった。

「自分が自転車を始めるきっかけになった優香さんがプロの競輪選手として活躍していて、格好良かった。高校生のころから藤田剣次さんには練習のアドバイスをもらっていたので、(同門の児玉)碧衣さんの存在も大きかったです。あとは賞金も魅力的でした。ジュニアのチームメイトだった奈央さんが110期で競輪学校に入っているのも知っていたし、自分も挑戦してみようと決断しました」

 112期の日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)受験を決めると、技能による1次試験は問題なく突破。勉強嫌いだった大久保の課題は2次試験だったが、こちらもなんとかクリア。現役での競輪学校入学を決めた。

エリート揃いの112期で在校1位

 112期は個性派揃いで、上位で活躍している選手の多い期だ。

「112期はみんな強かった。自分は周りの人や練習環境に恵まれる人生なんです。柔道もラグビーも祐誠高校自転車競技部も全国大会まで行った。プロを目指して藤田剣次さんにお世話になることになり、同門には強い先輩がいっぱいいた。112期も強い選手ばかりだったので、自分を高めてくれました」

 自転車競技で実力を有していた大久保でも、競輪学校での訓練は厳しかったという。

「毎日の練習がキツすぎて、学校時代は1回も日曜日の外出はしなかったんです。梅川風子、太田りゆ、吉村早耶香とよく追い込んで練習していました。だから週に1回だけの休みは休養したかったんです。毎週日曜日は漫画を読んでゆっくりしていました」

同期の太田りゆ、坂口楓華、太田美穂、吉村早耶香と(本人提供)

 大久保は112期の在校成績1位。卒業記念レースは1、1、1着で決勝進出するも、決勝は梅川風子の先行をまくることができず4着で終わった。

 同門の小林優香、児玉碧衣、林真奈美が勝つことのできなかった卒業記念レースを大久保も勝つことはできなかった。

「在校1位はたまたまですよ。太田りゆと梅川風子の2人はHPD教場に呼ばれていたので、競走訓練の出走回数が少ないから。卒業記念レースは勝ちたかったけど、梅川さんが強かったのも覚えています」

注目集めたデビュー戦は決勝で失格

プロデビューは2017年7月松戸。在校1位のデビュー戦ということで注目を集めたが、決勝戦の失格でほろ苦いスタートとなってしまった。

デビュー戦の松戸にて

「松戸はボロボロでしたね。デビュー1走目は自分のレースをさせてもらえなかった。先輩たちのレースのうまさにびっくりしました。2走目でなんとか2着に入って決勝には乗れたけど、決勝でいきなり落車。それもスタートしてすぐの1センターで(小林)莉子さんの後輪に接触して落車で過失失格でした。(尾崎)睦さんが自分に乗り上げて落車してしまい、本当に申し訳なかった。体は大丈夫だったけど、気持ちは相当落ち込みました。その日、同期の梅川風子が松戸まで迎えに来て、家に泊めてくれたんです。励ましてもらったおかげでメンタルは回復しました」

 先輩との力の差を感じたデビュー戦、次の地元久留米でも1着を取ることができなかった。どうなることかと思ったが、3場所目の8月高松でようやく初白星。7場所目の9月福井では初優勝。レースのリズムに慣れていくと、きっちり好結果がついてきた。

「高松の初1着、福井の初優勝は両方ともホッとしたって感じでした。どうしても久留米で藤田剣次さんの弟子ってことで、優香さんや碧衣さんと比較される。取材されるときも姉弟子たちのことを言われることが多かった。久留米で選手になった宿命ですけど、デビューした当時はプレッシャーできつかった。久留米のガールズケイリン選手は『グランプリに出て一人前』って雰囲気がありますから」

“ガールズケイリン王国”久留米の選手たち(本人提供)

 デビュー1年目は4回の優勝。プレッシャーを感じながらも「久留米期待の新人レーサー」として上々の滑り出しを決めた。

携帯電話預け忘れであっせん停止処分に

 2年目は正月の京王閣でいきなり3連勝の完全V。1月後半のガールズケイリンコレクショントライアルでも決勝2着に入り、5月に平塚で開催されるガールズケイリンコレクションの出場権を自分の力でつかみとった。飛躍の2年目をダッシュよくスタートさせたが、大きな落とし穴があった。

 3月の久留米に参加した際に携帯電話を選手管理に預け忘れ、管理秩序違反で契約解除。即日帰郷となってしまう。通信会社と契約していない端末であったものの、過失を問われ実質3か月のあっせん停止処分を受けた。

「うっかりしていました…。いろんな人に迷惑を掛けてしまった。落ち込みました」

 過ちの代償は大きく、自分の手でつかんだビッグレース挑戦の権利も失った。3か月の長い欠場期間で気持ちを整理し、反省を胸に練習に打ち込んだ。

復帰後は1着量産 大舞台でも結果残す

 6月の戦列復帰以降は走れることへの感謝を噛みしめてレースに臨んだ。

 信頼を取り戻すべく、力を出し切る競走で1着を量産。コンスタントに決勝に進出し、7月奈良、8月川崎で優勝とファンの車券に貢献した。11月には小倉で行われたグランプリトライアルにも出走し、バンクできっちり結果を出していった。

 3年目は普通開催で優勝を重ねるもビッグレースではなかなか結果が出ず、壁にぶつかった。大久保はさらなる上積みを求めて練習環境の変化を求めた。

「梅ちゃん(遥山夕貴・108期)が福井から福岡に移籍して飲む機会が多かった。飲みの席で田中誠さんと話す機会があって『一緒に練習するか』って声を掛けてもらいました。街道やバンクでいままでと違う練習をすることで刺激が入りました。そのおかげで成績が良くなったと思います」

 4年目の2020年は1月にガールズケイリンコレクショントライアルで3着に入り、本番のコレクション出場権を獲得(5月静岡で実施予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止に。9月伊東で改めて実施された)。8月にはファン投票で選ばれるアルテミス賞に初選出(3着)。9月伊東のコレクションでも3着と大舞台でも結果を残した。

結婚、妊娠…「選手を辞める選択肢はなかった」

 以降もトップレーサーのひとりとして、毎年コンスタントに優勝を積み重ねていったが、2023年4月の伊東開催後に大きな変化を迎えた。

「2020年の9月に一般の方と結婚しました。子どもは欲しいと思っていたけど、選手として頑張っていきたい気持ちもあった。伊東の開催後に妊娠していることが分かったんです。子どもは授かりもの。ガールズケイリンの選手も加瀬(加奈子)さんを筆頭にママさんレーサーが多くなっていたし、自分も子どもを産んで育てながら選手を続けようと。だから妊娠が分かったときも選手を辞めるって選択肢は1ミリもなかったです」

 2024年1月11日、無事に愛娘が誕生した。

「1が3つ並ぶ日に生まれてきてくれるなんて可愛いですよね。わが子がこんなに可愛いなんて。今は子ども中心の生活になっています」

1月に誕生した愛娘。すっかりママの顔に(本人提供)

師匠からのお墨付きで思いがけず早い復帰に

 ガールズケイリンは現在、出産後1年の産休期間が設けられている。大久保は産後すぐに復帰に向けて動き出した。

「妊娠しているときは全く自転車に乗らない生活だった。いままで筋肉だったお肉が全部脂肪になったから大変でした。めちゃくちゃ太ってしまって産後も痩せる気配が全くなくて…。最初は『復帰するまでに痩せないと』って感じで自転車に乗り始めました」

 まずはアスリートの体に戻すことを目的に練習を始めた。産休の1年をトレーニングに充てるつもりだったが、師匠の目にはすでに十分レースを走れる力があると映ったようだ。

「(藤田)剣次さんから『花梨、もうレースに復帰できるだろう』って言われて。最初は2025年の1月から復帰するつもりで計画していたんだけど、周りの人からも『もう行ける』と言われてちょっと驚きました」

 産休中の4月には地元久留米でGI「オールガールズクラシック」が開催された。晴れ舞台での姉弟子・児玉碧衣の活躍にも心を動かされたという。

「オールガールズクラシックも大きかったです。碧衣さんが3連勝で完全優勝。プレッシャーのかかるレースで結果を出して『スゲー!』って。私は選手会ブースでお手伝いをしていて、同期とも久しぶりに会うことができた。いろんな刺激をもらった開催でした。そのおかげで『早く復帰したい』って思いは強くなりました」

 7月にレース復帰に向けた走行能力調査を行い、JKAからゴーサインをもらうと、8月の武雄からガールズケイリンの舞台へ復帰した。

復帰戦でいきなり優勝「本当に変わりました」

 復帰戦は2、1、1着といきなり優勝し、ファンを驚かせた。

「緊張するかなと思ったけど、復帰戦は思ったより落ち着いていました。まだ誰も復帰直後の自分に期待していないだろうというのもあって思いきったレースができたのかもしれませんね」

復帰後2戦目の熊本にて。復帰戦Vは自身も驚いたそう

 まぐれではない。続く2場所目の熊本でも3、2、2着で準優勝、3場所目の久留米と4場所目の佐世保では3、1、1着で優勝。ママさんレーサー・大久保花梨として好成績を収め続けている。しかも地元久留米での優勝はデビュー以来初優勝というおまけ付きだ。

「子どもを産む前とレースに向かう心境は変わりました。以前は、とにかく自分の成績を良くしたい一心で走っていたけど、今は子どものために走っている。言い方が難しいけど、子どものもとへ無事に帰ることが大切になりました。前は開催が終わったあとは飲みに行ってたけど、今は子どもの顔が早く見たいのですぐ帰ります。本当に変わりましたよ」

目標は「子育てと両立してグランプリ出場」

 大久保の産休期間中の2023年から、ガールズケイリンにはGIレースが新設された。ならば今後の目標も明確だ。

「まずGIレースに出たい。23年6月のパールカップは出場権があったけど産休で出られなかったので」

 ママになってなお強さを見せる大久保。産休前の自身が残した成果より、さらに大きな夢を掲げる。

「やっぱりグランプリに出てみたい。ガールズケイリン選手と子育ての両立で結果を出したいです」

産休中も刺激を受けた姉弟子・児玉碧衣(左)とは仲良し

 競輪選手と子育ての両立は、ただでさえ簡単なことではない。トップレーサーとして活躍し続けるため、特に意識するのは時間の使い方だ。

「今は1本集中の練習。練習のやり方は変わりました。昔は余計な時間もあったし、こなすだけの練習もあった気がします。今は時間がとにかく大事なので」

 ガールズケイリンで結果を残すことは、支えてくれる家族への恩返しでもある。そして、“ママさんレーサー”の道を切り拓いてくれた先輩への感謝と、それを後輩へとつないでいく意味も持つ。

「旦那や両親が協力してくれるから今の選手生活を続けることができます。良い成績を残して恩返しがしたいですね。娘が大きくなって、自分のやっている職業がわかるまでは頑張りたい。格好いいところ見せたいじゃないですか。あとは自分が加瀬さんを見てすごいと思ったのと同じように、後輩が見てすごいと思うママさんレーサーでありたいですね」

母になってたくましさは増し、勝負強さ光る

 愛娘が大きくなり、ガールズケイリンで活躍する母の姿を見たら「競輪選手になりたい」と言うのではないだろうか? 聞くと大久保は「ガールズケイリンはいいです(笑)。ボートレーサーがいいかな」とおどける。

 産休前からもちろん大久保花梨は強かったが、母になって復帰した大久保花梨はさらにたくましくなっている。集中力が増しているのか、以前より勝負強さが際立っている印象だ。

 産休期間を挟んでグランプリに出場した前例はまだないが、今後のガールズケイリンの発展のためにも、ママさんレーサー・大久保花梨がGI優勝、グランプリ出場を目指して新しい道を切り拓いてくれそうだ。

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すっぴんガールズに恋しました!

松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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