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山田裕仁のスゴいレース回顧

【サマーナイトフェスティバル 回顧】無策ならば強者が勝つのは当然の帰結

2021/07/19 (月) 18:00 10

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがサマーナイトフェスティバル(GII)を振り返ります。

優勝は松浦悠士。今シリーズはオール1着と調子を持ち直した(撮影:島尻譲)

2021年7月18日 函館12R 第17回サマーナイトフェスティバル(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)
②山崎賢人(111期=長崎・28歳)
③松浦悠士(98期=広島・30歳)
④阿竹智史(90期=徳島・39歳)
⑤清水裕友(105期=山口・26歳)
⑥岩本俊介(94期=千葉・37歳)

⑦小倉竜二(77期=徳島・45歳)
⑧山口拳矢(117期=岐阜・25歳)
⑨守澤太志(96期=秋田・35歳)

【初手・並び】
←②⑨(混成)⑥①(混成)⑤③④⑦(中四国)⑧(単騎)

【結果】
1着 ③松浦悠士
2着 ⑧山口拳矢
3着 ④阿竹智史

中四国ラインへの対抗策が注目された決勝戦

 7月18日には函館競輪場で、サマーナイトフェスティバル(GII)の決勝戦が行われています。豪華メンバーによる夏の祭典で、東京オリンピックに出場する脇本雄太選手(94期=福井・32歳)と新田祐大選手(90期=福島・35歳)の姿こそありませんが、それ以外のS級S班はすべて出場。スタンドは初日から、大勢の来場者で賑わっていました。一刻も早く、これが「当たり前」になってほしいものです。

 郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)が準決勝で敗退したのは意外でしたが、最終日の動きを見るに、あまりデキがよくなかったんじゃないでしょうか。また、練習中の落車で左肘を骨折して休養していた平原康多選手(87期=埼玉・39歳)も、なんとか出場にこぎつけたという印象。さらに準決勝での落車もありましたから、本調子に戻してくるまでには、もう少し時間が必要でしょう。

 決勝戦では、「並び」がどうなるかも注目されましたね。まずは4人が決勝戦に勝ち上がった中四国勢ですが、こちらは1つのラインにまとまり、清水裕友選手(105期=山口・26歳)が先頭を任されました。そして、2番手に松浦悠士選手(98期=広島・30歳)。ビッグレースの決勝では初の同乗となった阿竹智史選手(90期=徳島・39歳)と小倉竜二選手(77期=徳島・45歳)の師弟コンビが、その後ろを固めます。

 北日本の佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)と守澤太志選手(96期=秋田・35歳)は、ラインを組まずにあえて別線に。佐藤選手は岩本俊介選手(94期=千葉・37歳)の後ろ、守澤太志選手(96期=秋田・35歳)は山崎賢人選手(111期=長崎・28歳)の後ろで勝負することを選びました。マーク選手らしい選択ですね。そして、唯一単騎でのレースとなったのが、山口拳矢選手(117期=岐阜・25歳)です。

 単騎の選手はいますが、事実上の3分戦。こうなると、“数”で勝る中四国ラインが間違いなく有利ですよね。しかも、中国ゴールデンコンビの後ろを、デキのよさが目立っていた阿竹選手と小倉選手が固めるんですから、“質”の面でも他を圧倒しています。これに他のラインが対抗するには、「中四国ラインがやりたいレースをさせないこと」が必要不可欠だったといえるでしょう。

 それだけに、山崎選手や岩本選手が中四国ラインに勝つために、どのような戦略を練ってくるかが注目された決勝戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは守澤選手が飛び出していきます。その前に山崎選手を迎え入れて、こちらが「前受け」の態勢に。これにはちょっと驚きましたね。そして、3番手に岩本選手、5番手に清水選手が続いて、最後方に山口選手というのが初手の並びです。

最後まで6車が勝負圏内という大混戦に

 赤板(残り2周)の手前から、清水選手が進出を開始。誘導員が離れたところで前を切って、中四国ラインが先頭に立ちます。単騎の山口選手も、これに連動して上昇。先頭にいた山崎選手は素直に引いて、いったんポジションを下げます。そして打鐘の手前から、今度は岩本選手が前を切りにいきますが、清水選手は抵抗せず、素直にポジションを下げて3番手に。しかし、その後はとくに動きがありません。

 流しながらの様子見がしばらく続きましたが、結局は岩本選手が「逃がされる」ようなカタチで、最終周回に突入。清水選手は楽に3番手をキープという、絶好の展開に恵まれました。後方8番手となった山崎選手は、1コーナー手前から仕掛けて捲りにいこうとしますが、他のラインはここまで脚を使わされていないので、余力十分。この相手関係と展開であの位置からでは、いかにも厳しかったですね。

 逆に、労せず最高のポジションが得られた清水選手は、2コーナー過ぎから仕掛けて、先頭をいく岩本選手に襲いかかります。それを待ち構えていた佐藤選手が、鋭いヨコの動きでブロック。これで勢いを殺された清水選手が、態勢を立て直して再び前に迫りますが、そこからの脚に意外なほど勢いがありません。3コーナーでは後続も差を詰めて、全体が一気に凝縮。先頭は、まだ岩本選手です。

 ここでゴチャつくインに切り込んでいったのが、中四国ラインの後ろにいた山口選手。さらに守澤選手も、最後方から内をついて伸びてきます。“相棒”の様子を見ていた松浦選手も、その伸びがイマイチだと悟って、直線の手前から外に出して前へと踏み始めます。インの3番手にいた佐藤選手は、岩本選手と清水選手との間を割ろうと虎視眈々の態勢。6車が勝負圏内という大混戦で、直線に向きました。

 岩本選手が力尽きたところで一瞬は清水選手が先頭に立ちますが、外に出した松浦選手の伸びがいい。これは松浦選手の優勝か……と思った瞬間に、清水選手との間を素晴らしい脚でグングン伸びてきたのが、山口選手です。さらに、松浦選手の後ろにいた阿竹選手も外から迫りますが、こちらは届きそうにない。さあ、先に抜け出した松浦選手か、それとも必死に追う山口選手か。夏の女神が微笑んだのは、松浦選手でした。

最後の直線まで6車が勝負圏内という接戦となった(撮影:島尻譲)

調子を持ち直した松浦、ポテンシャルを見せた山口

 今シリーズはすべて番手戦だったとはいえ、オール1着で優勝を決めた松浦選手は、さすがのひと言。ひと頃は調子を落としていた印象でしたが、かなり持ち直してきましたね。逆に、あの絶好の展開をモノにできなかったのですから、決勝戦まで勝ち上がったとはいえ、清水選手はあまりデキがよくなかったということ。清水選手が前、松浦選手が後ろという並びになったのも、それがあったのでしょう。

 そして、改めてポテンシャルの高さを感じたのが、2着に惜敗した山口選手。ここも中部地区の選手は彼以外に勝ち上がれず、浅井康太選手(90期=三重・37歳)との連係がなかなかうまくいかないのも相変わらずですが、やはり素質は素晴らしいものがあります。勝負どころでの捌きがもう少しスムーズだったら、優勝までありましたよ。父の山口幸二さんもそうでしたが、こういう競輪をさせると本当に巧いんです。

惜敗した山口拳矢も高いポテンシャルを見せた(撮影:島尻譲)

 どういう競輪をしたいのかわかりづらかったのが、山崎選手。おそらくは「岩本選手と清水選手がもがき合う展開になっての捲り一発」を狙っていたのでしょうが、そうならなかった場合に見せ場なく敗れる可能性が高いのは、十分に予測できたはずです。細切れ戦ならばともかく、ここは3分戦でしたからね。いちばん強力なラインに勝たせないための戦略を、もっと考えるべきだったと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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