2024/08/19 (月) 18:00 78
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが平塚競輪場で開催された「オールスター競輪」を振り返ります。
2024年8月18日(日)平塚11R 第67回オールスター競輪(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①郡司浩平(99期=神奈川・33歳)
②古性優作(100期=大阪・33歳)
③佐藤慎太郎(78期=福島・47歳)
④守澤太志(96期=秋田・39歳)
⑤眞杉匠(113期=栃木・25歳)
⑥渡部幸訓(89期=福島・41歳)
⑦窓場千加頼(100期=京都・32歳)
⑧松井宏佑(113期=神奈川・31歳)
⑨新山響平(107期=青森・30歳)
【初手・並び】
←⑦②(近畿)⑧①(南関東)⑨③④⑥(北日本)⑤(単騎)
【結果】
1着 ②古性優作
2着 ⑦窓場千加頼
3着 ⑨新山響平
真夏の祭典・オールスター競輪(GI)が、今年は神奈川県の平塚競輪場で開催。台風の影響が懸念された日もありましたが、順延などもなく開催できたのは本当によかったですよ。初日から手に汗を握るようなアツい戦いの連続で、皆さんも競輪の面白さを存分に味わえたのではないでしょうか。最終日である8月18日には、熾烈な戦いを勝ち抜いた9名の選手による決勝戦が行われました。
初日には、ファン投票の上位者だけが出走するドリームレースが開催。「タテ脚の時代」を象徴するような、じつに激しい戦いとなりました。打鐘前から早々と、新山響平選手(107期=青森・30歳)と北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)による主導権争いが勃発。それにカタがつくと、今度は脇本雄太選手(94期=福井・35歳)と清水裕友選手(105期=山口・29歳)の捲り合戦という、出入りの激しい流れです。
このドリームレースを制したのは、直線で脇本選手と深谷知広選手(96期=静岡・34歳)の間に割って入った松浦悠士選手(98期=広島・33歳)。かなり時間を要しましたが、ようやく本調子を取り戻したという印象でした。そんな松浦選手でしたが、準決勝では残念ながら4着に敗退。古性優作選手(100期=大阪・33歳)にうまく誘い込まれたというか…ここは、古性選手の冷静さや立ち回りの巧さが光りましたね。
脇本選手や、かなり調子がよさそうだった深谷知広選手(96期=静岡・34歳)も勝ち上がりを逃すなど、本当にタフな戦いの連続。決勝戦に勝ち上がった9名は、当然ながら文句なしにデキのいい選手ばかりです。準決勝でライン3名による上位独占を決めたのもあって、北日本勢は4名が決勝戦に進出。あとは2車ラインが2つに単騎が1名というのが、決勝戦のメンバー構成です。
4名が結束した北日本勢の先頭は、新山選手。このシリーズでは持ち前のスピードと粘り強さを存分に発揮し、準決勝も強い内容で逃げ切っています。番手を回るのは佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)で、3番手を守澤太志選手(96期=秋田・39歳)、最後尾を渡部幸訓選手(89期=福島・41歳)が固めるという布陣。車番には恵まれませんでしたが、しっかり主導権を奪って、この“数の利”を生かしたいところです。
南関東勢は、松井宏佑選手(113期=神奈川・31歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)の地元タッグ。準決勝で豪快な捲りをみせた松井選手が、ここは先頭を務めます。そして近畿勢は、ワンツーを決めた準決勝と同じく、窓場千加頼選手(100期=京都・32歳)が前で、古性選手が番手という並びで勝負。好調モードの選手ばかりが揃った決勝戦においても、窓場選手のデキのよさは「超抜」級です。
そして単騎で勝負するのが、昨年の覇者でもある眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)。選択肢が少ない戦いとなるだけに、中団でうまく立ち回りたいところです。北日本が楽に主導権を奪うような展開にしたくないのは、眞杉選手もまったく同じでしょう。デキは上々で自力も十分ですから、単騎でもけっして侮れません。昨年の競輪祭(GI)を快勝したときも、単騎だったわけですからね。
それではそろそろ、決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、内から1番車の郡司選手と2番車の古性選手が飛び出します。内外併走での争いとなりますが、ここは郡司選手が引いて、古性選手がスタートを取りました。これで近畿勢の前受けが決まって、南関東勢は3番手から。北日本勢の先頭である新山選手は5番手からで、最後方に単騎の眞杉選手というのが、初手の並びです。
後方に位置する新山選手が動き出したのは、赤板(残り2周)手前の4コーナーから。赤板通過のタイミングに合わせて、先頭の窓場選手を外から斬りにいきます。窓場選手はスッとは引きませんでしたが、打鐘前のバックストレッチで徐々に位置を下げて、北日本勢の後ろにつけました。後方7番手の松井選手や最後方の眞杉選手はこの間も動かず、レースは打鐘を迎えます。
ここで全体は一列棒状となり、そのままの隊列で打鐘後の2センターを回って、最終ホームも通過。完全に北日本のペースとなり、誰も動かないままで最終1センターも回って、バックストレッチに入ります。ここで、5番手の窓場選手がついに始動。新山選手の逃げはかなりかかっているはずですが、それをものともしない強烈な加速で、グングンと前との距離を詰めていきました。
後方の松井選手や眞杉選手も、この捲りに乗って前との差を詰めますが、先頭までの距離を考えるとかなり厳しい。窓場選手は最終3コーナーから2センターで、佐藤選手の外にまで迫って、前を完全に射程圏に入れます。しかし、佐藤選手がヨコの動きでこれを迎撃。ブロックされた窓場選手は勢いを少し削がれますが、それを乗り越えてさらに踏み込み、先頭で粘る新山選手に再び迫ります。
ここで後続も差を詰めてきて、一団となって最後の直線へ。松井選手は進路がなく、イエローライン付近に出した古性選手のさらに外を回っています。覚悟を決めて内に突っ込んだ眞杉選手は、完全に進路をなくして内で詰まるカタチに。先頭では新山選手がまだ踏ん張っていますが、差しにいった佐藤選手の外から窓場選手が伸びてきて、さらにその外からは古性選手が力強く伸びてきました。
その後ろからは郡司選手や松井選手が迫りますが、こちらは3着争いに持ち込めるかどうか。ゴール直前では内から新山選手、佐藤選手、窓場選手、古性選手がズラッと横並びとなる熾烈な争いとなりましたが、ほんの少しだけ前に出てゴールラインを先頭で駆け抜けたのは…いちばん外の古性選手でした。ファン投票1位の支持に応えて、今年初のビッグ制覇を見事に決めてみせました。
2着は、これが初のGI優出だった窓場選手。この大舞台で、同期でもある古性選手とのワンツーを決められたことは、大きな喜びだったことでしょう。大接戦となった3着争いは、逃げた新山選手がギリギリ残していましたね。外から最後よく伸びた松井選手が4着で、新山選手マークの佐藤選手は5着という結果。眞杉選手は後方のまま最後まで何もできず、最下位に終わっています。
新山選手が意外なほどすんなりと主導権を奪い、その後は最終3コーナーまで一列棒状という淡々とした流れに。窓場選手が引いて5番手に収まり、その後に松井選手が動かなかった時点で、私は「これは北日本勢の勝ちだな」と思いましたよ。このシリーズでの新山選手は、楽に逃げさせたら手がつけられないような強さをみせていましたからね。しかし、窓場選手はそこから逆転してみせた。正直、驚かされました。
そんな捲りをうった窓場選手をゴール前でキッチリ捉えるのですから、古性選手の強さは言うまでもありません。準決勝では窓場選手の2着でしたが、あれは内に誘い込んだ松浦選手の封殺を優先した結果で、窓場選手を差すことを優先していれば1着だったと思いますからね。自力で勝負できるタテ脚があり、さらに番手でもやれるオールラウンダーとしての強みを、このシリーズでも大いに発揮していたと思います。
逃げて3着に残した新山選手も、いい走りをしていました。惜しい結果ではありますが、そう悔しくはなかったのではないでしょうか。ほぼ理想的な展開で敗れたのですから、簡潔にいえば力が足りなかったということ。佐藤選手も、窓場選手の捲りを止めにいく「番手の仕事」を果たした後だったとはいえ、新山選手を差せていませんからね。今日に関しては、近畿勢のほうが上だったということでしょう。
残念だったのは、地元である南関東勢の走り。初手で郡司選手が古性選手に前を譲った件については、いまだにその理由が見えてきません。「窓場選手が突っ張って新山選手ともがき合う展開」、もしくは「窓場選手がイン粘りして隊列が短くなること」を願ったのかもしれませんが、窓場選手が引いてしまうと、自分たちは後方に置かれることになる。他力本願でそんなリスクを取るくらいなら、真っ向勝負を挑んだほうがいいですよ。
それに、前を任された松井選手も、思い切りのよさに欠けるレースをしてしまっている。窓場選手が引いてきたところで、一気にカマシにいく手だってあったと思うんですよ。でも、そこで動けなかった結果、後方に置かれて勝負にもいけなくなった。優勝を意識した結果なのか、どうも攻めきれていないんですよね。近畿勢や北日本勢がいい走りをしていただけに、なおさら不甲斐なさが目立ったというか…。
眞杉選手も、初日のドリームレースでやった失敗を繰り返してしまった。単騎ですから、ラインで勝負する場合よりも「他力本願」な部分が出てしまうのは致し方ないとはいえ、まったく存在感を発揮できなかったのは残念です。戦うステージが上がり、相手関係が厳しくなればなるほど、相手は自分の思うようには動いてくれなくなる。タイトルを手にするためには、自分が道を切り拓くという“覚悟”や“勇気”が不可欠なのです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。