2025/04/23 (水) 18:00 23
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが川崎競輪場で開催された「桜花賞・海老澤清杯」を振り返ります。
2025年4月22日(火)川崎12R 開設76周年記念 桜花賞・海老澤清杯(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
②犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
③脇本雄太(94期=福井・36歳)
④根田空史(94期=千葉・36歳)
⑤吉本卓仁(89期=福岡・41歳)
⑥小森貴大(111期=福井・35歳)
⑦佐々木眞也(117期=神奈川・30歳)
⑧久米康平(100期=徳島・33歳)
⑨松谷秀幸(96期=神奈川・42歳)
【初手・並び】
←②⑧⑤(混成)①⑨⑦(南関東)③⑥(近畿)④(単騎)
【結果】
1着 ①郡司浩平
2着 ⑨松谷秀幸
3着 ⑥小森貴大
まずは、新たに始まった「KEIRIN ADVANCE」を取りあげましょうか。簡潔にいえばガールズケイリンの男子選手バージョンで、ラインの概念とヨコの動きのない、7車での競走。伊東温泉競輪場でのFIと青森競輪場でのFIIからスタートしましたが、まだレースの流れに慣れていないのもあって、選手の走りに手探り感がありましたね。まだしばらくはファンも選手も、「勝ち方」を見つけるための試行錯誤となりそうです。
あとは、舞台となる競輪場による差が非常に大きい。333mバンクの伊東と500mバンクの宇都宮では、まるで別の競技のように感じます。333mバンクでは初手の位置取りがとにかく重要で、そこで失敗すると本当に挽回できません。でもこれが500mバンクになると、道中でのポジション争いや「展開」が生まれて、波乱決着も相応に増えるんですよね。バンク特性が結果に与える影響は、通常の競輪よりも大きいでしょう。
まだまだこれから変わっていくとは思いますが、この新しいカタチの競輪を盛り上げるために、いい部分を伸ばして悪い部分は改善するという、柔軟な姿勢で取り組んでほしいものです。今後もトライアル&エラーを繰り返していけば、もっと面白いものをファンに提供できるようになる。失敗する部分があったとしても意固地にならず、どんどん変えていってほしいですね。
さて話を戻して…4月22日には神奈川県の川崎競輪場で、桜花賞・海老澤清杯(GIII)の決勝戦が行われています。注目を集めるのは当然、ここ川崎がホームバンクである郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)です。S級S班からはそのほかにも、平原康多選手(87期=埼玉・42歳)や脇本雄太選手(94期=福井・36歳)、犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)が出場。強力な機動型が揃いました。
四分戦となった初日特選は、後方から捲る脇本選手の猛追を退けた郡司選手が勝利。最終バックで、先に抜け出した坂井洋選手(115期=栃木・30歳)の番手に入り、脇本選手に併せて踏んでの快勝でした。毎年のことですが、郡司選手はこのシリーズにかける気持ちが本当に強いですよね。身体もしっかり仕上げて、6回目の優勝に向けて万全の態勢で臨んできたという印象です。
郡司選手は二次予選、準決勝でも1着をとって、完全優勝に王手をかけて決勝戦に進出。脇本選手も、2日目にはバンクレコードを更新する上がり10秒5をマークするなど、なかなかいいデキにあるようです。負傷欠場明けで出場の平原選手は、やはり状態面がイマイチなようで、準決勝7着で敗退。落車が続いていることによる「負の連鎖」を、どこかで断ち切ってほしいものですが…。
決勝戦は、三分戦で単騎が1名というメンバー構成に。4名が勝ち上がった南関東勢は、地元・神奈川勢と単騎に分かれての勝負となりました。神奈川勢は、先頭を任されたのが郡司選手で、番手を回るのが初日特選と同じく松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)。そして3番手を、佐々木眞也選手(117期=神奈川・30歳)が固めるという布陣です。車番にも恵まれたここは、好勝負必至でしょうね。
犬伏選手の番手を回るのは同県の久米康平選手(100期=徳島・33歳)で、このラインの最後尾には吉本卓仁(89期=福岡・41歳)がついて、混成ラインを形成します。そして近畿勢は、脇本選手が先頭で、番手が小森貴大選手(111期=福井・35歳)という組み合わせ。この2人は準決勝でも連係していましたが、小森選手は脇本選手の鋭い捲りを、しっかり追走できていました。こちらも当然、侮れません。
そして、根田空史選手(94期=千葉・36歳)は単騎勝負を選択。自力があるとはいえ、各ラインの先頭は輪界トップクラスの機動型ですから、攻め方がなかなか難しいですね。選択肢は少ないですが、うまく中団で立ち回って、チャンスを逃さない走りをしたいところです。主導権を奪いそうなのは犬伏選手ですが、果たしてどうなるのか。それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。
レース開始を告げる号砲が鳴ると、内から1〜3番車が前に出ていきます。1番車の郡司選手が譲って、ここは2番車の犬伏選手がスタートを取りました。犬伏選手が先頭の混成ラインの前受けが決まって、郡司選手は中団4番手から。脇本選手は後方7番手となって、最後尾に単騎の根田選手というのが、初手の並びです。青板(残り3周)周回のバックで、後方の脇本選手が動き、前を抑えにいきました。
内の犬伏選手と外の脇本選手が誘導員の直後で並んだ隊列で、赤板(残り2周)掲示を通過。誘導員が離れたところで、脇本選手は犬伏選手を斬って先頭に立ちます。近畿勢の後ろに切り替えていた郡司選手がそれに続いて、最後尾にいた根田選手も神奈川勢に連動。犬伏選手はゆっくりと自転車を下げていき、打鐘前のバックストレッチで、後方7番手の位置となりました。
再び一列棒状となって、あまりペースが上がらないままで、レースは打鐘を迎えました。いわば脇本選手が「逃がされる」カタチで、郡司選手は3番手という絶好のポジションを確保。後方となった犬伏選手は動かないままで、一気にペースが上がって、隊列が変わらないままで最終ホームに帰ってきます。その後も動きがないままで最終1センターを回り、バックストレッチに入ったところで、3番手の郡司選手が動きました。
前を捲りにいった郡司選手は、いい加速で最終バックで小森選手の外に並び、最終3コーナーでは脇本選手の外に並びかけます。後方の犬伏選手も前との差を詰めてきますが、ポジションはいまだに7番手のまま。最終2センターでは内の脇本選手と外の郡司選手が併走となり、その後ろでは小森選手、松谷選手、佐々木選手などが前を追いすがるという隊列で、最後の直線に向きます。
犬伏選手は、大外を回って必死に差を詰めようとしますが、捲り不発。最後の直線に入ったところで脇本選手の脚が鈍って、郡司選手が単独先頭に立ちます。それを外に出した松谷選手が差しにいって、その後ろからは小森選手と佐々木選手も伸びてきますが、一気に前を捉えきるほどの勢いはなし。優勝争いは、先に抜け出した郡司選手と、それを差そうとする松谷選手の2名に絞られました。
松谷選手が前との差をジリジリと詰めますが、郡司選手の脚は最後まで鈍ることなく、最後のハンドル投げ勝負でも、少しだけ前に出ているのがわかりましたね。接戦をモノにした郡司選手が先頭でゴールラインを駆け抜けて、通算6回目となる地元記念制覇を達成しました。松谷選手が2着で、接戦となった3着争いは内の小森選手が競り勝ち、神奈川勢の確定板独占をなんとか阻んでいます。
デキがいいのはもちろんのこと、各所での判断も冴えていた郡司選手。初手で犬伏選手に譲って前受けさせて、自分が中団を取れた時点で、優勝へのシナリオが見えていたでしょうね。この決勝戦がそうだったように、後ろ攻めの脇本選手が犬伏選手を斬るならば、その後ろについていけば中団を確保できる。犬伏選手がすんなり後方まで下げてくれたことで、さらに有利な展開をモノにすることができました。
犬伏選手が突っ張って脇本選手が後方に戻った場合も、中団が取れる。犬伏選手と脇本選手が主導権争いでもがき合う展開になれば、自分のタイミングで捲りにいけばいい。このメンバー構成を「中団」で立ち回れるメリットは、本当に大きいんですよ。とはいえ、逃げているのがあの脇本選手ですから、それを捲るのは容易ではない。郡司選手の高い能力に、デキのよさや気持ちの強さが噛み合っての優勝といえます。
郡司選手とは対照的に、厳しい展開に終始したのが犬伏選手。脇本選手に斬らせるならば、そこから後方まで下げるのではなく、中団で粘る立ち回りをするべきでしたね。あのタイミングで下げると、得意のカマシで主導権を奪うカタチにもっていくのは難しくなる。ならば、郡司選手にすんなり中団を明け渡すのではなく、自身が位置を主張する走りをせねばなりません。いまの彼は、S級S班なのですから。
脇本選手も、得意とする後方からの捲りではなく「逃がされる」展開となったぶん、キツかったでしょうね。これはレース後に松谷選手もコメントしていましたが、近畿勢が3車ではなく2車ラインだったのも、神奈川勢とって有利に働きました。それでも、かかっている脇本選手の逃げをねじ伏せたのですから、今回については「郡司選手が強かった」ということ。あらゆる面で、郡司選手が一枚上だったと感じました。
最初に述べた「KEIRIN ADVANCE」の始動や、まもなく開催される岐阜・オールガールズクラシック(GI)など、ここからさらに盛り上がっていく競輪の世界。ファン層のさらなる拡充のためには、「わかりやすさ」だけでなく「奥深さ」の部分についても、もっと訴求していかねばなりません。そのためにも、本稿ではもっと丁寧に、選手心理などについても解説していきたいところ。ご要望などもお待ちしています!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。