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前田睦生の感情移入

【不死鳥杯】昨年優勝の脇本雄太不在! どんなドラマが生まれるか、輪史に残る名台詞とともに…

2021/07/07 (水) 12:00 8

熊本の伝説マーカー・森内章之

不死鳥杯にはいつもふさわしい優勝がある

 「不死鳥杯(GIII)」はいくつものドラマを生んだ優勝がある大会だ。
なかでも2005年の森内章之(引退=64期)の優勝が記憶に残っている。大ケガで9ヶ月の欠場があり、輪史に残る名マーカーと呼ばれていた彼でも「大丈夫なのか…」と思われていたシリーズ。
結果は、金子貴志(45歳・愛知=75期)の先行を差し切っての優勝だった。

 森内といえば“競りの名手”としてその名が高かった。ヨコに並ぶと「重い」と言われていた。
決して大柄な体格ではなかったので、そのすごさは“技術”だったのだろう。
すさまじく怖い顔だが、笑顔が鬼のように優しく、私も大好きな選手だった。

 福井の優勝は…と会うたびに話しかけたもので「いや、そんな、大ケガでもなかったんよ〜」。
にじむ顔のシワを今も思い出す。競った分だけ、年輪のように闘いのシワが刻まれた選手だった。

みんなよく知るこの男もまた不死鳥

2009年大会の時の佐藤慎太郎

 2009年度の同大会は思い出深い。優勝は佐藤慎太郎(45歳・福島=78期)。
村上義弘(47歳・京都=73期)ー市田佳寿浩(引退=76期)と並んだラインに注目が集まっていた。村上の番手で、市田が地元記念優勝を決める、というストーリーを多くの人が期待していた。村上の番手で…。

 2008年5月奈良で行われた全プロ記念で佐藤は落車。右くるぶしの剥離骨折、有り体に書けば、足首がもげたような状態になった。再起不能とすらいわれた。特別競輪決勝の常連。どこからでも伸びてくる“シンタロウ”の姿は影を潜めていた。

 現在の輝きとはまるで反対のところにいた。そのシンタロウ、いや、この時は“佐藤”だったか。
何かを失っていた男だった…。

 その佐藤が近畿勢を追う形から伸び切って優勝。不死鳥杯を手にし、『フェニックスシンタロウ』としてまた飛び立っていく。そして、今がある。優勝者の取材をした後、市田の取材をしようと検車場で待っていた…。

「負け続けの人生やろ、立て! 」

2009年大会の時の市田佳寿浩

 市田は検車場に向かってくる場所のどこかで落ち込んでいた。記者は入れないゾーンだったが、写真撮影で入っていた人から、“こんなやり取りをしていた”と後で教えてもらった。座り込んで涙を流していた市田のところに、先行した村上が声をかけたという。

「負け続けの人生やろ、立て! 」

 翌2010年大会の優勝は市田。福井3人、伊原克彦(39歳・福井=91期)ー市田ー渡辺十夢(41歳・福井=85期)で並び、伊原が先行。まくってきたのは村上だった。近畿別線の真っ向勝負。番手から出る市田とあきらめず外でもがく村上の姿は、輪史に残るグレイトフルなシーンだ。

「オレは幸せ者です」

村上義弘の言葉はいつも重い

 度重なるケガや病魔との戦いが市田の歴史。それに真摯に向き合い、戦い続ける背中こそが市田のすべて。不死鳥として、不死鳥杯を手にした姿は燃え盛っていた。「オレは幸せ者です」という言葉の重みはいかほどだったか…。

 2010年の決勝の車券は狙いやすいものだったので、みな勝負していた。近畿の記者で、近畿愛が強い人も勝負していた。
感情的な人で、帰り支度をしている時にノドをひくつかせてこう言った。
「小遣い程度にはなりましたわ」。
しょっちゅう、でんがなまんがな言っているうるさい人だったが、喜びというより涙をこらえるのに必死な感じだった。小さくて太った体をより小さく丸め、震えていた…。

 精一杯の強がりで、格好いい(と思われる)セリフを繰り出していたんだ…。

 今年は現地の取材には行けないが、“不死鳥杯”らしい走りが待っていると思う。
最近は解説者として活躍されている市田さんが、解説者の席で涙を流すシーンもあるだろうか。普通、引退選手には「さん」を付けて書くのだが、今回の前半部分は流れを重んじて敬称略させていただきました。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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