2021/06/14 (月) 18:00 8
現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが国際自転車トラック競技支援競輪(GIII)を振り返ります。
2021年6月13日 松山12R 第13回国際自転車トラック競技支援競輪(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①菊池岳仁(117期=長野・21歳)
②久米康平(100期=徳島・29歳)
③町田太我(117期=広島・20歳)
④吉永好宏(80期=広島・46歳)
⑤齋藤登志信(80期=宮城・48歳)
⑥金子幸央(101期=栃木・28歳)
【初手・並び】
←⑦⑤(北日本)②⑨(混成)①⑥⑧(関東)③④(中国)
【結果】
1着 ③町田太我
2着 ⑥金子幸央
3着 ①菊池岳仁
6月13日(日)は、お昼間には福井で、そして夜には松山ナイターでそれぞれ記念の決勝戦があるという、豪華二本立て。来週に高松宮記念杯競輪(GI)が控えているため、やや手薄ではありましたが、いずれもなかなか面白そうな決勝戦のメンバーとなりましたね。本稿では、ファンの注目度がより高かったであろう、松山競輪場での第13回国際自転車トラック競技支援競輪(GIII)の決勝戦を振り返ります。
なぜ注目を集めたかといえば、競輪選手養成所の同期である菊池岳仁選手(117期=長野・21歳)と町田太我選手(117期=広島・20歳)が、ここでぶつかることになったからです。117期は本当にレベルが高く、つい先日にも山口拳矢選手(117期=岐阜・25歳)が別府記念の決勝戦で、いい走りを見せていました。この期の「誰」が最初に記念を勝つかという話題は、各メディアも盛んに取りあげています。
そんなハイレベルな117期を“飛び級”で卒業した2人のうちの1人が、菊池選手。2019年に制度が変わって、成績がとくに優秀な選手候補生は、早期卒業が可能となったんですね。つまり、菊池選手は117期のエリート的な存在。町田選手もかなり優秀な成績を収めていましたが、それでも当時は「まったくかなわなかった」とのこと。ちなみに、もう1人の早期卒業組は、寺崎浩平選手(117期=福井・27歳)です。
とはいえ、競輪というものは、実際にレースに出るようになってから身につくモノのほうが、はるかに多い。私なんて恥ずかしながら、競輪学校を「85位」で卒業していますからね(笑)。私と同期の神山雄一郎選手(61期=栃木・53歳)は、在校時から断然の首位でしたが、彼のように「デビュー後もトップまで一直線」というケースって、じつはそれほど多くはないんです。
実際に、デビューから現在までに残してきた実績は、菊池選手や寺崎選手よりも、町田選手のほうが上。私も年初に、町田選手を「2021年の注目選手」にあげています。とはいえ、菊池選手にも意地とプライドがある。「同期に目の前で記念を勝たれるわけにはいかない!」とばかりに、ここは主導権を握ろうとする両者のもがき合いになるのではないか、との見方が大勢を占めていましたね。
そして、この展開になると“漁夫の利”がありそうなのが、近藤龍徳選手(101期=愛知・30歳)との即席コンビを選択した久米康平選手(100期=徳島・29歳)と、北日本ラインの先頭を走る坂本貴史選手(94期=青森・32歳)。前が激しくやり合えばやり合うほど、その直後から捲る選手に有利ですからね。調子もなかなかよさそうで、レースの組み立てや立ち回り次第では、上位が争えるとみていました。
スタートの号砲が鳴り、前のポジションを取りにいったのは北日本ライン。3番手に久米選手、5番手に菊池選手が先頭を走る関東ラインで、町田選手は8番手からというのが「初手」の並びです。青板(残り3周)のバックから町田選手がポジションを押し上げていきますが、その動きに合わせて併走するカタチで、菊池選手も前に。内から北日本、関東、中国の3ラインが並んで、赤板を通過します。
誘導員が離れると、まずは菊池選手が坂本選手を「切って」先頭に。ここでいったん動きが落ち着き、菊池選手が流しているところを見逃さず、後方に下げていた町田選手が打鐘前から一気にカマシます。しかし、番手の吉永好宏選手(80期=広島・46歳)はその強烈なダッシュについていけず、町田選手は主導権を奪うも単騎に。先頭が町田選手、少し離れた2番手に菊池選手という態勢で、最終周回に突入しました。
町田選手のハコ(番手)が労せず転がり込んだ菊池選手ですが、彼はそこからも「自力選手の競輪」を貫き通します。最終バック手前から仕掛けて捲りにいこうとしますが、それに合わせて踏んだ町田選手の「掛かり」が非常によく、差が詰まらない。こうなると、後方8番手となった久米選手はさらに厳しい。挽回を期して早めの捲りで追いすがるも、まったく見せ場なく終わってしまいました。
その前にいた坂本選手は5番手から捲って内に突っ込みますが、町田選手を追いすがる菊池選手や、その番手から早めに外へと出した金子幸央選手(101期=栃木・28歳)の脚は鈍らず、進路ができたのも直線に入ってから。最終2センターで、町田選手と関東ラインの優勝争いという態勢となります。あとは、打鐘から全開だった町田選手が、最後まで粘りきれるのかどうか。
そして、町田選手、本当に強かったですね! 最後まで後続を寄せ付けず、振り切って先頭でゴールイン。文句なしの「完勝」で、力の違いをまざまざと見せつけた結果といえるでしょう。2着は、菊池選手の番手から差した金子選手。僅差の3着には、町田選手には完敗するも、最後までいい粘りをみせた菊池選手が入りました。菊池選手にとっては悔しい結果でしたが、現状での力の差がハッキリと出た結果といえます。
見せ場なく終わった久米選手は、「同期が前でもがき合う展開」に決め打ってしまったのが敗因。結果論にはなりますが、菊池選手が前を切ったところをすかさず切りにいって、その後に必ず仕掛けてくる町田選手を迎え入れるべきだったと思います。この組み立てならば、そこから菊池選手が町田選手を叩きにいけば「もがき合いの直後」のポジションとなり、そうならなかった場合も3番手からの競輪となる。勝てるかどうかはともかく、このほうがベターだったのは間違いないですよ。
勝った町田選手については、この決勝戦に関しては何もいうことなし。ただし、後方から一気にカマシて主導権を握るという「自分のカタチ」が、常にうまくいくとは限りません。それ一本で今後も戦っていくとなると、それこそ脇本雄太選手(94期=福井・32歳)と同レベルの脚力が必要になるし、その脇本選手ですらグランプリでは負けている。少なくとも、逃げのパターンを増やすことは絶対に必要です。
現在の競輪で“真”に強いのは、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)や郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)のような「何でもできる」タイプ。今後は脚力だけでなく、レースの組み立てや戦略についても磨きをかけていって、競輪界をリードするような存在にぜひ育ってほしい。この記念制覇で自信をつけた町田選手は、まだまだ強くなります。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。