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山田裕仁のスゴいレース回顧

【オランダ王国友好杯 回顧】山口拳矢選手は今後へ向けて収穫“大”

2021/06/09 (水) 18:00 9

2着に敗れたが郡司浩平(赤・3番車)の強さも目に付いた(撮影:島尻譲)

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがオランダ王国友好杯(GIII)を振り返ります。

2021年6月8日別府12R 開設71周年記念 オランダ王国友好杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松浦悠士(98期=広島・30歳)
②北津留翼(90期=福岡・36歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・30歳)
④園田匠(87期=福岡・39歳)
⑤山口拳矢(117期=岐阜・25歳)
⑥中本匠栄(97期=熊本・34歳)

⑦大槻寛徳(85期=宮城・42歳)
⑧村上博幸(86期=京都・42歳)
⑨守澤太志(96期=秋田・35歳)

【初手・並び】
←②④⑥(九州)①⑦(混成)⑤⑧(中近)③⑨(混成)

【結果】
1着 ⑨守澤太志
2着 ③郡司浩平
3着 ④園田匠

思い切りの良さが出ていた山口拳矢

ようやく本来の思い切りの良さを見せた山口拳矢(撮影:島尻譲)

 6月8日には別府競輪場で、オランダ王国友好杯(GIII)の決勝戦が行われました。このシリーズには、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)、郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)、守澤太志選手(96期=秋田・35歳)と3人のS級S班が出場して、全員が決勝戦へと駒を進めています。このあたりは、さすが競輪界の“横綱”ですね。

 なかでも内容がよかったのが、3連勝で決勝戦まで勝ち上がった郡司選手。準決勝でも、逃げた九州ラインの直後につけて豪快に捲る強い競輪を見せていました。逃げた北津留翼選手(90期=福岡・36歳)も、調子はかなりよかったと思うんですが、それをあっさり捲るんだから強いですよ。そして、レース運びが本当に巧いです。

 村上博幸(86期=京都・42歳)選手も、無傷の3連勝で決勝へと駒を進めたように、かなりいいデキ。その村上選手と決勝戦でコンビを組んだのが、ここでも注目を集めていた山口拳矢選手(117期=岐阜・25歳)です。粒ぞろいの117期においても、そのポテンシャルの高さはナンバーワン級。準決勝では積極的に主導権を握りにいってラインでワンツーを決め、松浦選手を破っています。

 それもあって決勝戦で注目を集めたわけですが、山口選手はもともと、これくらいやれる力を持っているんですよ。ただ、最近は肩に力が入りすぎていたというか、小さくまとまってしまっていたというか。どうも、思い切りのいいレースができなくなっていたんですね。しかし、このシリーズではまるで見違えたように、積極的に先行する競輪をしていました。決勝戦でもこういった走りができれば、好勝負になります。

ダービー王と若武者の「もがき合い」で郡司浩平の展開になったが…

 機動力のある選手がズラリと揃い、しかも細切れ戦にもなった決勝戦。スタートの号砲が鳴っても、「前受け」になるのを嫌って、どのラインも出ていこうとしません。しばらくして、押し出されるように前に行ったのが、北津留選手が先頭を走る地元・九州ラインです。そして、4番手に松浦選手、6番手に山口選手、そして8番手に郡司選手というのが「初手」の並びとなりました。

 レースが動いたのは赤板(残り2周)の手前から。セオリー通りに、最後方にいた郡司選手が前を「切り」にいきますが、その動きに合わせて松浦選手も前に。さらに、誘導員が離れたタイミングで、今度は山口選手が外から一気に踏んで、主導権を奪いにいきます。今度は、3番手に郡司選手、5番手に松浦選手、7番手に北津留選手という並びとなって、打鐘を迎えました。

 ここで、先頭で流しながら後続の様子をうかがっていた山口選手に、松浦選手が一気の強襲をかけます。打鐘から仕掛けて先頭を奪おうとしますが、合わせて踏んだ山口選手に並ぶところまでいくのが精一杯で、併走状態に。ここから最終バックまで、今年のダービー王と若武者が意地でぶつかる「もがき合い」が続くことになります。

 こうなると展開有利なのは、その直後につけていた郡司選手。最終バック手前から仕掛けますが、早くから脚を使わされていた山口選手や松浦選手には、抵抗できるだけの余力がありません。前での「もがき合い」は山口選手に凱歌が上がり、そこから郡司選手に必死に食らいつこうとしますが、郡司選手は外からあっさり捲りきって先頭に。後方で様子見を決め込んでいた九州ラインも、3コーナーから強襲します。

 これは郡司選手で決まりか、と思われましたが、別府バンクの直線は長い。直線に入ると、郡司選手の番手から外に出した守澤選手がいい脚で伸びてきます。後方からは北津留選手や、北津留選手マークの園田匠選手(87期=福岡・39歳)も伸びてきますが、優勝争いまでは厳しい位置。最後は、守澤選手が郡司選手を差し切って1着でゴールに飛び込みました。

 3着は園田選手で、3連単は14,420円という意外なほどの高配当に。守澤選手は、2016年の久留米記念以来となる、久々の記念優勝です。展開が向いて脚がたまっていたとはいえ、あれだけ「掛かって」いた郡司選手を、よく差せたものです。これは素直に、勝った守澤選手を褒めるべきでしょう。今年はなかなか結果を出せずにいましたが、さすがはS級S班。久々に、彼らしい競輪を見せてくれました。

S級S班の力を見せた守澤太志(撮影:島尻譲)

 惜しくも2着に敗れた郡司選手ですが、レース運びはパーフェクト。そもそも、打鐘であのポジションを取っているのが非常に巧いんです。今回は、山口選手と松浦選手のもがき合いになるというベストの展開でしたが、それ以外の展開になっていたとしても、あの位置ならば対応可能ですからね。レースの組み立てが上手になったことで、今の郡司選手は一昔前よりも格段に安定感が出てきています。

9着でも松浦悠士の姿勢は評価したい

 主導権を握るも、前での「もがき合い」になった山口選手は8着に大敗。とはいえ、結果は出せませんでしたが、たいへん収穫が大きいレースだったと思います。あの松浦選手を準決勝で破り、決勝でもバッチバチにやり合って潰せたことは、今後に向けての大きな自信になります。それに、決勝戦でも捲るレースではなく、先行するレースができたのも好印象。「もっと早くからやっとけ」と言いたいのが正直なところですが(笑)。

 そして、最下位に敗れたとはいえ、松浦選手も「さすが」ですよ。本来、あの競輪は松浦選手よりも後ろにいた、北津留選手がやるべき内容なんです。しかし、それを待っていたのでは、自分が後方に置かれる可能性が出てくる。ならば、仕掛けが多少早くなっても自分から動いて、優勝につながるレースをするべきだ、という判断だったのでしょう。

 実際にその通りで、あそこで動かねば優勝はない。それほどデキもよくなかったのでしょうが、それでも常にファンの期待に応えようとするあの姿勢は、全競輪選手が見習うべきものですよ。それに対して、地元開催の記念だったにもかかわらず、積極性に欠ける競輪をしてしまった九州ラインには不満が残ります。3車いるという“数”の有利さを生かすためにも、つぶし合いになるのは覚悟の上で、主導権争いに加わってよかったはずです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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