内からの目ではなく、外からの目で

　先日好プレーのコーナーの方でシェーン・パーキンス(ロシア、オーストラリア)の引退と活躍について紹介した。ではそもそもの海外の選手たちが日本の競輪を走る“短期登録制度”についても触れておこう。昔は『国際競輪』と呼ばれていた。単発で行われたり、シリーズで行われたりと、揺れ動いてきた。

　現在の短期登録制度は半年ほどの登録をし、月に2本ほど走る。競輪選手養成所で実務的な研修を行い、登録完了。FIで一節に2、3人の海外の選手が出走する。勝ち上がりの段階では、別のレースに割り振られる。無論のことだが、強い。つまりそれは予選、準決勝で対戦する日本人選手は苦戦が多くなるということだ。

「3場所連続、予選で外国人選手と対戦。点数が落ちて仕方ない」

　こうした嘆きがあるのも事実。日本人選手の生活にも直結する。しかし、私はこの制度は支持する。
取材をしていて感じるのは、彼らからの視点、立場である。

言葉も通じない、閉鎖的な社会

　何年も参加している選手は慣れているわけだが、当然、1年目、2年目の苦労はある。20歳前後で来日するケースもある。まあ30歳で来ても、初めてなら苦労は一緒だろう。

　日本人からの視点ではなく、彼らからの立場で考えると、単純に“寂しい”、“心細い”という面もある。
開催中は同じ外国人選手と通訳の職員がいるくらいだ。時にはやや好奇の目で見られることもある。自国を出て、そんな環境に挑戦している選手を私は全面的に支持する。

　検車場で何をどうしていいか、またレースでは慣れないブロックに困惑。ナーバスになって落ち込む姿もよく見てきた。『“ライン”とは何だろう』。苦しみ慣れずに再来日を希望しない選手もいる。

　ただし今の時代、多くの選手はすぐに日本になじむ。日本の選手たちも海外の選手に声をかけるし、ラインで決まった時に一緒に喜びをともにするシーンもある。これは、美しい。

トルーマンとバベク

　最近の選手になるが、ジョセフ・トルーマン(イギリス)とトマシュ・バベク(チェコ)について少し取り上げてみよう。
トルーマンは若くして来日。おどおどしていた。「競輪、知ってんのかいな。チームスプリントの3走？ 長い距離、踏むん？ 」。マークする選手たちも半信半疑…。

　ジョセフ、という名前なので愛称はジョー。
心細そうにしていたので「ジョー！ 」と声をかけると、ニッコリ笑ってくれた。競輪をすぐに覚え、いつぞやは軽自動車を窮屈そうに運転、窓から手を振ってくれ、笑っていた。ジョーはいつしか“日本を大事にしたい”と思ってくれるようになった。

　バベクはチェコの英雄。交通事故で負った大事故から復帰し、デニス・ドミトリエフ(ロシア)から日本の競輪の話を聞き、「チェコに競輪を伝えたい」と来日した。競輪での成績は、他の選手よりは劣ったが、常に勉強し、チェコで自転車競技が盛り上がるためにと、いろんなものを吸収しようとしていた。

競輪のポテンシャル

　『ほかにこんな舞台ある？ 』と思う。生身で日本の競輪を体験し、自国に、世界に伝えられる。五輪の開催シーズンはこの制度はないこと、またもちろん今ではコロナ禍にあり、しばらくはできないことはある。しかし、この制度が今後も生きて、世界と日本が競輪でつながっていけることは間違いない。

　私の夢は、記者引退後、海外で始まった競輪を見に行くことだ(過去、デンマークでは行われていた。現在は韓国のみ)。しばらく前になるが、テオ・ボス(オランダ)に「コミッショナーになって、海外で作ってよ」と伝えたら「ヨーロッパはギャンブルには厳しいんだよね…」とこぼしていたが…頼むよ！！

Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
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