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山田裕仁のスゴいレース回顧

【不死鳥杯 回顧】脇本雄太がみせた“盤石”のレース

2024/07/24 (水) 18:00 23

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが福井競輪場で開催された「不死鳥杯」を振り返ります。

地元記念で6度目の優勝を果たした脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

2024年7月23日(火)福井12R 開設74周年記念 不死鳥杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①脇本雄太(94期=福井・35歳)
②新山響平(107期=青森・30歳)
③山田庸平(94期=佐賀・36歳)
④根田空史(94期=千葉・36歳)
⑤竹内智彦(84期=宮城・47歳)
⑥藤井昭吾(99期=滋賀・38歳)
⑦稲川翔(90期=大阪・39歳)
⑧脇本勇希(115期=福井・25歳)
⑨東口善朋(85期=和歌山・44歳)

【初手・並び】
←⑧①⑦⑨⑥(近畿)②⑤(北日本)③(単騎)④(単騎)

【結果】
1着 ①脇本雄太
2着 ③山田庸平
3着 ⑦稲川翔

地元・脇本兄弟が揃って勝ち上がり 決勝での連係実現

 7月23日には福井競輪場で、不死鳥杯(GIII)の決勝戦が行われています。日本中で「暑さ」についてのニュースが流れていますが、この日の福井バンクも35度以上というかなりの暑さに。シリーズを通して好天に恵まれたとはいえ、ここまで暑いと選手は本当に大変ですよ。まあ、本当に大変なのはレースよりも「練習」で、平塚・オールスター競輪(GI)へ向けての調整には、かなり苦労するでしょうね。

 いまは公道を走るトレーニングを減らして、そのぶん競輪場や屋内でのトレーニングに重点を置く選手が増えていますが、それでも暑いものは暑い。涼しい屋内と灼熱のバンクとの温度差で身体がだるくなるケースも多く、シリーズ開催中はそれに悩まされる選手も多いと聞きます。選手の調子について、いつも以上に気にかけておく必要がある時期かもしれないですね。

 このシリーズでの注目は、やはり地元のエースである脇本雄太選手(94期=福井・35歳)。さらにS級S班からは新山響平選手(107期=青森・30歳)と眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)も出場と、日本を代表する強力な機動型が顔を揃えています。豪華メンバーとなった初日特選は、脇本雄太選手が寺崎浩平選手(117期=福井・30歳)との連係を外すも、そこから自力で捲って1着。2着も捲った眞杉選手と、S級S班のワンツー決着でした。

 記念らしい番組面の有利さもあって、ここは地元である福井勢や、地元地区である近畿勢がしっかり結果を出していましたね。脇本雄太選手のデキもいいようで、二次予選と準決勝でも1着をとって、完全優勝に王手をかけて決勝戦に。その弟である脇本勇希(115期=福井・25歳)が勝ち上がったのも、大きな話題となりました。眞杉選手は、残念ながら準決勝で8着に大敗し、勝ち上がりを逃しています。

脇本勇希は地元記念決勝で兄・雄太との連係が実現(写真提供:チャリ・ロト)

近畿5車結束で「二段駆け」必至 別線・単騎勢の戦略は

 結果的に近畿勢は5名が決勝戦に駒を進めて、ひとつのラインに結束。その先頭を任されたのは脇本勇希選手で、番手を回るのが脇本雄太選手。3番手は稲川翔選手(90期=大阪・39歳)で、4番手に東口善朋選手(85期=和歌山・44歳)。そして最後尾を固めるのが、藤井昭吾選手(99期=滋賀・38歳)です。「二段駆け」がミエミエの並びですから、他のラインはそれをいかに阻むかがテーマとなるでしょう。

 2名が勝ち上がった北日本勢は、新山選手が先頭で、番手に竹内智彦選手(84期=宮城・47歳)という組み合わせ。いかんせん多勢に無勢ですから、強力な自力を持つ新山選手であっても、ここは選択肢が少ないんですよね。地元記念の舞台で、福井の選手が先頭と番手を走るラインを捌きにいくのは、やはり難しい。となると新山選手は、正攻法で立ち向かってくる可能性が高いはずです。

 単騎で勝負するのが山田庸平選手(94期=佐賀・36歳)と根田空史選手(94期=千葉・36歳)ですが、いずれも脇本雄太選手の「同期」なんですよ。そうなると、先ほどの北日本ラインと同様、ここで無茶な仕掛けをしてくるとは考えづらい。山田選手は北日本勢の後ろから一発を狙い、根田選手は後方からの一気のカマシを選ぶのではないか…というのが、レース前の見立てでした。

前受けした近畿勢、脇本勇希はS班・新山響平を全力で迎え撃つ

 さまざまな面からここは近畿勢が圧倒的に有利で、脇本雄太選手の「相手探し」といった様相となった決勝戦。それではそろそろ、その回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、素晴らしい飛び出しをみせたのが8番車の脇本勇希選手。自らスタートを取って、近畿勢の前受けを確定させます。新山選手は6番手からで、山田選手が8番手、根田選手が9番手というのが、初手の並びです。

脇本勇希がSを取り近畿5車が前受け(写真提供:チャリ・ロト)
決勝で連係する脇本兄弟。弟・勇希(桃)の番手が兄・雄太(白)(写真提供:チャリ・ロト)

 後ろ攻めとなった新山選手が動いたのは、赤板(残り2周)の手前から。脇本勇希選手が突っ張るのを見越して、少し遅めに仕掛けましたね。

赤板の少し手前から新山響平(黒、黄の前)が仕掛ける(写真提供:チャリ・ロト)

 先頭誘導員が離れると同時に前へと踏み込んだ脇本勇希選手を、外から新山選手が強襲。この動きに山田選手も連動して、赤板後の1センターでは3車で近畿勢の外に並びかけます。脇本勇希選手も負けじと応戦して、両者が先頭に並んでバックストレッチに入りました。

赤板過ぎ。脇本勇希(桃)は突っ張るも新山響平(黒)に叩かれる(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし、スピードで勝るのはやはり新山選手。脇本勇希選手も必死で食い下がりますが、それを叩いた新山選手が少しだけ前に出たところで、レースは打鐘を迎えます。打鐘後の2センターでは、連動した山田選手を含む3車が前に出切って、脇本勇希選手はここで失速。脇本雄太選手は山田選手の後ろへとスムーズに切り替えて、4番手のポジションで最終ホームに帰ってきました。

最終Hは新山-竹内の北日本勢に単騎の山田庸平(赤)が続く(写真提供:チャリ・ロト)

最終Bから捲った脇本雄太が圧勝で完全V

 失速した脇本勇希選手以外が、ほぼ一列棒状となって最終1センターを回り、バックストレッチへ。脇本雄太選手は山田選手との車間を少しきって、いつでも捲りにいける態勢を整えつつ追走します。そして、バックストレッチに入ったところで、3番手の山田選手が先捲り。これに合わせて、脇本雄太選手も最終バック手前から仕掛けて、前を捲りにいきました。

最終2コーナー過ぎ。山田(赤)と車間を切り追走する脇本雄太(白)(写真提供:チャリ・ロト)

 先に捲った山田選手がいい加速で先頭の新山選手に迫りますが、最終3コーナー手前で、脇本雄太選手もその直後まで接近。しかし、その加速に番手の稲川選手がついていけず、ここで離れてしまいます。山田選手が先頭の新山選手を捉えたところで、脇本雄太選手も外から猛追。連係を外してしまった稲川選手と、その後ろを回る東口選手や藤井選手は、進路を内にとって前を追います。

 先頭では内の山田選手と外の脇本雄太選手の併走が続きましたが、最終2センターでは脇本雄太選手が少しだけ前に出て、最後の直線へ。新山選手や竹内選手はここで力尽きて、内に進路をとった稲川選手が、山田選手の後ろまで差を詰めてきました。単騎の根田選手は、いまだに後方のまま。これでレースは完全に、先捲りをうった山田選手と近畿勢との戦いとなりました。

 直線の入り口でグイッと伸びた脇本雄太選手が、山田選手を捲りきって先頭に。しかし、脇本雄太選手に抜かれてからも、山田選手はいい踏ん張りをみせます。その後方からは、稲川選手と東口選手が前に追いすがりますが、脇本雄太選手とは勢いが違いすぎる。こちらは、山田選手を捉えられるかどうかでしょう。脇本雄太選手は、ゴール前では後続に大きな差をつけ、そのままゴールラインを駆け抜けました。

脇本雄太(白)が2着に3車身差をつけて1着でゴール(写真提供:チャリ・ロト)

“最強”脇本雄太のオールスター競輪に期待

 2着には山田選手が粘りきり、稲川選手と東口選手の接戦となった3着争いは、稲川選手が競り勝っています。2車単が3番人気の850円、3連単が5番人気の3,140円という堅い決着で、脇本勇希選手が新山選手に叩かれた後も冷静に立ち回った、脇本雄太選手の「完勝」といえる内容。これで通算6度目となる地元記念の優勝で、昨年や一昨年の悔しさを、ここで見事に晴らしましたね。

 北日本勢の後ろから、力強い先捲りで勝負にいった山田選手の走りも素晴らしかった。新山選手の主導権という展開を読み切っての立ち回りで、最善を尽くすも、最後は脇本雄太選手にねじ伏せられたという結果ですね。正攻法で勝負して主導権を奪いきった新山選手も、選択肢が少ないなかで、自分がやるべきことをしっかりやっている。8着という結果に終わってしまいましたが、これは致し方なしですよ。

 突っ張りきるつもりで臨むも、打鐘前に新山選手に叩かれてしまった脇本勇希選手については、トップクラスとの力の差を知るいい経験になったことでしょう。記念の決勝での兄弟連係が叶ったことも含めて、収穫の大きなシリーズになったと思います。そして優勝した脇本雄太選手については、このいいデキをぜひ維持して、オールスター競輪に向かってほしいもの。“最強”の二文字を背負う者らしい、力強い走りを期待したいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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